虎の子は山へ放せ

パンチ太郎

第1話 弱肉強食

 この世は、奪うものか、奪われるものか、二つに一つしかない。なら、奪われないようになるにはどうすればいいか、それには、強くなるしかない。

「あんさん、さっきメンチ切ってたなあ。不愉快やから、慰謝料貰おうか。」菅野悠人は、街のヤンキーにカツアゲをされていた。相手は3人で菅野を囲んだ。菅野の身長は170㎝体重65㎏、相手から見れば、ただの小さいガキであった。相手の身長は3人とも180㎝を超えていそうだった。ガタイもしっかりしている。何かやっていそうな雰囲気はあった。わざわざ路地裏に連れ込んで金をせびっている。よほどの暇な奴なのだろう。相手は、菅野を一発殴った。かなりの重さのあるパンチ、しかも、動きは速かった。ボクシングか何かだろうか。それでも、菅野は必死に抵抗する。

「なんぼか知りませんけど、一銭も払う気ありませんわ。」そう言うと再びパンチを繰り出したが、いくら、もらってあげているとはいえ、重いパンチを流石に二発はきつく、左フックを、右手で払い、がら空きになった体を、掌底で突いた。

「何しやがったてめえ!!」二人同時にかかってきた。菅野は、左側にいる男の右足を左足で払い、よろけたところに、右の男に、頭をぶつけさせた。左の男の頭には、右の男の歯が突き刺さっていた。

「いてえ!!」そして、男たち3人は捨て台詞を吐いて、その場を立ち去った。菅野は再び、アメ村を歩き出す。

 日本では、東京オリンピックや、万博に向けて、犯罪組織やその温床になりそうな町を「浄化作戦」として、行政と連携し、執行してきた。表向きはその数は減ったとされるが、今でも、覚せい剤は存在するし、犯罪組織も存在する。つまり、彼らは、一定の場所から離れ、分散していったのである。

「姉ちゃん。ドンペリ頂戴。がはは。」そう言った組織は、金を余らせることを嫌うので、キャバクラなどで大いに金を使う。だが、そういったところで飲んでいると、人目もはばからず。

「おい!!全員伏せろ。藤本さん。おとなしくしてくれたら、みんな死なずに済むんで、3000万円用意してもらえないですかね。」金属バットを持った男たちが、大量に押し寄せる。

「んで、そっちのお前は何涼しい顔してんだこら!!」起き上がると、そこには、巨体な男が立っていた。そして、藤本と呼ばれた男は、

「後藤さん。ここは頼んでいいですか。」

「しょうがねえな。ケツモチ料くらいは、働いてやるよ。」

「なんだ。ケツ持ちさんかぁ。じゃあ、やっちまうか!!」そういって、6人の男たちは、金属バットで後藤を殴打した。だが、後藤は全く動かなかった。それどころか、一滴の血も流れていなかった。

「どうした。もう終わりか?」そう言うと、男たちは激高し、再び殴打し続けた。頭や、足、腰、背中、腹、がむしゃらにたたき続けた。勿論顔も叩いた。

「じゃあ、こっちの番だな。」後藤はそうつぶやき、一人目の男に張り手を行う。二人目は頭突き、三人目は、アイアンクロー、四人目は、目つぶし、五人目は、空手チョップ。そして、最後の一人を、鳩尾蹴りで、全員を返り討ちにした。

「あんた、何者だ...」

「黒澤会の後藤虎太郎だ。またなんかあったら、ここに連絡しろ。いつでも相手にしてやる。」そう言って、名刺を渡した。

 菅野は、アメ村によった後、ユニバーサルスタジオジャパンに向かって、車を走らせた。アルバイトのためであった。そこのホテルで働いていた。そこには、いろんな客がやってくる。常連客や、観光客、ほとんどは家族連れである。菅野は事務的に明るくするように努め、それが終わったら、またいつもの日常に戻る。この繰り返しであった。

