スプモーニの悪魔

八柳 心傍

第1話 誘惑

 ウィスキーボトル越しに見えたのは

 此方を見つめるバーテンダーの心配げな表情。

「潰れないように」と初老の男性は

 それだけ伝えるとグラスを丁寧に磨く作業に戻った。

 仕方ないじゃない、鼈甲色べっこういろのこの子が私を誘惑するの。

 彼女はこの時間帯のご多分に漏れず

 酔いが少し回って身体が熱くなり

 頬から伝わるテーブルの冷たさに心地よさを感じている。 

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