悪夢を斬り裂く二人のアクマ

来世は動物園の動物になりたい

第一話 一人の少年

 うぎゃおああああああ!!


 耳をつんざく異形の悲鳴を無慈悲にも斬り裂く黄金の刃。異形から紫に変色した血が噴き出し、眼前の見えない壁にべったりとへばり付く。


 気づくと壁は無くなり、異形の体液が地面に落つ。そんなことは気にも留めず、俺は目の前の女性が異形のむくろを見下す様をまじまじと眺めていた。

 彼女の名は綺羅星きらぼし飛鳥あすか、対異形に組織された特務機関Evolvエヴォルヴの戦闘員でありEvolv戦闘課の副課長である。

 緑のロングの髪が風になびいている。綺麗だ。凛としたその女性に見惚れていると、突然その彼女がこちらを向いて歩き出す。驚く暇も無く、彼女は俺の目の前に立っていた。


「やぁ、成瀬なるせ圭介けいすけくん、キミ今日からウチ所属の高校に入るんだってね。ついてきなよ」


 にまっと不敵な笑みを浮かべ、こちらに顔を近づけてくる彼女。

 周りの視線がとても痛い。

 確かに俺は成瀬圭介って名前だが、何故そのことをこんな有名人が知っているんだ?

 こちらが疑問に思い、不思議がっていると彼女は口を開いた。


「おやぁ? なんでこんな可愛くて可憐で人気者の美女である飛鳥様が俺みたいな人間のことを? って顔をしているね」


 彼女は、こちらの顔をさらにのぞきこんでくる。

 というか綺麗だとは思ったけど、そこまでは思ってないし! あと自分のことを、とは卑下してないわ!

 心の中でツッコミを入れながら、案外、綺羅星さんって変な人だなぁ、と妙に落胆する。


「とりあえずこちらについてきたまえ、話はそれからだ」


 そう言うと彼女は俺の手を引き、Evolv所有であろう車へと誘導する。地面には異形の無惨な亡骸が散らばっている。彼女は何事もないようにその亡骸の側を淡々と歩く。

 俺はされるがままに体を動かすと、あれよあれよのうちに車の中へと入っていた。



 車内ではしばらくの間、沈黙が続いていた。


「あの〜、一応聞きたいんですけど、この車ってどこに向かってるんですか?」


「Evolv本部だよ」


「……ですよねぇ…………ところで、なんで俺のことを知ってるんでしょうか?」


 しばらくの沈黙の後、彼女は答える。


「君はだからねぇ」


 何がおかしいのだろう、彼女は微笑み、こちらを舐めるように見つめてくる。


「ゆ、ゆう……名人? ってのは、どういう?」


「冗談だよっ冗談、君みたいな新高校一年生が有名人なわけないだろぉ、まったく……私が君の担任をするからだよ、私が君を知っている訳というのはね」


 なにか癪に触る言い方をする人だなぁ、とまたもや落胆する。と、それは置いといて噂は本当だったらしい。


「それより、やっぱEvolvの戦闘員が直々に担任をするんですね。しかも副課長が」


「そう、我々Evolver(Evolvの戦闘員)直々に戦闘の訓練を教えるというわけさ。まぁ普通の授業の方は研究員の子達が頑張ってくれる予定だよ」


 得意げに語る彼女からは少し若々しさを感じる。というか実際若い。まだ彼女は24歳のはずだ。


 ゆっくりと車にブレーキがかかる。どうやら目的地に着いたようだ。Evolv本部、この施設の中に高校がある。関東発現者養成高校、それが俺の入学する高校だ。


「にしても、でかいな」


 車を降り、前を向けば四角く黒い建物が異彩を放っている。通称ブラックボックス。縦400m、横400m、高さ300m、都会のマンション街に突然建っている。まるでこの建物だけ別世界にあるみたいだ。


「では、ついて来たまえ」


 初めてブラックボックスと対面し、思わず息を飲む俺を遮るように、綺羅星飛鳥は門の前から手招きをする。


「はーい、今行きまーす」


 俺はこれからの日々への期待を胸に一歩を踏み出した。

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