第6話 ~ダンジョン配信がバズりました~

 私はいつもなら目覚ましで起きるところを、代わりにある人からの電話で起きた。


「う……ん、美也子さんどうしました?こんな朝早くに」


「ちょっとちょっと!美瑠ちゃんDtubeのチャンネル見てみて!あとTyowiterも!」


「ちょっと待っててください……え!!?」


 美也子さんに言われるがまま、スマホでDtubeを開いて自分の『フワフワダンジョン攻略チャンネル(ミール貝)』のチャンネルを見ると、そこには昨日まで登録者数2人だったのが、驚異の14000人にまで増えていた。


「ど、どぉどど……どういうことですか!!?」


「最初アタシもビックリしたんだけど、アーカイブのコメント見てみて」


「そういうことでしたか」


 アーカイブのコメント欄を見てみると、どうやら昨日オークを倒した場面を偶然他の配信者が映してて、そこから流れてきた人たちのようだった。


「というか、昨日私が倒したオークだと思ってた魔物ってオーガだったのか……道理で強かったわけだよ」


 おかげさまで、治療費でダンジョンでの稼ぎが半分程度取られた。


「なんかオークにしては大きいなと思ってたけど、まさかオーガだったなんてね……美瑠ちゃんに大きな怪我なくてよかったよ」


「足骨折は大きな怪我じゃないでしょうか?」


「そんなことよりもスゴイネが沢山ついてるコメント見た?」


 スゴイネとは、そのコメントの凄さを他人が評価するための機能なのだが、それが5000もついているコメントを見てみると、『ダンジョンキャッツ』というアカウントが「オーガの魔石なんてもらえないよ!返したいから一度コラボしてみない?」という趣旨のコメントを残していた。


「ダンジョンキャッツって……え!?昨日私D猫に会ってたってこと!エェエェエェエェ!」


「美瑠ちゃんおかしくなってるけど大丈夫!?」


 ダンジョンキャッツ(通称:D猫)は私の推しのダンジョン配信者の1人で、チャンネル登録者数500000という大物Dtuberで猫のような柔軟さと俊敏さで魔物を狩る姿から、ダンジョンキャッツと呼ばれていてその異名をそのまま自分のチャンネル名にしている。


 Tyowitterも見てみると、トレンドに私のチャンネル名が入っていた。


「すぅ……すぅ……よし!きつつきました!」


「深呼吸が吸って吸ってになってるし、全然落ち着いてないよ!鳥になってるよ!」


「と、とりあえず今日は配信したくないです……」


「いやいや!せっかく謎バズりしてるのに配信しないのもったいないよ!美瑠の夢だったんでしょ?モノにするチャンスだよ!」


「でもぉ……偶然ですし」


「でもじゃない!ここ逃したらもったいないよ!偶然でもチャンスはチャンスなんだからがめつく行こ」


「は、はいぃ」


 !


 こうして偶然手に入れた空前絶後の大チャンスを前に、二の足を踏みまくる私の背中を美也子さんが半ば殴りながら押してくれたおかげで決心がつき、D猫のTyowitterにDMを送るとすぐ「昨日のダンジョン集合!」と返信が来て、友達同士の約束かな?って心の中で突っ込んだ私は、あの大物配信者とコラボ?ができることに何度も夢じゃないかと確認しながらそこに着いたのだった。


