激情励起デザイア・ボッツ

ガリアンデル

序幕 躍動する玩具

 荒廃したビル群、吹き抜ける砂塵の風──響く重厚な金属音。

 ビルとビルの合間に影を落としながら空を疾走るモノがあった。

 背部から青い炎を発し、飛行するそれは人の形をしていながら茶褐色の鉄の塊の様にも見え、凄まじい速度でビルの合間を抜けていく。

 それは完全な人型ロボットであった。

 茶褐色の機体ロボット視界モニターに反応。赤枠の四角いサイトが砂塵の中に標的を発見する。即座に右腕に装備したロングライフルを構え、射撃。銃口から光学武装へと転換された〈デザイア粒子〉の黄色の閃光が放たれると同時に砂塵の中へと突撃。 

 その時、茶褐色の機体の下方から複数の槍が茶褐色の機体の左腕部、右脚部を貫いた!

 それが槍を模した敵機の足だと判断した茶褐色の機体がバーニアを蒸して離脱を試みるが、正常な動作へと至らない。直後、


『機体損傷 機体損傷』


 茶褐色の機体から警告メッセージが発せられる。

 

 離脱を諦めた茶褐色の機体は露出した破損部位から粒子を迸らせながら軋みを上げる機体を強引に動かし右腕を持ち上げた。最後の抵抗と言わんばかりに槍の出元へとライフルを向けるが、直後背後から忍び寄った別の槍が茶褐色の機体の胸部を貫いた。


『機能停止 機能停止』


 そのメッセージと共に荒廃した大地全域にブザーか鳴り響いた。


『Winner デザートクラーケン』


 機械音声が勝利者の名前を告げると周囲の景色が崩壊を始めた。荒廃した大地は電子めいた煌めきと共に殺風景な機械の舞台の姿を現す。今まであった景色が現象も架空の場所だった事が示される。

 そしてさっきまで躍動していた人型機械も今は出来の良い玩具の様相で舞台の上にあったが、破壊された箇所は現実に壊れていた。

 横たえた茶褐色の機体の前には勝利者であるデザートクラーケンと呼ばれた機体の姿があり、こちらも玩具じみた様相でそこにあった。


「俺の勝ちだ!」


 勝ち誇った声の主がデザートクラーケンの機体を掴み上げる。


 そう、さっきまでの戦いは真に玩具同士を戦わせていたのである。だが単なるゴッコ遊びでは無い。


〈デザイア・ボッツ〉


 それは新時代の金属〈デザイアメタル〉によって作られたロボットであり、感情に呼応して動く最新の技術が用いられた最先端の玩具である。


 そして今行われていたのは各々が作り上げたデザイア・ボッツ同士を戦わせる競技〈ボッツ・ファイト〉。


 ボッツ・ファイトは世界中で楽しまれ、世界大会が催される程多くの人に愛されている。


 今や一人一人がそれぞれ唯一のボッツを持つと言っても過言では無いほどにまで世間に浸透している。


 ……しかしここに、ボッツを持たない少年が一人いる。


 黒い髪、黒い瞳、感情が希薄な大人しい少年だ。

 常にヘッドホンをして世間との関わりを好まない彼はボッツへの関心も薄かった。


 彼の名前は〈士門ハジメ〉


 この物語は彼がボッツと共に成長していく物語である。

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