七十七日後
今日はたまたま非番ということもあり、
『ご
・ 蛍乃香の遺体の頭部はまだ未発見。
・ 遺体の切断面は鋭利な刃物にて斬られたと
・ 事件発生後に蛍乃香のスマートフォン再確認、未読メッセージあり。
・ 未読メッセージの送信日時は蛍乃香の事件発生当日。
・ メッセージの内容は出水のスマートフォンにあったものと同一。
他にもまだ未確認情報があるらしいが、この変死事件の話をマスコミが聞きつけたらしく、その対応も含めて管轄署と検察庁が上を下への大騒ぎになっていて、確認に手間取っていると羽金は言っていた。
そして昨日になって一条から突然連絡があり『重要なことが分かったからその裏を取るため一緒にきてくれ』とのことだったので、今日久々に車を出すことと
「ちっ、まだつかんのかいな。こんな調子やと年明けてまうで。もっとアクセル踏みい」
「やかましい。大体俺は警察官やのに交通ルール破れなんてよう言えたモンやな。俺はむしろ取り締まるほうやで、そういうの」
「ホンマに肝の小さいやっちゃのお。そんなこまいこといちいち言うとったら、世渡りなんぞでけへんで。まあ、あんた出世できなさそうな顔しとるもんな」
助手席で、ダッシュボードに両脚を放り投げた一条が悪態をついている。〝警察官として〟その姿勢を改めさせようとした白金だったが、一を言えば十どころか三十は返ってくる勢いでまくし立てられ、最後は折れてしまった。
「はあ……ホンマに何なんやこの人は。んで、今日はまだ車を出せとしか言われとらんけど、一体何の裏を取りにいくんや? というか重要なことが分かったって言うてたけど、その話も俺は何にも聞いとらへんのやけどな」
「どこに向かっとるんかも何の裏を取りにいくんかも、重要なことも全部、あっちにつきゃあ分かるからそう焦んな。ウチは無駄なことが大嫌いなんや」
「――――」
有名カフェのアイスモカを下品な音を立てて吸い、座席を後ろに倒して後ろ手に組みながら今日の予定を伝える一条のある意味ざっくばらんに過ぎる態度に白金は呆れつつも、これこそ彼女のスタイルであり、これが崩れないかぎりは深刻な状況になっていないのだろうと、ある意味安全のバロメーターとして、少しだけ謎の安心感を覚えながらインターを降りていった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
到着した神社は思っていたより規模が大きかった。
修復されたばかりだろう、本殿は真新しい。
白金は本殿に参拝した後に
白金にはこれまでに趣味らしい趣味はなかったのだが、
「一条さん、参拝とかはせんでええんか」
「ウチはそういうのはガラやないからあんたに任すわ。今ちょうど
その言葉からそれほど時間を置かず、一人の男性が
「この度は貴重なお時間をいただきまして、本当に感謝申し上げます。先日ご連絡致しました一条と申します。本日はどうぞよろしくお願いします」
一条の完璧な〝営業トーク&スマイル〟に内心で面食らった白金だが、そこは警察官として表情には一切出していない。
「これはご丁寧に。そうですね、私どもとしても当社の御
挨拶もそこそこに、一条と白金は
「それでは、本日は当社の
「どうぞよろしくお願いします。あと貴社で催されています〝
「承知致しました。それでは早速始めましょうか。少々長くなりますが、大丈夫ですか?」
「ええ、大丈夫です。どうかよろしくお願い申し上げます」
一条と
~~~~~~~~~~~~~~~~
では、始めてよろしゅうございますか。
はい。よろしくお願い申し上げます。
先ずは当社の
以上、当社の御
それでは当社における
先にお断り申し上げておきます。これからご説明申し上げます
興りは
この土地では〝子は宝物、子は未来、子は希望〟とされておりまして、数え年で七つまでの子供は
当社から
無論、そのままではめでたい儀にはふさわしくありませんので、三歳の時には飯を食らって飢えからの解放を願い、五歳の子供は体を
……
最初に申し上げましたように、先の
それでは次に、
三歳の子は男女、五歳は男児、七歳は女児のみとなっておりまして――
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「――ありがとうございました。大変貴重な学びと気付きを得られたお話でした」
「それでは、長々とお邪魔致しましてすみませんでした」
「いやいや、お役に立てたのであれば
「ありがとうございます。それでは失礼致します」
一条はおもむろに立ち上がり、再び頭を垂れて
その音は澄み切った空気を切り裂いて、本殿の後ろに坐す山に届いたかのようだった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
帰路についたとき、すでに日は沈みきっていた。一条は相変わらず両脚をダッシュボードに放り投げ、シートを後ろに倒して寝そべっている。
「一条さん、今日の話には何ぞ収穫でもあったか?」
「寝ぼけとるんかパンチ。そらもうアリよりのアリって奴やで。逆にあんたあの話を聞いても何も気づかんかったんか」
「いや、特には――」
「あんた、耳も頭もよくないんやな。そんなんじゃ生きていくん苦労するやろ。同情すんで」
今日一日パシリ同然にこき使われ、ガソリン代も食費も出して貰えず、あまつさえこうして馬鹿にされる始末の白金。彼はハンドルをしっかり握りしめながら、社会の理不尽さを嘆き、心の中で涙するのだった。そんな彼に同情した訳ではないだろうが、表情に影を落とす白金を見かねたのか、一条がため息をつきながら助け舟を出した。
「パンチ、あの
「…………あ」
「ようやっと気づいたか。
このくび、くらわせ、とがつぶし。
このくび、ゆわえて、つゆはらい。
このくび、まつりて、あまがえり。
「あ、ああ、事故死した人たちは食い散らかされたような痕跡があって――」
「自殺したウチの依頼人は首を〝ゆわう〟とか言うて死んでった。そうなると、
「偶然……とは、いいがたい状況やな、
「こないな偶然あってたまるかいな。まあ、これで
「ふむ。それは俺や
「ああ、そういうことやな。まああんま時間なさそうやけど、やるだけやってみるわいな」
「おいおい、頼むで。俺はまだ死にたないからな」
「アホウ、ウチかて目の前で死なれるんは寝覚めが悪い。何とかするから待っとけ」
そう言葉を締めながら『ただなあ……』と
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