アインシュタインの遺言
一方で、カリラ達から死角になっていたパスには異変が起きていた。空中で白く光るパスから、2匹目のサンドワームが顔を出し始めていたのだ。たまたまそちらの方向を向いていたフィーコは、最初にサンドワームの出現に気づく。
「これ以上この世界の人々を巻き込むわけには!」
フィーコは、パスのすぐ近くまで走り寄る。そして床に転がっている兜をきちんと置き直すと、パスを閉じるべく詠唱を始める。
その間にも、パスから少しずつサンドワームがその凶悪な口部をせせり出してくる。
「フィーコ、あいつ何やって!?」
別の方向で柵を作っていたピスケは、フィーコの行動に気づいて驚愕する。だがフィーコは、自分の位置からはかなり遠い。
「カリラ! ワレーシャ! フィーコを守れ! サンドワームを封じるために詠唱している!」
2人は驚いて後ろを振り返る。パスから頭部を出したサンドワームが、その下のフィーコにまさに酸を吐きかけようとしていた。2人は大急ぎで駆け出す。
「やめろぉ!」
カリラが走りながら、槍状になったカマイタチをサンドワームに向かって投擲する。槍はサンドワームの頭部に横から深く突き刺さるが、サンドワームは少し怯んだだけで大きなダメージを受けていない。サンドワームは、再度フィーコに向かって口を開く。
「くっそ、間に合わない!」
カリラが死に物狂いで駆ける。サンドワームの口に、酸がダラダラと充満し始める。フィーコは兜の前で動かない。
サンドワームがついに酸を吐こうと反動をつけた、その時。
「お出口はこちらです!」
フィーコの声と共に、兜が白く発光し始める。それとともにパスとサンドワームも白い光に包まれる。突然のことに、サンドワームは酸を吐くのをやめて混乱しだす。
「フィーコ!」
カリラはフィーコの腕を掴むと、すぐにその場からフィーコを連れ出す。サンドワームは白い光に包まれ見えなくなり、やがて光も弱まり始める。パスが、閉じた。
「はー、流石に肝が冷えたねー」カリラが心底安心したように言う。
「カリラ、ありがとう。あなたが槍を放っていなかったら、私は五体満足ではいられませんでした」
そこに、ピスケが駆け寄ってくる。
「おいフィーコ、いくら何でも無茶すぎるだろ! あんなに接近して無事で済んだのは奇跡だ!」
「心配かけてごめんなさい。私、皆さんみたいに間合いとかタイミングとか分からないので、無我夢中でやってしまって……」
「まあ無事だったんだし良しとしませんこと?」
ワレーシャが言うと、ピスケも口をつぐむ。ワレーシャはフィーコに視線を飛ばす。
「それより、わたくし達ちゃんと帰れるんですの? パス閉じてしまいましたわよ?」
「ええ、それは大丈夫だと思います。魔法陣はちゃんとありますから」
「その前に片付けをしないといかんぞ。突貫工事をしすぎたからな」
ピスケは、周囲を取り囲む柵を見渡しながら、右手をかざす。しかし、指輪が光らない。
「……ん? ドワーフが顕現しないぞ」
「あれ、アタシもだ!」
カリラも、カマイタチが出なくなっていることに気づく。ワレーシャも同様だ。困惑する3人を見て、フィーコが自分の指輪をかざしながら語り出す。
「実は、パスを閉じるときの副作用で、周辺にいると召喚術のパスが一度閉じてしまうんです。召喚の指輪からは常にパスを開こうとする魔力が出ているので、時間が経過すれば元に戻りますし、私が詠唱して早めることもできます。もっと早くお伝えするべきでした」
「ということは、この前のミノタウロス戦の直後もそうなっていたのか?」ピスケが尋ねる。
「はい、あの時はたまたま幻獣を使わなかったので、気づかないうちに時間経過で回復したのだと思います。」
「これは何とも厄介な副作用ですわねぇ……」
ワレーシャは、顎に指を当てて首を傾げる。だがカリラは気にする様子でもなく、
「まあすぐ直るんだしいいじゃん! それよりお腹空いたー! このままだとアタシ食い逃げ犯になっちゃうぞ!」
「どういう脅しだ。だが空腹はその通りだ。さっさと後始末をして戻ろう」
ピスケが賛同すると、フィーコも頷く。
「はい、では召喚のパスを再活性化しますので、少しお待ちを……」
4人の上空には、すでに夕暮れの紫の空が広がっていた。
同じ頃、駅前広場から少し離れた路地裏。閉店した無線ショップの横で、未唯がスマホを握っていた。
「本当にいたよ異世界人! ううん、会えたのはホント偶然! アインシュタインの遺言、真面目に取り組んどいて良かったよー。そうだね、パスクローザーの開発、もっと急ピッチでやらないとダメかも。うん、じゃあね、また連絡する!」
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