第14話 ~圧縮系配信者始めました。~
< 美瑠
”今からそっち行くね~【ダッシュスタンプ】”
”了解!”
”ところで今日の調子はどう?”
”う~んまぁまぁかな……”
”何か心配事でもあるの?”
”ダンジョンに行くって事がもう一つの心配事かな”
”親に楽させる~とか言って躊躇してるの?”
”そんな事、まぁ言ったような気もするけど、私Tyowiterに上がってた動画観ちゃって”
”あーあの探索者の奴ね”
”うん、そのせいでダンジョンに中々行けなくて”
”だから資格取ったけどダンジョンに潜って無かったんだ”
”美瑠は初めてダンジョンに行った時どう思った?”
”うーん、私は憧れに対しては全力で挑むタイプだからあまり深く考えて無かったかな”
”なーんか能天気よね”
”それってバカにしてる?”
”馬鹿にしてないよ!ただ羨ましいってだけ”
”ふーん…………”
”とりあえず家で待ってるから”
”急ぎます!”
「はぁ……いよいよか。緊張して来た……えぇと道具は揃ってるし、ちょっと高かったけど初期投資としてこの短剣も買ったし、きっと大丈夫よね」
正直まだ行きたくない気持ちもあるけれど、やっぱり行かなくちゃ、何事も最初の一歩はを踏み出すのは難しいって言うしね。
ってそんなこと考えている間に呼び鈴が鳴った、きっと美瑠かな。
「や、志穂」
「結構速かったね」
「まだ準備終わって無いとか?」
「そんなことないよ。じゃ行こっか」
!
「じゃ今回は告知の通り、友達の……」
「えっと、志穂です」
「ちょちょっ本名じゃなくて、なんかないの?」
あ、確かに……インターネットって真面目に本名名乗るところじゃないか、う~んどうしよう。
「えーっと……」
あーそういえば昔見てた教育番組で、アッシュ君っていう圧縮が好きなキャラクターがいたな…………よし、それにしよ。
「アッシュ君です」
”アッシュ君……教育番組でいたよなそんな名前のキャラ”
”さては能力圧縮だな”
”アッシュ君なつ”
私がそう名乗ると美瑠の空中カメラから、宙に投影されたホログラムのコメント欄が一斉に流れてく……って一瞬にして元ネタ特定されてる。
なんか能力もバレてるし……私も配信してみようかなって思った時に、あらかじめチャンネル名決めとけば良かった。
「ア、アッシュ君……今日はどこに来てるのかな~?」
「ふふっご、ごめん……だははっなんかすっごい教育番組っぽい」
”だははて”
”乙女がしちゃいけませんよその笑い方”
”確かに今のオーガちゃん教育番組のお姉さんだった”
”オーガお姉ちゃんは今日はどこに来ているの?”
”友達がポッと配信に出てくるの身内のDtube見てるみたいで面白い”
お、乙女がしちゃいけない笑いってなんだよ!確かに自分でも変な笑い方してるなって思ってたけど、それは行っちゃいけないでしょう。
「えぇっと今日は
「やじゃくやま?どういう意味なのかな」
「漢字の通り夜は寂しい山ってことだね」
「ま~た適当言ってない?」
”夜寂山(やじゃくやま)は昭和の中期に近隣の地主が付けた名前らしい”
”夜は寂しいよね”
”なんですぐ情報が出て来るんだよ…………”
”暗いダンジョンって……事!?”
”その地主確か有名人だったよな”
”
「へ~どうでもいいね」
”お、恐ろしい子!”
”知識垂れ流しおじさんは図鑑片付けましょうね~”
”たまにためになるから……”
「み、オーガちゃんってたまに毒舌だよね」
「オーガちゃ――まぁいいか、じゃあダンジョン行きましょ~」
「ふぅ~緊張してきた~」
”頑張ってアッシュ君!”
”ファイ!”
”いつ聞いても名前面白い”
”奥に見えるのが夜寂山か?”
