3
ユウさんが、帰ってこない? なぜ?
ソラはまだ言葉の意味を取り損ねている。取り損ねている、というよりは、受け取りたくない、理解したくないのだ。ごく簡単な、その言葉を。
イズミはしばらくじっとソラを見つめていたけれど、にやりと口元を緩めた。それは、色悪、と言っていいような、イズミお得意の表情だった。世間知らずのソラをからかうときによく見せる顔。ただ、どうしてもそこには、無理をしている色があったのは確かだ。
ソラは、そのイズミの顔を見て、自分の心がすっと平静を取り戻していくのを感じた。イズミが追いつめられているのを見ると、反対にソラは落ち着いた。ソラがいなければ、膝を抱えて強く爪でも噛んでいそうな、イズミの切迫感。
「……なにがあったんですか?」
ソラの言葉は、静かだった。完全に、いつも通りと言ってよかった。その声を聞いて、イズミは意外そうに眉をしかめた。
「薄情な子。」
揶揄するようなセリフにも、いつものようなキレがない。ソラは、イズミに掴まれている腕をそっと取り返しながら、首を傾げた。
「薄情っていうか……永遠はないって、言ったのはイズミさんじゃないですか。」
言われたイズミが、軽く唇を噛んだ。動揺する自分を恥じるような仕草だった。
「じゃあ、ユウになにがあったか、知りたくないの?」
「いや、それとこれと話が別ですけど。」
知りたいです、と、ソラは呟いて少し笑った。笑えている自分の存在が、平静をなんとか支えていた。
かわいくない子、と言いながら、イズミが、ぼすん、と勢いよくソファに身を沈めた。ソラは立ったまま、じっとイズミが口を開くのを待った。イズミはしばらく、斜め上当たりを見上げ、考えをめぐらしているようだった。自分を傷つけないような言葉を探してくれているのかもしれない、と、ソラは思った。イズミのそういう繊細さが分かるくらいには、顔を合わせていた。
やがてイズミが、ゆっくりと口を開く。
「昔ね、俺とユウは同じ孤児院にいたんだけど、そこの院長がね、最近まで海外にいたの。それが、帰ってきた。」
ソラは、イズミの言葉を反芻しながら、瞬きを繰り返した。そのどこが問題なのかが、分からなかったのだ。
「……つまり、ユウさんは、その院長さんのところに?」
よく分からないなりに問うてみれば、イズミは小さく頷いた。その微妙な表情を見て、ソラはイズミの言いたいことを理解できた気がした。
「……寝てたんですか、ユウさんと、院長さん。」
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