ケーキがずらりと並んだショーウィンドウの前で、ソラは固まってしまった。これまで、生活必需品以外を選んで購入するという経験がなかったので、きらきらと小さく、その割に高価なケーキたちの前で、なにをどう選べばいいのかもわからず硬直してしまったのだ。

 「チョコが好き? それともクリーム?」

 見かねたユウが助け舟を出してくれても、それにも上手く答えられなかった。チョコもクリームも、好きとか嫌いとか言うほど食べたことがない。

 「見た目が好きなのにしたら?」

 ユウが、ショーウインドーを覗き込んでいた視線をソラに向け、ぽん、と彼の肩を叩いた。

 じゃあ、これ、と、ソラは、おそるおそる、一番近くにあった白いケーキを指さした。するとユウは、すぐに頷いて、そのケーキを二つ買った。

 ソラは、そっと持ってね、と、ユウに念を押されたケーキの箱を抱いて、部屋までの道をそわそわと歩いた。

 部屋に戻るとすぐに、ユウがティーバックの紅茶を入れてくれた。ソファに並んで座り、本を片付けてからケーキの箱をあける。

 「……きれい。」

 ソラは、思わずそう呟いた。白いクリームに覆われ、きらきらのゼリーを飾り付けられた苺のショートケーキは、思わずそう呟いてしまうだけの魅力を持って、箱の中に鎮座していた。

 「よかった。」

 ユウは微笑んで、皿の上にケーキを乗せ、ソラの前に丁寧な仕草で置いた。

 「漢字の練習、よく頑張ったね。」

 ユウの白いてのひらが、ソラの髪を静かに撫でた。15歳の少年にするには、いささか不釣り合いな仕草だと思ったソラは、自分が年齢を偽っていることを、心苦しく思った。15歳。実年齢を知られれば、この家を追い出されるのではないかと思って怯えている自分がいた。

 「ありがとう、ございます。」

 声が、少しだけ震えた。ユウは、気が付かないふりをしてくれた。そして、二人がショートケーキにフォークをつけたところで、玄関のチャイムが鳴った。

 「誰だろ?」

 きょとんと、ユウが首を傾げた。この部屋に客が来たことは、ソラがここに来てから一度もなかった。

 「ちょっと待っててね、見てくる。」

 ユウがソファから立ち上がり、急ぎ足で玄関へ出ていく。ソラは、警戒しながらテーブルに皿を置き、じっと物音を探った。ユウは、どうしたって不用心なところがある。しつこい客がユウの後をつけてこの部屋の場所を知ってやってきた、なんてことも、あるかもしれない。

 玄関のドアが開く低い音がして、その後ユウが、なにか言うのが分かった。声が潜められていて、内容までは聞き取れない。そしてその後、ソラの知らない男の声が続く。

 「新しい男、作ったらしいね。見に来ちゃったよ。」

 男? なんのことだろう、と首を傾げたソラの耳に、ユウの少し慌てたような声が突き刺さる。

 「それ、弟。」


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