”いつ見ても某クラフトゲーのゲートなんだよな”
「さてお邪魔しますっと……空気さぶっ」
「外の蒸し暑さが一気に無くなった……ダンジョンって不思議だね~」
恐る恐るゲートをくぐってダンジョンの中に入ると、すぐ気温の変化に気付き、それと同時にあたりが薄暗くなったのが視覚的に分かった。
ダンジョン内は森のような場所で、木々はざわめき青白い光沢を放っていた。
そしてやっぱりダンジョンってのは別世界なんだなと思うと同時に、あの映像がフラッシュバックする。
「分かる。私も最初は驚いてばっかだった」
「ふぅ、流石に入ってすぐ魔物がいるわけじゃないんだね」
「未発見のダンジョンは普通にあるらしいけどね。やっぱある程度探索されたダンジョンは大抵いないよ」
「オーガちゃんはそういう経験あるの?」
「うーんまだないかな。おばあちゃんならよく経験してそうだけど」
「あ~オーガちゃんのおばあちゃんってダンジョン探索者だったね」
「まぁ普通の探索者じゃないけどねっと、魔物発見」
美瑠と話しながらダンジョンの奥へと進んで行くと、ダンジョン定番ゴブリンが現れた。
「さ~てアッシュ君のお披露目会です」
「う、上手くできるかな」
「大丈夫だって、いざとなったら私が斬るから」
「頼もしい限り」
”成長したわね”
”頼もしい!”
”か、かっこいい”
ゴブリンはこちらにまだ気づいていないらしく、私は手のひらを前に突き出してゴブリンの頭を注視、それを握るように手を閉じると、狙いとは違う手のひらから数メートル先の木が爆発した。
その音でこちらに気付いたゴブリンは、私と目が合い、棍棒を両手で握りしめてじりじりと間合いを詰めて来る。
「ヤ、ヤバい!外しちゃった……」
「相手は警戒してる、今がチャンスだよ!」
”爆発系だったのか”
”可愛い二人の話し声と森の葉音でASMR楽しんでたら耳が無くなりました”
”びっくりした”
”てっきり能力圧縮だと思ってた”
「もう一回!」
あぁダメだ……やっぱり生き物にはどうしても使えないや。
「ごめんオーガちゃん、頼んでいい?」
「アイアイサー」
美瑠は瞬く間にゴブリンに肉薄して首を掻き切った。
首はゴロッと地面に落ちて、光を失った目は空を見上げていた。
「け、結構平気かも……」
「でしょ、ゴキブリ潰した時の嫌悪感程度だよね」
”お、恐ろしい子!”
”なんかわかる”
”完全に虫潰した感だよな”
「ていうかごめん、私生き物にこの能力使えないんだよね」
「そういう効果なの?」
「いや、普通に……昔のトラウマでダメなんだ。今は精神的には大丈夫なんだけど、どうしても能力使えなくて」
「そうだったんだ。なんかごめん、私が連れ出したからだよね」
「いや、そんなことないよ。これは私の問題だから」
”闇抱え少女やな”
”確かに生き物爆発させるのは躊躇するよな”
”俺だったらトラウマなくても生き物に向けられないと思う”
「まぁ気にしないで、私この短剣で援護するから」
「…………」
「あーもう!気を落とすなかれ!ちゃっちゃとダンジョン攻略しよ~……ね?」
「分かったよ」
!
あれから一時間たったところで今日のダンジョン攻略は終了することになった。
「じゃあ今回も見てくれてありがとうございました」
「ありがとうござました!」
「はい、終わり。ダンジョン配信どうだった?」
「面白かったよ!コメントの反応とかも見てて楽しかったよ」
実際そうだ、私達の会話にすぐレスポンスしてくれるし、なんか思ったよりも気分が良いものだった。
「それならよかった」
「ダンジョンって面白いね。幻想的な雰囲気多いし景色が良い!」
「ダンジョン写真家もいるくらいだからね。危険なトゲにはバラがあるだっけ?」
「綺麗な花には棘があるでしょ?それだと意味不明だよ」
「あーそれそれ、ふぅ~疲れたね」
「なんかわざとらしい……またいつものカフェ行きますか」
「やたー!」
こうして初めてのダンジョン探索兼ダンジョン配信が無事終了した。
だけど、このままだと私は足手まといのまま、美瑠も有名人になったしこうして一緒に配信できるのも数回程度かもしれない、その間に私はトラウマを克服してゴブリンでも良いから倒せるようにしておかないと。
「先行ってるよ~」
「う~ん今行くっ!?……いった」
美瑠がゲートの外に出て、私もダンジョンの外に出ようとしたら、なぜかそこは壁になっていて思い切り身体を打ち付けてしまった。
「あれ、ど、どうしよう……」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます