アオハル☆リロード ──『セーブ&ロード』に覚醒した俺は、人生を、青春をやり直す!
熱川柳之介
第一章 プロローグ
第1話 ろくでもない現在
朝6時。暗闇の中でピピピと申し訳程度の目覚まし時計の音が鳴り響いた。無意識のうちに手を伸ばし、スヌーズボタンを叩く。何度目かのスヌーズでようやく意識が戻り、重いまぶたを開ける。
「また今日もこの時間か…」
俺は
嫌ならやめればいい、という人は大勢いるが、いろいろな事を考えてしまってどうしても踏ん切りがつかず、ここまで来てしまった。
妻には二度も不倫をされた。発覚しているのが二回というだけで、実際にはもっと多いのかもしれない。1度目は通常のスマホのロックだけでなく、LIMEというSNSにもロックをかけていたことが怪しいということで、興信所に頼んで発覚した。たまたま操作しているところを見てしまい、二重ロックの事を同僚に相談したら、そんなことをする奴はほぼ黒に近いグレーなんだそうだ。確かに、LIMEにメッセージが届くたび、ロックを解除するのは面倒過ぎるだろう。普通の生活をしていれば絶対に必要ない。
2度目はふとした拍子にカーナビを見たら、ラブホに行った形跡を見つけ、また興信所にお願いした。移動するとポチポチ印が付くのを知らなかったんだろうか。1度目は泣いて謝っていた妻だったが、2度目は俺のせいだと言わんばかりにふてぶてしい態度だった。
なぜ離婚しないのか。それは、2回目の不倫がW不倫、なんと娘の同級生の父親だったのだ。きっかけはPTAの集まりとか、ありがち過ぎる感じで。それでも、相手の奥さんが、子供たちには絶対にバレたくないと言い出し、何とか離婚せずにお願いしますと言われてしまったのだ。それで一応、子供が成人するまで夫婦は続けようという話になっている。
しかし、こんな生活はいつまでも続けられない。きっと子供にとっても、居心地の悪い空間を作り出すだけの父親などいらないはずだ。
「ふぅ……」
そんないつもの自虐をしつつ、ベッドから身を起こし、
顔を洗い、水の冷たさでなんとか眠気を飛ばし、スーツに着替える。鏡に映る自分の顔は、いつもよりもさらに
家族が寝ている中、6時半に家を出て、駅へ向かう。まだ少し薄暗い街を歩きながら、今日も長い一日が始まることを思うと、自然と足取りが鈍くなる。駅に着くと、既にホームには同じように朝から疲れた顔をした人々が並んでいる。一様に死んだ魚のような眼だ。
「みんな同じような生活を送っているんだな……いや、こんなにひどいのは多くないか……」
電車に乗り込み、空いた座席に腰を下ろす。スマホを取り出し、ニュースやSNSをチェックするが、特に目新しい情報はない。周りの乗客も同じようにスマホの画面を見つめているだけだ。
会社に着くと、オフィスのドアを開ける。まだ7時半だが、既に数人の同僚がデスクに向かっている。無言でパソコンに向かう。オフィスの中にはカチカチとマウスのクリックとキーボードを叩く音だけが響いている。俺も自分のデスクに向かい、今日のタスクリストを確認する。
「またこんなに積み上がってるのか……」
書類の山を見てため息をつく。未処理のメール、未完了の案件、上司からの催促。どこから手を付ければいいのか分からない。とりあえず、メールの返信から始める。
午前中は会議が連続する。上司の厳しい目の下で、プロジェクトの進捗を報告し、次々と降りかかる新しいタスクを受け入れる。会議室を出ると、同僚たちが疲弊した顔を見せる。誰もが消耗しているが、誰も口に出さない。
昼食はデスクでの簡単な弁当。コンビニで買ったサンドイッチをかじりながら、メールの返信や資料作成を続ける。クライアントとの電話もあり、時間はあっという間に過ぎていく。
「午後も会議か……」
午後も会議が続き、上司からのプレッシャーはさらに強まる。進捗が遅れていることに対する叱責や、新たな目標の設定。どれだけ頑張っても追いつかない感じがする。