 駐車場に向かう途中、3人のデカい外国人が、菅野の向かう道を塞いだ。細い道で3人もいれば、十分に塞げた。

「どいてもらえますか?」菅野は英語で話しかけた。だが、

「どかねえよ。ちょっとついてきてくれや。」日本語で返してきた。

「今から家に帰るんで。」

「あんた、うちの雇い主が用があるんだって。」

「知らない。どけ。」外国人はいきなり殴りかかってきた。右ストレート。それをすれすれでかわし、カウンターを入れた。貫手。鳩尾貫きであった。そして、二人目の外国人がタックルしてきたところを、中指一本拳で、人中を突いた。三人目に対しては、頭を掴んできた。アイアンクローである。プロレスの技で、デカい手の指を立て、頭を掴む技であった。ミリ、と頭蓋骨が圧迫されるが、菅野は食指で、相手ののどを突いた。これにて3人組は倒れ、菅野は車に戻った。

 後藤虎太郎。黒澤会黒澤組2代目後藤組組長。彼の父親、後藤健三は、ある日、殺し屋、仙波由吉によって殺されてしまう。やくざをやっていれば、いずれ、殺しもやれば、復讐にも合う。自分の番が回ってきただけである。

 あっけない死だったという。日本刀によって斬殺され、大勢の男が挑んだにもかかわらず、あっけなく全員死んだという。

 虎太郎は仙波に復讐を行わなかった。その代わり、自分のしのぎに注力し、着々と、現在の地位を、多数の尊敬を寄せた。だが、先ほど、ボロボロになった組員が帰ってきた。やくざのしのぎは「暴対法」の締め付けによってほとんど失ったが、下の組員は、上の組員に上納金を払わねばならない。儲ける才能のない組員は、半ばチンピラのようなことをやらざる負えないのだ。3人の組員は、自ら金を巻き上げようとした、且つ、人まで用意したにもかかわらず、一人の男に対して、手こずってしまったのである。

「お前ら、うちの組員だってことはバレてないよな?」

「へえ。バレてないと思いますが。」そういうと、後藤は組員をにらみつけ、土下座している組員の脇腹を蹴り上げた。

「何がバレてないだ!!今はよ。ネットっていう便利な道具があんだわ。俺らは持つことは基本出来ないが、面が割れたら、情報集めんのなんて簡単なんだよ。」

「す、すいません!!」謝るしかなかった。堅気の人間に迷惑をかけておきながら、且つ金を回収できないという始末。もう、彼らには資金はなかった。だが、逃げることもできなかった。ここを逃げても、行くところはどこにもなかったからである。彼らは、スカジャンにスポーツブランドのジャージと言った服装であった。

「仕方ねえ。そいつの顔写真あんだろ。俺がそいつになしつけてやる。」後藤は菅野の顔を見た。

 菅野は、とある道場に来ていた。表向きは柔術を使って護身術を教えているところとされているが、その正体は、「明神活殺流」という、暗殺拳である。彼は、17代目当主・菅野悠人であった。彼の暗殺拳は、基本的に何でもありだった。剣術・武器術・格闘術・弓術など。いつから始まったなど誰もわからないが、少なくとも、17代は続いているということ。確認できる時点では、17代である。

 だが、彼は基本的に人を殺さなかった。基本的にである。

幼少のころから殺すことを、教え決まれてきた。人体の仕組みや、それの崩し。さらに、人間相手だけではなく、動物の壊しまで教え込まれた。

 16代目当主・菅野琉人。彼の教えは絶対であった。そして、免許皆伝を経て、17代目に就任する。それと同時に、大阪に進出し、元にあった沖縄は、副党首が責任者となっている。

 

 後藤虎太郎は、探偵にこのことを調べさせた。そして

「お前ら、とんでもないもんに声かけちまったなあ。」

「と、いいますと...」

「俺は考えないようにしてた。親父を殺した暗殺屋のことを。だが、そうも言ってられねえ。やくざは舐められたらおしまいだ。やつは、俺らの事なんて眼中にないかもしれんが、やつらは、生かしておけねえ。」

 調査資料の中に、とある男の名前を見つけた。仙波由吉。黒澤会・荒巻組を単身・刀一本で、全滅させた男である。

「こいつも明神活殺流だったのか。じゃあ、尚更見つけて殺さなければなるまい。」


 警視庁組織犯罪対策課。通称マルボウ。”暴対法”施工により、設立された、警視庁の特別部隊である。主に、犯罪組織の、捜査や取り締まりなどを行う。その中でも特に異彩を放っていたのは、井上直樹、そして、福田権蔵であった。

「警視庁組織犯罪対策課の井上や。今日はお前ら”藪蛇ファイナンスの捜査や。協力してもらうで。」組織犯罪対策課は裁判所の認めた令状を持てば、強制捜査が可能である。ここは、”藪蛇ファイナンス”という古いビルの一室に構える貸金業者である。表向きは法定利率で金を貸しているとしているが、実際はそれを大幅に超える「トサン」つまり、10日で3割の利率と言う意味である。今までは、生活安全課の刑事に金を渡せば、見逃してくれていたが、今回ばかりはそうもいかないようである。

「強制捜査。今まで、散々甘い汁吸うてきたのになあ。」田中は、バレれば即処分と言うリスクを背負いながら、やくざや闇金業者から見逃す代わりに、”隠ぺい料”を受け取っていた。

「何を言うとるんや。そんな証拠はどこにもないやろ。」

「田中さん。少々、調子乗りすぎですわ。」

「それやったら、どないすんねん。」

「おい、八雲」八雲と呼ばれた男はエントランスまでやってきた。中々デカい男で、首には重たそうな金ネックレス、両耳に金のイヤリング、2つか3つずつ、そして、高そうな時計、服は、無地の黒い半そでにグレーのジーパンであった。

「これはこれは。八雲俊さんやないですか。元プロボクサーのあなたがどうしてこんなところに?」元ヘビー級チャンピオン・八雲俊。身長185㎝。体重95㎏。試合中に相手を殺害したことにより、選手権を剥奪。表舞台で稼いでいた貯金は底をつき。”藪蛇ファイナンス”に拾われ、現在に至る。

「邪魔したら、公務執行妨害でしょっぴくぞ」

「やってみろ。」八雲は両こぶしを前に出し、構えを取る。田中は八雲を捕まえようとした数人の刑事を制し、両手を前に出し構えを取る。そして、八雲はシュという短い呼吸を出し、右拳をはなつ。田中は顔に喰らう。そして左拳で、ボディブローを決める。廊下の幅は狭く、そこまで大きな距離は取れないが、田中は後ろに下がった。

 八雲は距離を取った田中に対し、ローキックを決める。膝を崩したタイミングを逃さず、アッパーを決めた。再び八雲を取り押さえる刑事を田中は制した。

「安心しな。今のは準備運動よ。」八雲は起き上がろうとする田中にストレートを決めようとするも、顔に届く寸前に腕を掴んだ。そして、逆の手で服の袖をつかみ、八雲の右足を自分の右足にからめ、そのまま、前に倒れこんだ。そして、袈裟固めを完成させた。そして、手錠をかけた。

「ふん。そのまま強制捜査を始める。」捜査員は約10人ほどで、家宅捜索の場合は人数が変動することがある。金庫をパールでこじ開けたり、床のカーペットや、机の裏に至るまで隅々探した。結果、違法に貸し付けている証拠が見つかり、藪蛇ファイナンス一行は全員逮捕された。

「なんで、あの時止めたんですか?」田中に同行していた刑事、嵐山がたずねた。

「ああ。一目見て分かったんだよ。俺一人でかからなければ、全員死ぬってな。」

「俺たち10人より、田中さんの方が強いと?」田中はそれには答えず

「次は、一気に総本山を狙う。黒澤会の直参後藤虎太郎。そして、現組長の磯山響。あと、そいつらを殺した、明神活殺流もだ。」田中の目は狩猟をする目となっていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る