第5話 ~浮遊系配信者始めました。~
< 美也子
”ねぇ美也子さん”
”?”
”私配信始めようと思ってるんだけどね”
”いいじゃん!配信者!”
”それで機材も揃えたの……”
”もしかして”
”配信ボタンが押せない!【泣き顔スタンプ】”
”あー”
”どうしたら良いと思う?なんかドキドキしちゃって”
”初めて配信やるんだろ?なら最初は見る人なんていないと思うから自由でいいんじゃない?”
”確かにそうなんだけど……”
”ダンジョン配信してる人が少ない今こそやるべきだと私は思う”
”じゃあさ私が押してあげようか?裏方?として”
”うーんそれじゃ美也子さんに迷惑でしょ?”
”私は暇だけどね”
”今日配信します!”
”急だね【困惑顔スタンプ】”
”私昔から配信がしたかったので!美也子さんと話して勢いづいた今ならいけます!”
”まぁ私は応援してるよ!そうだ、チャンネルのURL送ってよ”
”【チャンネルURL】”
”登録したよ!頑張って!見守ってるから【笑顔スタンプ】”
「ふーよし……私ならいける!ダンジョンを1人で、低層だけど攻略するメンタルはあるんだ!えい!」
私は今ダンジョンに来ている、先ほどまで配信するか迷っていたけれど、昔からやりたかったことって、美也子さん(あの時のお姉さん)とSENで会話して気づいたので、最初は勢いが大事ということで、浮遊カメラについた配信開始ボタンを押したのだった。
「こっこんにひわ!えーと……フワフワダンジョン攻略チャンネルへ、ようこそ!初配信です!ダンジョン攻略します!」
”イエーイ!”
うぅ、変なテンションになってる……挨拶も嚙んじゃったし、まぁしばらくは美也子さんに話しかけるだけだけど、一応アーカイブ残すし、あとで見られるってなるとちゃんと挨拶しておかないとね。
「では、ダンジョン攻略していきます!ここは、日野辺ダンジョンというところで、ずっと夕焼けのような空なのが特徴の異空間ダンジョンです!」
”ここは綺麗だよね~”
「凄く幻想的ですね。これがノスタルジックってやつなのかも」
異空間ダンジョンとは、その名の通りダンジョン内にもう1つの世界があるところで、ここは夕焼け空が照らす草原のダンジョンとなっている。
洞窟系や遺跡系と比べて特筆するところは、やはり異空間ダンジョンは階層が1つしかなく、とてつもない広さをしているというところだろう。
「あ!早速ゴブリンがいましたね」
”頑張って!”
このダンジョンには人型の魔物が出やすく、独自の生態系を築いているらしく、一部区画は壁で仕切られていて、生態調査などが行われているらしい。
ダンジョンに設置した人工物はしっかりと残るが、魔物たちが異物と判断して積極的に破壊しようと試みることがあるようで、それを見た生物学者は「まるでダンジョンそのものが1つの生物であり、魔物たちはまるでダンジョンの体内細菌のようだ」と言っていた。
そして私はゴブリンに向かって、新しく発現した能力である重力を使ってゴブリンの動きを止めた。
数日間この能力のあれこれを試して思ったことがあって、それはみんなが想像する重力とは違い、単純な魔力を押し付けているだけに過ぎないということだ。
どういうことかというと、他の探索者が使う重力という能力は、フィールドの一部を低重力にしたり高重力にしたりという効果だけで、私やあの男が使っていたようになにかを押し付けるだけで、先述したような効力は得られないということだ。
なので、これは厳密に言えば膨大な魔力操作ができるようになる能力ということだが、わかりにくいので違いがわかった今も重力という名にしてある。
そして動けなくなったゴブリンに対して私は、浮遊を使って浮かび重力を背中に押し付けて加速、そのまま目にも止まらぬスピードでゴブリンの首を刎ねた。
”かっこいい!ていうか今の能力何?”
「今のはなんか新しく使えるようになりました!」
”再発現って珍しいって言うけど良かったね!”
「自分もビックリしました」
”なんか羨ましいなぁ”
「ふぅ……えぇと、やっぱり初期地点にいるモンスターは弱いですよね……あ、見てくださいこれ!この魔石赤色ですよ!」
”おぉー!属性石!面白いんだよねぇそれ”
通常の魔石は魔力が濃縮した関係上濃い紫になるのだが、たまに色違いの魔石などが取れたりする、それらは属性石と言われ、これはその中の火の魔石なのだ。
火の魔石は広大なフィールドのダンジョン内で野営する時に重宝して、他の魔石を叩き付けるとその魔力に反応して、火の粉を飛ばして木に火をつけたりできる便利なものだが、ライターやマッチがあるならそっちの方を使った方が良いのだ。
なぜかというと、火の魔石は燃える時に濃い魔力の煙を出して、その気配に誘われた魔物たちがその周辺に寄ってきてしまうからである。
「属性石綺麗ですよね~解体はめんどくさいけど……」
”解体は慣れないとめんどくさいよね”
魔物の身体は使い道が多くて余すことがほとんどないとされるが、流石に人型は食べるか魔石を取るかの2択しかないので、そこら辺に放置されてることがある。
死体を放置すると、その死体から漏れ出た魔力が他の魔物を呼び寄せるので、ダンジョンの入り口付近には放置しないように言われている。
以前それを知らない若者の冒険者グループが、死体を大量に放置したせいで、入り口に集落や巣などが作られてしまい、ダンジョン内に入れなくなった事件があったが、それの防止策としてルールが作られたのであった。
しばらく、黙々とダンジョンの魔物を狩っていると、周辺に魔物がいなくなったので、もう少し奥に行ってみることにした。
「ここら辺は狩り終わったので、もう少し奥に行ってみたいと思います」
”一瞬だったね、気を付けて!”
しっかりとカメラに報告して先に進むと、少し大きいオークがいた。
「オークを見つけました。丁度バイコーンを食べているっぽいですね……お腹空いて来た……魔物のASMRって需要あるのかな?」
オークは身長4か5mほどで、2mあるバイコーンを片手で持ち頭を噛み千切っていた。
その迫力に少し圧倒されながら、やることは変わらない。
私は浮遊カメラのステルスをオンにして、そのオークに近付いていった。
「ではいつものように」
オークに向かって重力を使い動きを封じ込めようとしたが、あまり効いてる様子もなく平然と立っていた。
「え?ウソ!」
そしてオークは私の方を向き、食べかけのバイコーンを投げてきた。
「えいや!」
それを重力で地面に落として避け、浮遊を使って距離を取るが、オークは身近にあるものを投てきしてきて、再度近づくにも近づけない状況が続いた。
「凄くめんどくさい相手ですね……隙が生まれない」
”もしかしてマズい?”
「グガァァアアアアア!!」
「うるさっ!」
いきなりの咆哮に思わず耳を塞ぐと、オークが走って来た。
「間に合え!」
私は前方にいるオークの足に重力を飛ばした。
すると、足に当たって前傾姿勢で走っていたオークは勢い余って転んだ。
「隙あり!」
前のめりに転んだオークの身体に重力を発動して、四肢は動かせないように魔力を他よりも込めて拘束してオークに近付いて行く。
「全く手こずらせないでください!」
そして腰の剣を抜いて、オークの首元に刺そうとしたその時、オークの予想もしない馬鹿力で右腕の拘束を時、私を掴んで投げた。
「わぁあぁあぁあ」
私は宙で乱回転して、浮遊カメラも追い付けないスピードで吹っ飛んでいく、そして気持ちを落ち着かせながら、浮遊と重力を使いゆっくりとスピードを落とす。
「うぇっ……あ、危なかった。木がない方に投げられてよかった……いってて」
オークに捕まれて力任せに投げられた時に右足が折れたようで、ズキズキと温かい痛みが走るが、私は浮遊を使えるので痛い以外は問題ない。
「ふぅぅー……絶対に許さない!」
”ダイジョブだった?”
「えぇ、むしろやる気が出てきました」
私は普段よりも多めに魔力を込めて浮遊、重力で背中を押しながらドンドン加速していってオークに近付く、そして又の間を通ったタイミングで内ももを切り付ける。
「グアァアア!」
思ったより深く傷つけられたようで、オークは痛みに耐えきれずに膝立ちをした体制になった。
そこへ浮遊を付与した大岩を重力に乗せて投げ、まだ完全に膝をついていない右足にヒットさせ更に近付き、地面についた右腕を関節を沿って振り抜くと、上手いこと右腕が切れた。
「ウゴォオオ!!」
そうして右肩を完全につき、左腕で無理やり身体を支えている状態なので、チャンスとばかりに方向転換して左腕を狙いに行く。
「あと一本!」
そうしてオークの左腕に接近して、身体を捻りながら剣を水平にし切ろうとしたら、オークもパターンはわかっていたようで、私が腕を通り過ぎる瞬間に大きく口を開いて私を噛もうとしたが、最後だし何かしてくるだろうと、用意しておいた一点に絞った重力を横から当てて口を閉じさせ右腕も頂く。
「さて、今度こそとどめ」
”やったれー!!”
「ウガァア!」
頭に重力を押し付けて、顔を地面に埋め込み安全対策をしたあと、短剣を首筋に突き刺しオークを討伐した。
”やったー!ナイス撃破!”
「仇は取りましたよ私の右足……」
”そうだ早く手当てしないと!”
「良い感じに進んで強敵も倒せましたので、今回はここでやめにしようと思います。お疲れさまでした」
”乙!”
そうしてオークを討伐した私は終わりの挨拶をして、配信停止ボタンを押した。
「ふぅ……まさかこんなに強敵がいるとは、ビックリしたなぁ」
まだ興奮は冷めずに気持ちを整理するように、言葉を吐いて自分を落ち着かせたあと、これをどう解体しようか悩んでいると、後ろから声を掛けられた。
「凄いよ!君1人で倒しちゃうなんて!」
その声のする方を見てみると、女の子がいて興奮しているのか、その場でぴょんぴょん跳ねていた。
「あ……あの、こんにちは」
「ん、こんにちは?」
どうやら私の一部始終を見ていたようで、興奮が冷めてきた私は足の痛みが戻るとともに、戦闘中のいつもの自分じゃないような発言を思い出して恥ずかしくなっていた。
「あ、あの……あげます」
「え!ちょ!?」
私はこの目の前の子にも聞かれてたのかと思い、浮遊を使って全速力でダンジョンの外に逃げ去ったのだった。
「あの子なんだったんだろ?オーガの死体が要らないなんて、もしかして凄く強い人なのかな?これ倒してたしね……視聴者さんの中にあの人について知っている人がいたらDMしてね!流石に無料でオーガの魔石なんて受け取れないし、あの子に返したいからさ!」
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