第2話 人型トカゲ

 施錠された柵をのぼり、俺たちは校庭に侵入した。


「あー、あそこだな」


 三階、窓から巨大なトカゲのような生き物が見えた。


「わかりました、じゃあ、行ってきます」


「ああ、頼んだ。私はYouTubeでも観て時間を潰すとするよ」


「へいへい……」


 全く、一緒にきてくれてもいいじゃないか、と思ってしまう。

 本当、ずるいよこの人。


 昇降口に着くと、ポケットから鍵を取り出した。


 この鍵は鍵穴に入れると、その鍵の形に変化する魔道具だ。

 つまり、どんな鍵もかけられるものだ。

 

 鍵を開け、中に入る。


「さてさて、とっととぶっ倒して帰って寝よう」


 あくびをして、中に入った。


 本当、勘弁して欲しいものだ。

 せっかく今日は残業がないと思っていたのに、出現しやがってよ。


 ぶつぶつと文句を言いながら、俺は中に入る。


 ぜってえにぶっ殺してやる。


 俺は【形状変化ブレイブヒーロー】という性質そのままで物の形を変える特質により、持ってきていた包丁を巨大な大剣へと変化させた。


 校内は朝とは違い、どこか不気味な雰囲気が漂っている。

 明かりは非常口と消火栓、月と星の明かりのみ。

 もうなれてしまった空間だ。


 階段を登り、三階へとやってきた。


「どこにいやがる」

 

 一つ一つの教室を見て歩く中、


「──ッ!?」


 突如、2年5組の教室の壁が潰れ、そこから一体の人型トカゲが現れた。

 人形トカゲは俺の腹部を思いっきり殴る。


 おいおい、まじかよ……。


「ぐ──ッ」


 いきなりの出来事に反応できず、俺は吹き飛んだ。

 壁にぶつかり、そのまま倒れる。


 やっべ、気づけなかったなー。

 俺にも香澄さんみたいな魔力を感じる力があればいいのに。


 はあはあ、と息を荒くしながら立ち上がった。


 が、しかし、目の前には人形トカゲ。

 俺の顔面を思いっきり殴った。


「いてぇなあああ」


 歯を食いしばり、我慢する。


 あー、目が覚めた。

 本当、この時間にクリーチャーハンターやらなきゃいけねえのも、痛いのも何もかもがムカつくんだよ。


 拳を受けながら、大剣で人型トカゲの右腕を斬り落とした。


 本当、何もかもうざいんだよ。

 死にやがれ……。


 後ずさる人形トカゲ。


 鼻からは血が出ていた。


「まじで、ふざけんなよ」


 痛みもがく人型トカゲに向かって、大剣を縦に振る。


「これでも喰らって一生寝ていやがれッ」


 が、しかし、俊敏な逃げ足で俺の攻撃を避けた。


 大剣は床に衝突し、


「やっべ」


 床にヒビが生えた。


 慌てて、大剣を抜き、


「い、今のはお前がやったんだからな」


 こちらを睨む人型トカゲに向かって歩き出す。


 尻尾で攻撃してくるが、すぐさま大剣で尻尾を斬り落とした。


「んな攻撃よ、俺に通用すると思うなよカスが」


 本当ムカつくな。

 なんで俺がこんな目にあわなきゃならないんだ。

 人と違うから?

 確かにそうだが、だとしても本当に勘弁してほしい。


「てめえのせいで残業する羽目になったじゃねえかあああ」

 

 叫び、大剣を人型トカゲの首目掛けて振った。


「大人しく死にやがれえええ」


 人型トカゲの首は斬り落とされ、その場に倒れた。


 同時に……


「ん、今の感触」


 生き物ではない。

 もっと硬いものを斬った気がする。

 

 これ……。


「あ、やべ……」


 壁にヒビが生え出した。


「うん、早く逃げなきゃ」


 そう、俺は壁も一緒に斬ってしまったのだ。


 人型トカゲの死体を抱えながら、階段を取り出した。


「つ、ついてねーな全くよ!!」


 昇降口を出て、スマホを見ていた香澄さんに話しかけた。


「香澄さん、終わりましたよ……一応」


「お、早いじゃん。さすが龍一、よくやったな!!」


 香澄さんはスマホの画面から顔を上げ、満足そうな笑みを浮かべていたが、俺は渋い顔をしながら言った。


「いや、それが……ちょっとやっちまいました」


「ん? 何がだ?」


「間違えて学校の壁を斬っちまったんです……」


 香澄さんの笑顔が一瞬で凍りついた。


「……え?  斬った? それってどのぐらい?」


「まあ、三階の壁一枚分……いや、壁どころか教室ごとかな」


「え?」


 彼女が困惑しているのを見て、俺は無理やり笑顔を作ってみせた。


「大丈夫ですよ、まだ斬ったばかりですし、建物が完全に崩れるってことはないはずですから」


 そう言った瞬間だった。


 ゴゴゴゴゴゴ……


 鈍い音が遠くから聞こえてきた。香澄さんがゆっくりと俺の肩を叩く。


「……なあ、今の音、まさか?」


「気のせいじゃないですか?」


 俺が顔を背けたその瞬間、背後からものすごい轟音が響き渡った。


 ドガシャアアアアアアンッ!!!


 俺と香澄さんは振り返ると、三階の壁が崩壊し、教室の一部が地面に落下していく光景が目の前に広がっていた。


 俺たちの頭上には、校舎の残骸がまだ崩れ落ち続けており、砂煙が舞い上がる。


「龍一……お前……ほんとに斬ったな?」


「ええ、まあ……斬ったっすね」


「お前さ、どんだけ力入れて大剣振り回してんだよ!? 学校、崩れてるじゃんか!!」


 香澄さんは顔を引きつらせながらも、大爆笑するのを堪えている様子だった。俺はもうため息しか出ない。


「いや、俺だってわざとじゃないんですよ。でも魔物が急に避けやがるからさ、つい……」


 その瞬間、香澄さんが再び俺の肩に手を置いて、低い声で言った。


「まじで何してくれてんだよ、仕事を増やすな。本当、バカッタレ」


「やめてくださいよ!!俺のせいみたいじゃないですか!!」


「いや、実際どっからどうみてもお前のせいだろ」


 香澄さんはついに耐えきれずに爆笑し始めた。俺は頭を抱えながら、遠くでまだ崩れ続ける校舎を見つめた。


「本当、ついてねえ……」


 こうして、俺は魔物を倒したはずが、学校を崩壊させてしまうという最悪の結末を迎えたのだった。

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残業嫌いなクリーチャーハンターですが、人手不足により今日も定時に帰れそうにない。 さい @Sai31

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