第7話 ~極度の緊張はキャラ崩壊を起こします~

「とりあえずダンジョンの奥目指して!張り切って行きまっしょーい!」


「わ、わーい!」


 ”なんかぎこちないwww”

 ”テンション格差に風邪ひくww”

 ”行きまっしょーーい!”


 そう声を張り上げて、元気良く浮遊カメラと一緒にダンジョンの奥に走っていく彼女は、今回初めてのコラボ相手兼私の推しである。


 確かに彼女の目の前でオーガを討伐したが、なぜコラボにまで進んだのかは私も良く解らない、が1つ理由を上げるならば、彼女の日常全てをノリで乗り切る姿勢があると思う。


 きっとD猫じゃなかったら一時のバズで終わってたかもしれない、いや今回のコラボで転んでしまえばきっとそうなるだろうが、だからこそ阻止するために私は緊張している場合では無いのだ。


「まず1匹目!そ~してっっ2匹目!」


 華麗に敵を倒していく彼女の姿はいつ見ても――


「かっこいい……」


 ”解る”

 ”それな!”

 ”完全に視聴者wwww”

 ”オーガちゃんの良いとこ見てみたい!”


「はっ……」


 そうだ、今配信中なんだ……こんなこと自分の中じゃ有り得な過ぎて、コメントの通り完全に視聴者だった。


 今私は配信者側なのに、やっぱりまだ視聴者だった時の空気感が染みついてる……こんなんじゃダメなのに、このままじゃ一時のバズで終わっちゃう!


 それでもすぐには食いつけずにD猫と雑談しながらゴブリンなどを討伐していく、やはりダンジョン配信と言えばこのほのぼの~……ゴブリンとか殺してほのぼの?いや私がやりたいのはほのぼのダンジョン配信……


 そこで思い出す苦痛不満の数々、そしてダンジョンそのものの話題のシビアさや脅威……もしかしなくともダンジョン配信でほのぼのする要素無し?


 いやダンジョンにも可愛い魔物いるし、多分その子たちと上手く絡めばすっごくほのぼのしくなるはず……ガワが可愛いだけの肉食獣ばっかか……


「ところでなんでオーガちゃんはダンジョン配信をやろうと思ったの?」


「えと、そもそもダンジョン配信というのに小さい頃から憧れてて、それで私も今年高校生になって資格が取れるような歳になったので、やってみようと思いました」


「志望動機かよ……あ、いやいやなんでもないよー!」


 ”今年始めてオーガ倒してたのかよ……”

 ”同い年の女の子がオーガを倒したと聞いて”

 ”マジモンのオーガだったのかも”

 ”娘くらいの背格好だなって思ってたけどまさか娘より年下だなんて”


「D猫さんはなんでダンジョン配信始めたの?」


「ウチは……ううん、ウチも憧れてかな……てかD猫さんってなんかこそばゆいからD猫でいいよ!」


「いいの?」


「いいよいいよ!だってもう友達みたいなものでしょ!」


 心の中では思いっ切り呼び捨てだったけど、やはり本人からそう言ってもらえると気持ちも軽いし、しかも私のこと友達だと思ってくれてる!


 私に討伐されてくれたオーガには感謝しとかなきゃな、アイツのおかげで配信始めてすぐにD猫ともコラボできたしね。


「あ、オーガちゃん見て!ゴブリンの村じゃない?」


「ほんとだ……オークもいるね」


 日野辺ダンジョンのように広大なダンジョンだと、こうやって魔物の群れが村を形成したりすることがあって、専門家によると村が大きくなり過ぎるとダンジョン外に影響をもたらすという実態もあってか、定期的に政府に所属している探索者がダンジョンメンテナンスをしている。


 だが、大抵は村が大きくなりきる前に、今回みたいにたまたまダンジョンに立ち寄った探索者に狩られることが多く、日本では未だに魔物たちがダンジョン外に大きな影響をもたらしたことは無いが、他の国では度々問題が発生していて、その規模によっては日本にいる探索者にも依頼が来るらしい。


 過去20年間でダンジョンから出てきた魔物の大群に飲み込まれて『魔大陸』となった場所は数多くあり、そのほとんどがまだ奪還できていない現状ではあるが、魔物は滅多なことが起きない限りはその土地に永住する生態があり、外に出てくる理由は大抵ダンジョン内に魔物が溢れ返ったせいというのが大半なので、今では土地を無理矢理奪還するよりかは、今ある土地に魔物を溢れ返らせないという方針になっているが、それでも自分たちの土地を取り戻したいと思っている人たちや、実際に個人や少数の団体で取り戻そうとしているところも多いのだ。


「さーて今回も討伐討伐!」


「それにしても多いね」


「多分最近多発しているイレギュラーたちのせいだよ。昨日もオーガがいたじゃん?ああいうようにほとんどの国のダンジョンで、シンクロニシティ的な感じでイレギュラーが現れ始めているらしいよ!」


 ”D猫は賢いなぁ”

 ”なにかの予兆か?”

 ”道理で最近そう言った依頼が多いわけだ”

 ”ダンジョンの職員やってるけど最近残業続き”

 ”2人共頑張って!”


 ダンジョンに現れた村を殲滅するのはとても骨が折れる作業で、実際に骨が折れることもある大変な戦いだけど、殲滅したあとの魔石という報酬はそれの苦労を労ってくれる癒しの存在だと思ってる。


 そんなこんなでD猫と背中合わせで魔物の群れと戦っていると、D猫が持久戦にしびれを切らしたのかそれとも取れ高のためか、1人で魔物の群れに突っ込んでいった。


 確かにD猫のスピードやたい捌きなら対群れでも十分な活躍は望めるが、流石に猪突猛進過ぎていつの間にか囲まれて背後を取られたりしている。


「危ない!」


「わっと!?えへへ……ごめんごめん気付かなかった……」


「あんまり1人で行くと危ないからね」


「えへへ、……今のオーガちゃんまるで騎士様みたいだったよ!」


「……はへ」


「どう―――」


 騎士様……まるで騎士様だったよ?D猫が私にそう言って?私よりも強いはずなのに、こんなにも護り甲斐がある子が目の前にっっっ!

 そうだ!私はD猫の騎士様なんだ!!D猫を守護らなきゃ!


 私はD猫守護まもり隊だったんだ!


「うおおおお!!」


「うおおおお!?」


 ”うおおおお!”

 ”!?!?!?!?”

 ”わああああ!”

 ”うおおお!”


「D猫!私貴女のこと護ります!」


「ほぇえ!?」


 そうして騎士になった私は剣を振り上げ浮遊で浮き重力を背中に受け加速し、森の奥に鎮座しているオークに対して重力で動きを止め倒した。


「あ、あぁ?みんな……オーガちゃんがおかしくなちゃた」


 ”うおおおお!!”

 ”うおおお!(なんで叫んでるの?)”

 ”オーガちゃん!守護い!守護過ぎるよ!!”

 ”オーガちゃんが名前の通りだ!”

 ”うおおお!(なんかよくわからないけど叫んどけ!)”

 ”うおおおお!!!”


 爆速に流れていくコメントを横目に、我に返って恥ずかしくなった私は顔を覆って、その体勢で加速の勢いのまま無抵抗に吹き飛んで地面に転がる。


「オーガちゃん!?」


「こ、こんなはずじゃ……私はオーガちゃんでもD猫守護り隊でもなく、浮遊系ののんびりフワフワ配信者になりたかったのに……」


「それなのにダンジョン配信してるの!?……あぁごめんちゃい、つい突っ込んじゃった」


「……私のアイデンティティって今なんでしょうか……」


「え、ぇと……オーガを倒した女の子?」


 私はその言葉を聞いて昨日のオーガを恨む……私はただダンジョン配信を平和にやりたかっただけなのに、あのオーガがあんなところにいたから討伐しちゃった。


 骨折の代償で手に入れた称号が『オーガちゃん』ならもういっそバズらなくてもよかった。


「でも、かっこよかったよオーガ騎士ちゃん様」


 ”めっちゃ混ざっとるwwww”

 ”ね”

 ”いいぞー!”

 ”ダンジョンでイチャイチャすんな!”


 かっこよかったよオーガ騎士ちゃん様……?D猫が今私にそう言ってくれた?

 私の推しが今私にそう言ってくれた?そうか……


「そうか、私は浮遊系オーガのD猫守護り隊所属の騎士だったんだ」


「え?」


「うおおお!!」


「うおおお!?」


 ”うおおおお!!!”

 ”うおおお!!(D猫とオーガちゃん混ぜるな危険!)”

 ”うおおお!!(だからなんで叫んでるの?)”

 ”おかしくなっちゃったーー!!”

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