トドゲーム

明丸 丹一

トドゲーム

 朝の陽光が薄く差し込む部屋で目が覚めた。見覚えのない部屋。

 一枚の古びた封筒が静かに置かれていた。封筒には紙片が入っており、ただ「トドゲームへようこそ」とだけ書かれていた。

 個室には封筒の置かれたスタンドテーブルの他には、出入り口であろう扉しかない。はたして部屋の扉は難なく開けることができた。

 同じ境遇の者が数十人いるようで、それぞれ個室から出てきたところだったようだ。部屋では気がつかなかったが、かなりの喧噪になっている。

「なんだ?デスゲームか?」

「デスゲームだコレ!」

「確かにこれはデスゲームか……」


 部屋の中心には、巨大なスクリーンが設置されており、そこには歴史や科学、文学に関する難解な問題が次々と映し出された。参加者たちはスクリーンを見つめながら、答えを導き出さなければならなかった。正しい答えを出さなければ、次の部屋へ進むことはできない。

「どうやったら結婚できますか?」

「神とはどういう存在ですか」

「パワハラ被害の解決法について」

「同人誌の作成方法」

 あるいは個人的な人生相談のような問題も複数あった。

 問題は一見簡単そうに見えたが、選択肢の中には巧妙に仕組まれた罠が隠されていた。

 私はたまたまX(旧Twitter)で似たような質問を見かけたことがあったためなんとか回答することができた。

 

 全ての参加者が手元の端末に回答の記入を終えるとスクリーンが左右に分かれ、巨大な鉄の扉が現れた。

扉には「まず知識が試される」との刻印があった。扉がゆっくりと開き、問題の過半数を解いた参加者たちは中に進んでいった。残された者がどうなるのか、それは分からない。


 中に入ると、薄暗い通路が続き、古びた壁には複雑な装飾が施されていた。通路を通り抜けるとそこに第二の部屋があった。

 部屋の中心には、またも巨大なスクリーンと回答用の端末が設置されており、今度はある種の一連のシチュエーションが映し出される。

 私はとっさに登場人物が認識していない、視聴者だけが知る情報をフェイクにした推理判断の映像問題を想起したが、少し違っていた。

 スクリーンに描き出される問題はむしろ現代文のそれに近い。

「このとき彼は何を思ったでしょう?」

「映像の装飾品が模している植物の花言葉は?」

「この女性は彼に恋愛感情をもっているか?」

 こんな問題、どうとでも答えることができてしまいそうだが、私はたまたまX(旧Twitter)で似たようなツイートを見かけたことがあったためなんとか回答することができた。


 全ての参加者が手元の端末に回答の記入を終えるとまたもスクリーンが左右に分かれ、巨大な銅の扉が現れた。

扉には「次に心が試される」との刻印があった。扉がゆっくりと開き、問題を正答したと思われる参加者たちは中に進んでいった。残された者がどうなるのか、それは分からない。


 中に入ると、LEDで全面が照らされているまぶしい通路が続き、その真新しい壁はつるりとしている。通路を通り抜けるとそこに第三の部屋があった。


 第三の部屋の中央には巨大な長テーブルが両端に配置されていて、そこには一般的に言う、ゲテモノ食材が並んでいた。アリの卵、ウジ虫入りチーズ、サソリ、タランチュラ——

 この頃にはもう参加者は数名にまで数を減らしていた。

 テーブルには紙片が置いてあり、簡潔に「EAT ME.」と書かれている。

 他の参加者はグロテスクな食材に戸惑っているようだった。

 私はたまたまタランチュラがエビのような味ということを知っていたため、なんとか完食することができた。


 長いテーブルの先には銀の扉があり、そこには「ここでは精神が試される」と書かれていた。残された者がどうなるのか、それは分からない。

 扉を開け中に入ると、ペンキをひっくりかえしたようなサイケデリックな通路が続いている。通路を通り抜けるとそこに第四の部屋があった。


 四番目の扉を開けると、まるで古代のアリーナのような広大な空間だった。中央には、煌めくスポットライトが一つだけ照らし出している。それが照らす先には、異様な光景が広がっていた。そこに立っていたのは、筋肉隆々で頭部が燃えあがるラーメンを思わせる大男だった。彼の筋肉はまるで岩のように固く、巨大な体躯が空間を圧倒していた。ラーメンのスープは湯気を立てており、どこか滑稽な光景を作り出していたが、その男の存在感は尋常ではなかった。

 私は一瞬立ちすくみ、その異様な相手に驚愕の表情を浮かべた。大男はまるで私の恐怖を感じ取ったかのように、低い唸り声を上げながらゆっくりと突進してきた。

「ト……■■■■■■■■■■■——————————!!!!!」

 私は大男の動きを観察し続けた。こう見えて、格闘技に向いていると言われたことがある。大男の目は凄まじい憎しみと興奮、そして怒りを湛えている。

 私はその感情を読み取り、攻撃の隙を探ろうとした。

 大男が再度拳を振り上げると、私はその動きのパターンを掴むべく、慎重に距離を取った。敵の攻撃を避けつつ、ついに大男が勢いよく拳を振り下ろした瞬間、私は素早くその腕を掴み、ねじりながら倒れこんだ。

 体重をかけながら一緒に倒れこんだ相手の腕はガッチリ極まっており、脱臼は間違いない。悶絶する大男。

 私は勝負あった、と確信し、リングを降りた。

 

 しかし、次の扉を見つけることはできなかった。どういうことだろう。


 ふと、後ろから声がした。

「さすがに金の扉を作るのは予算不足だったんよ……」

 振り返ると先ほどの大男が立っていた。

「なにっ」

 先ほど倒したはずでは!?

「本物の——さんならトドメをさしたはずなんよ」

「なにを」

「……最後までキッチリとね」

 大男は拳を振り上げ、そこで私の意識は途絶えた。


                 〇


とある報告書より一部抜粋


トドオカ人格の量産化に対する問題点

本報告書は、トドオカ人格の量産化に関する問題点を検討し、その影響とリスクを分析することを目的としています。

・人格品質の問題

人格のモデルを作成するためには、豊富で多様なデータが必要です。データが不十分または偏ったものであると、生成される人格が一様になり、リアリティや深みを欠く可能性があります。

・コンテキストの把握不足

人格を構成するアルゴリズムが、キャラクターの行動や反応を適切に理解するためには、コンテキストを把握する能力が求められます。これが不足すると、キャラクターの反応が不自然になることがあります。

・適応性の欠如

恣意的に生成された人格が変化する環境や状況に適応する能力が不足していると、キャラクターが一貫性を欠く可能性があります。


                 〇


件名: プロジェクトの開始について


お疲れ様です。

新しいプロジェクトの開始についてご案内申し上げます。

プロジェクト概要:同一遺伝子生体による人格の模倣

プロジェクト名: Nurturing Experimental Entities and Technologies

目的: 高度な技術を用いてクローン人間の生成方法を確立し、その社会的・倫理的影響を評価する。

概要: 人間のクローン生成に関する新しい技術の研究・開発を行い、クローン人間の特性や倫理的問題についての理解を深めることを目指します。実験には、遺伝子操作、細胞再生技術、およびクローン人間の行動分析が含まれます。


 

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トドゲーム 明丸 丹一 @sakusaku3kaku

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