夕方、仕事が終わる気配はない。定時を過ぎても、誰一人として帰る素振りを見せない。俺も例外ではない。終わらない仕事に追われ、夜遅くまでオフィスに残る。
「いつになったらこの生活から抜け出せるんだろう……」
家に帰るのは夜遅く。
ある夜、天井を見つめながら思う。
「このままでいいのか? 俺の人生、これで終わりなのか…?」
疲れ果てた体を休めるために目を閉じるが、心の中の不安は消えない。明日も、また同じように目覚まし時計の音で起こされ、暗い空の下で新しい一日を始める。それが今の俺の現実だ。
◤◢◤◢◤◢◤◢◤◢◤◢◤◢◤◢
この日も朝から同じだ。嫌気がさしつつも繰り返される毎日。
深夜12時過ぎ、ようやく帰宅すると、家の中は静まり返っていた。リビングの明かりだけがぼんやりと灯っている。娘が消し忘れたのだろう。玄関で靴を脱ぎ、疲れた体を引きずるようにしてリビングへと向かう。
「ただいま……」
無意識に口から出た言葉に返事はない。妻の
缶ビールを飲み干したところで、シャワーを浴びる。
いわゆるカラスの行水だ。
深いため息をついて立ち上がり、寝室へ向かう。ドアを開けると、由紀奈が背中を向けて寝ているのが見えた。そっとベッドに入るが、彼女が起きる気配はない。もう何ヶ月もこうやって会話すらまともにしていない。
「おやすみ……」
小さな声でつぶやくが、返事はない。布団にくるまりながら、今日一日の疲労を感じる。仕事のストレス、家庭での孤独感。それがじわじわと体中に広がっていく。
朝、目覚まし時計の音が鳴り響く。いつものように6時だ。体は重いが、無理やり起き上がる。キッチンに行くと、由紀奈がコーヒーメーカーでコーヒーを淹れている。俺の分を淹れてくれているのではない。自分だけの分だ。
「おはよう」
声をかけるが、彼女は
「……今日も遅くなるの?」
ようやく口を開いた彼女の声には冷たさが含まれている。
「ああ、多分。プロジェクトが詰まってて……」
言い訳のように聞こえる自分の声が嫌になる。でも、それが現実だ。仕事が終わらない限り、早く帰ることはできない。
「いつもそればっかり。育児も家事も全部私に任せて……」
彼女の不満が一気に溢れ出す。俺は反論する気力もなく、ただ黙って聞くしかない。
「ごめん、由紀奈。分かってる。でも、仕事が……」
「もういいわ。どうせ何も変わらないんだから」
彼女は言葉を切ると、コーヒーカップを持ってリビングへと向かう。俺はその背中を見送りながら、無力感に襲われる。仕事の忙しさにかまけて、家庭を顧みることができない自分に嫌気が差す。
家を出る直前、娘の亜里沙が起きてくる。
「おはよう……」
「おはよう、学校、頑張れよ」
「うん。お父さんみたいにならないようにしっかり勉強しなくちゃ」
「い、行ってきます」
笑顔な分、より一層心が
(なんだ、俺は反面教師か。ちゃんと父親できてんじゃねぇか)
心の中で自虐するが、何も変わらない。俺は重い足取りで家を出て、駅へ向かう。今日もまた、長い一日が始まる。
電車に乗り込み、スマホを見つめる。周りの乗客も同じように疲れた顔をしている。俺もその一員だ。会社に着くと、昨日と変わらない風景が広がっている。
デスクに向かい、今日のタスクリストを確認する。やるべきことは山積みだ。気持ちを切り替えて、仕事に集中するしかない。
「こんな生活、いつまで続くんだろう……」
ため息をつきながら、パソコンに向かう。現実は厳しいが、それでも前に進むしかない。仕事が終われば、また家に帰り、同じ日常が待っている。
それでも、いつか何かが変わることを願いながら、今日も一日を乗り切るのだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます