ヤマボウシの木陰から

@kashiwarisu

第1話

前庭の「Chinese dogwood」に「ヤマボウシ」という和名があると知ったのは

ほんの数年前のことで、しかも日本を含む東アジアが原産だったとは。

決して珍しい灌木ではないのだろうが、私自身は日本で目にしたことも

その名を聞いたこともなかったと思う。


もともとは「Pink Dogwood」(ハナミズキ)を植えるよう頼んでいたのに、

「品切れでこれしかなかった。気に入らなければ、あとで植え替えに来るから」と

強引に押し切られ植えられた若木は、20数年経った今では窓を覆い隠すほどに育ち

初夏にはハナミズキに似た花をびっしりと咲かせている。

ただしその花色は、思い描いた薄づきのピンクどころかまぶしいばかりの白さだし、

樹形にいたっては、すっきりとした枝ぶりのハナミズキとは似ても似つかぬ茂り方であるのだけれど。


あの頃の自分には、注文とは違う苗木を持ってあらわれた庭師を送り返す強さも、

造園会社のオフィスに抗議の電話をして交渉出来る自信もまだなかった。

内心では「なんでよ!」と毒付きながら、苦笑しつつ受け入れてしまうしかなかったなんて。今思っても情けない、黒歴史の1ページではある。


それでも、その花の時期が丁度こちらの卒業シーズンに当たるためもあり

我が家ではこのヤマボウシの木の前で、記念の家族写真を撮るようになった。

それ故子供たちの卒業写真の背景には揃って、櫻ならぬ満開のヤマボウシの白い花が

咲き誇っているのである。





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