 ダンジョンの入り口に行くと、D猫がいた。


 いつもの猫耳フードではなく、普通のフードだったけど、一目見て分かった。


「あ、あの!D猫さんですか?」


「ん?あ!オーガちゃん!」


「へ!?オーガちゃん?」


 私は間違ってたらどうしようと思いながら、D猫らしき人に話しかけると、ご本人だった。

 ていうか、もしかしてトレンドにあったオーガの子って私のこと……。


「ねぇ、ところでオーガちゃんってなに?」


「え、オーガを倒した子だからオーガちゃんだよ?」


 素直に疑問をぶつけてみると、それが本名じゃないの?みたいな感じのテンションで言われてビックリした。

 私のフワフワイメージはもう消え失せたようです。


「と、とりあえず私なんかとコラボしてくれて、ありがとう」


「こっちもありがと!ウチ1人だったらオーガ倒せてなかったから、助かったよ!」


 どうやらD猫はオーガ討伐の依頼を受けていたそうで、それを私が横取りするような形で倒してしまったらしい。


「横取りしちゃってすいません……」


「いや、いいよ~!あ、そうだこれ」


「なんです……え?」


 D猫から小さな袋をと封筒を貰って中身を確認すると、小さな袋からはオーガの魔石が、封筒にはお金が入っていた。


「こんなの貰えないよ!」


「いいのいいの、100%オーガちゃんのおかげだもん!」


 D猫はそう言ってくれているが、横取りした側からするとなんか気が引けるし、この小さな袋も凄く高価な収納袋だったからビックリした。


 収納袋とは、ダンジョンから出るマジックアイテムで、収納できる重さや大きさによってピンからキリまでの値段があるが、それでもマジックアイテム専用のオークションでの最低価格は10万円はする代物である。


 ちなみにマジックアイテム専用オークションとは、その名の通りダンジョンから出土したマジックアイテムをオークション形式で売り買いするモノで、普通ダンジョン関連のオークションではDPが主流だが、マジックアイテムが欲しいけど何らかの理由でダンジョンに潜れない人たちが集うこのオークションに限っては、現金のみで取引されている。


「袋は返します!」


「え、いいのに……まぁそんなに言うなら」


 やはりうん万円もする収納袋は受け取れずに、封筒はローブの内ポケットにオーガの魔石は能力で浮かせることにした。


「それじゃダンジョン入ろっか」


「お、お願いします」


「緊張しないの!貴女オーガを倒せる実力あるんだから上級探索者でしょ?上澄みなんだからさ!」


 どうやら私がオーガなんか倒してしまったから、上級探索者だと誤解しているらしいい、D猫も上級探索者だからその誤解で高難易度ダンジョンに行かれても困るので訂正する。


 ちなみに探索者は上級と下級の二種類、ダンジョンは高難易度と低難易度の二種類で表記される。


「え、下級探索者でしかも最近資格取ったばっか?オーガちゃんって面白い嘘つくんだね」


「昔から能力使ってたので、多分そのせい?おかげ?かもしれないですが、本当です」


「なるほど……それでも凄いけどね!じゃあ配信スタート!」


「ひょえ!」


 ダンジョンに入ってすぐの入り口付近で話してたら、いきなりD猫が配信を始めたので、沢山のD猫の視聴者に見られる!と思って変な声が出た。


「あっははは!なに今の声!」


「ごめ……なさい、ビックリして」


「緊張しても良いことないよー!ほら配信オーガちゃんも配信」


 D猫に促されて配信をつけると、すぐにコメントが浮遊カメラからの空中ホログラムによって目の前に映し出される。


 ”キターー!!”

 ”配信待ってた!”

 ”オーガちゃーーーん!”

 ”D猫!”


「じゃーん!みんなー!今日はオーガちゃんとコラボするよー」


 私が爆速で流れるコメントに圧倒されていると、D猫ちゃんはいつもの調子で視聴者と喋っている。


「ほらオーガちゃん挨拶挨拶!」


「え、と……フワフワダンジョン攻略チャンネルのミール貝です!」


 ”チャンネル名ださいwwww”

 ”ミール貝ちゃーーん!”

 ”チャンネル名ww”

 ”いい名前!”


 と、私のチャンネル名についてなにか書き込まれてるけど、私にネーミングセンスがないのは自覚しているので、逆に直球なネーミングにしたらよくなるかもと思ってつけた名前なので別に気にしてない。


「じゃあオーガちゃんの挨拶も聞けたし!レッツラゴー!」


 ”レッツラゴーなつww”

 ”レッツラゴー!!!”

 ”キャー!オーガちゃん目線頂戴!”


 私の名前はすっかりオーガちゃんですかそうですか、まぁ名前なんてどうでもいいけどね……どうでもいいけどね!

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