第9話 コマーシャル

『は~い、皆さん。良く眠れていますか?快適な睡眠は良い夢をもたらします』

『それで、今日はどんな品物なんですか?』

『それが、これっ!』

『枕?』

『枕と言ってもこれは、そんじょそこらで販売されている枕では有りません』

『何か、特別なことが~』

『そうです。聞いてびっくり、なんと、見たい夢を見れる枕、夢枕です』

『また~、そんな事を言って、視聴者からクレームが来ても知りませんよ』



「新、夢枕だって~」

「えっ!」

「見たい夢が見れるんだって」

「そんな~、どうせ、ハッタリに決まってますよ」

「そうかな~。新は夢の中で思い通りに行き来する事が出来るでしょ。それと、なんか似ていなくて?」

「思い通りでも有りません。たまたま、夢と夢が繋がって、同じ場所に出くわすだけかも」

「そうだったの。随分と無責任ね!」

「どうしてですか、司(つかさ)?」

「だって、新の夢の世界から私をここに連れて来て置いて、私を元の世界に戻せるか確信を持ててないんでしょ」

「そう言われましても、こればっかりは~」



『色はピンクと、ブルー。そこのお二人には似合いだと思いますが』



「新、私達の事を言ってるのかしら?」

「そんな筈は無いでしょ。お決まりの文句ですよ」

「それはそうと、そろそろ、あっちに戻らないと」

「ヒラリが例の薬を持ち帰ってからでしょ」

「そうだったわね」

「上手く探し当ててくれれば良いんだけど~」

「それまで、少しベッドで横になりませんか?」

「バカな事は言わないで。新が寝てしまえば、ヒラリが置いてきぼりに成るでしょう」

「そうじゃ無くて」

「あっ、今、新の心の内がチラついたわ。いつも、そんな事を考えて居るの?」

「だって、あっちでは無理だし、それだけ、司が艶めかしい魅力をお持ちだと云う事です」

「ダメよ。私は帝位に着くまで操を守らなくてはいけないの。言って無かったかな?」

「それも、掟の様なモノですか?」

「昔から受け継がれて来たそうです」

「へぇ~、もっと、自由で有るべきでは?」


「どうする?」

「僕は今直ぐにでもOKです」

「それじゃなくて、CMが終わってしまうわ」

「買えば良いんでしょ。どこまで、ホントなんだか~」

「物は試しでしょ。案外、夢の中での新の能力が高まるかも知れません」



『先着、100名様にはおまけが付きます』

『おまけって、なんですか?』

『これは企業秘密なんですが~』

『勿体ぶらないで、教えてくださいよ』

『ん~ん。仕方が無いな。そのおまけとは~』

『おまけとは?』

『何と、夢を倍速で見たり、コマ送りも可能に出来る品物です』

『それこそ、夢のような製品ですね』

『えぇ、当社が長年携わって来て、やっと、実用に漕ぎつけました』



「おい、おい、待ってくれよ」

「新、どうしたの?」

「司も聞いてたでしょう」

「なんのことでした?」

「夢を倍速で見たり、コマ送りしたりって。これは誰にも教えて居ない僕だけのものだと思ったてたのに」

「そうだったの」

「どうやら、僕の秘密を奪われたようです」

「問い合わせてみる?」

「容易く応えてはくれないでしょ。企業秘密て言ってましたから」

「そんな事、言ってたかしら」

「ここは泣き寝入りするしか・・・、待てよ、この夢枕を買って調べてみます」

「それで、なにか分かると言うの」

「さぁ、それは何とも・・・。ヒラリが帰って来たみたいです」

「そう、流石、新ね。私には何も感じなかったけど」



「お帰り、どうだった、ヒラリ」

「案外でした。処方箋を見せる、これでしょって言って出して来てくれました。で、お二人で何を見てるんですか?」

「コマーシャル。夢枕だって」

「それが大変なのよ。新の秘密が盗まれたみたい」

「司の宮様、本当ですか。私達に影響が有るのでしょうか?」

「差し当っては、無いと言えます」

「良かった。あっちに帰れなくなるかと思いました」

「ヒラリは心配性だから、気を付けないと肌が荒れて来るわよ」





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