第3話
ピリリ、と場が緊張に支配されている。周囲には鋭利な道具を持った男たち。全員がこちらを睨んでおり、いつ襲われても不思議ではない状況。
挙句、俺の喉元に突きつけられているもの。ギラリ、と鈍く光っていて、それの犠牲になったものが何度いるかわからない。
つぅ、と俺の頬を汗が伝う。いつやられてもおかしくない状況。さすがに恐怖を感じる。
「中上道……」
直後、後ろからものを突きつけてきた男が話しかけてくる。
それと同時に、ガタリ、と腰を浮かしてくる男たち。それはまるで、返答次第ではただじゃおかないと言外に言われているようであった。
「今回は、どうだったんだ?」
続く言葉に、今までよりもひどく重たくなった空気。この後の言葉を間違えると、どうなるかは火を見るよりも明らかである。
なので俺は、「なんでばれてるんだ?」とか、「ここで見栄張ったらどうなるんだ?」とか考えたが、素直に結果を口にする。
「……、失敗、だった」
ふっ、と空気が霧散する。一度瞬きをすればすなわち、そこはいつもの教室であった。
「なぁんだ。てっきり、我らSSクラスの掟を破ったのかと思っちゃったよ」
そういって話しかけてくるコンパスを喉に突きつけてきていた佐藤。
————SSクラスの掟。
そう、我々スーパーサイエンスクラス、略してSSクラスには掟がある。
それは、『恋人を作らない』だ。
なぜ、こんな掟ができたのか。それは、うちのクラスに女がいないからだ。ちなみに、今までの先輩たちのクラスにはしっかりいたらしいし、なんなら後輩のクラスは男女比2:17である。
これが世界の不条理か。
「よ、朝から大変だったな。トオル」
「あ、ワタル。おはよう」
席が隣で話しかけてきたこいつは、
つまりは親友だ。
「にしても、また告白したのか?お前。これで何人目だよ」
「20人目だよ。今回はいけると思ったんだけどな……」
「嘘だろ……?20人目?正気かコイツ……」
心底ドン引いた声を出すワタル。
なぜだ?こいつには彼女が欲しいという願望がないのか?
「普通じゃないか?だって俺彼女欲しいし」
「だってが意味を成していない……」
「いつか俺に彼女ができたら、祝福してくれよな」
「いや、まあ、オレより先にクラスメイトの奴らがお前を祝うだろうが」
果たしてそれは本当に
「まあ、あいつらのリア充ヘイトはえげつないからな。お前もいつか殺されないように気を付けろよ」
「それは本当にそう思う。てか佐藤のコンパスは冗談抜きで危なくないか?他は三角定規とかシャーペンとかなのに、あいつだけちくっとじゃ済まされなくない?」
「本当にな。あそこまでしなくていいと思うのに」
おお、流石は我が親友。このクラスで唯一俺に理解を示してくれるというのか……!!
「だってお前に彼女ができるわけないんだから、あんなに身構える必要————」
「フンッ!!」
「—————ガフォッ!?」
儚い友情だった。彼は星になったのだ。
〜〜🚽💦🧻🚰〜〜
放課後。家へと帰った俺は、またもや配信をしていた。
いや、わかっている。頭の冷静な部分は、「こんなんで女の気持ち理解できるわけないだろ」、とか「今ならまだ引き返せる」、とか諭してくるのだ。
全然やめるべきなのは分かってる。が、しかし。
—————12万は勿体無くないか?
いや、12万だよ?12万。12万があったら何ができる?レンタル彼女70時間借りられるんだぞ?
いやホントになんで12万も費やしたんだよ俺。頭おかしいんじゃないのか。そっか、頭おかしいからこんなことやってんのか。
自己解決したところで、ゲームへと意識を向ける。
——————World of the free。通称WOTF。元はFPS用に作られたゲームだが、今では、ショッピングからスポーツまでなんでも楽しめるゲームだ。
その性質から、プレイ人口は6.5億人を超えていて、VRゲームでは、圧倒的トップのユーザー数を誇っている。
その中のFPSモード。昨日の22戦で完璧にゲームを理解した俺は、物陰に身を潜め、スナイパーライフルで周囲を索敵していた。
さらにその上、授業を捨てることにより得た知識でシールドもつけたし、他の武器もホログラムに収納し、持ち歩いている。
「あ、安置きてますね。移動しましょうか」
マップの見方も知ったから、安置で死ぬこともない。今の俺は最強である。
サササ、と音をできるだけ立てないように移動をしようとしたその時。
:こんばんは。
コメント欄に動きがあった。地味に今までで初めてのコメントである。やばい、割と嬉しい。だって今まで1人で話してたから、反応があることだけでグッとくる。
すごいな、これは。12万とか、ゲームが楽しいとか以前に、配信のモチベになる。こんなに嬉しいとは思わなかった。
俺は、その感謝を伝えようとコメント欄に視線を向けると————
:リア充ブッコロさんですか?
————見たことのない日本語に思考が止まった。
「?????????」
いや、リア充ブッコロさんって何?そんなパワーワードあるの??初めて聞いたよ俺???
てか、俺の配信の初コメこれマ????
:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::
ワンポイント
主人公が持ってるのは最初期のバーチャルヘッドギアだよ。それには、性転換アタッチメントアプリを入れなくても、元から入ってたんだ。だから12万で済んだんだね。安上がり〜。
㊙︎彼女の作り方 まるべー @marub
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。㊙︎彼女の作り方の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
参加中のコンテスト・自主企画
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます