第13章: 最後の選択

1. 覚悟の決断


3月下旬、桜が満開を迎えようとする頃、千紗は研究施設に向かっていた。両親との対話から数日が経ち、彼女の心には重い決意が宿っていた。


施設に到着すると、将人と佳奈がすでに待っていた。二人の表情には、不安と期待が入り混じっていた。


佳奈が心配そうに千紗の顔を覗き込んだ。「千紗ちゃん…」


千紗は二人を見つめ、静かに話し始めた。「将人くん、このプロジェクトのこと、もう一度詳しく説明してくれない?」


将人は真剣な表情で頷いた。「わかった。このプロジェクトは、政府の極秘研究なんだ。量子コンピューティングを使って、現実世界をシミュレートし、さらにはそれを操作する…そんな、SF小説のような研究さ」


「でも、なぜ私たちが…?」千紗が尋ねた。


将人は少し躊躇した後、答えた。「実は…このプロジェクトには深い歴史があるんだ。かつて、大城戸将人という研究者がいてね。彼は…私たちのような若者たちを失った経験から、この社会システムの構築に関わったんだ」


「大城戸さんは、若い世代の可能性を信じていた。そして、彼の思いを受け継いだ研究者たちが、このプロジェクトを立ち上げたんだ。私たちが参加できているのは、その意志を継ぐためなんだよ」


「そんな重要なプロジェクトに…」佳奈が震える声で言った。


将人はゆっくりと頷いた。「ああ。特に千紗さんの量子力学の理解度は驚異的だ。それに…」彼は一瞬言葉を詰まらせた。「君の浩介くんへの想いは、大城戸さんの経験と重なるものがあるんだ」


千紗は複雑な表情を浮かべた。「そう…でも、犠牲が必要なんでしょ?」


将人の表情が曇った。「ああ…このプロジェクトで過去を変えるには、等価交換のような原理が働くんだ。つまり…」


「誰かの命と引き換えってこと?」千紗が静かに言った。


将人は重々しく頷いた。「そう…浩介くんを救うためには、誰かが彼の代わりに…消えなければならない」


佳奈が震える声で言った。「そんなの…ひどすぎる…」


千紗は窓の外を見つめた。窓の外では、桜の花びらが風に舞っている。


千紗は微笑んだ。「うん。私、考えたの。両親…AIの両親に、この世界は私たちが幸せになるためにあるって言われたの」


佳奈が涙ぐみながら言った。「そのとおりよ。だから誰かの犠牲なんて…」


千紗は静かに続けた。「でも、私の幸せは…こーちゃんが生きていることなんだ。それに…」


彼女は一瞬言葉を詰まらせたが、すぐに続けた。「私たちは試験管ベビーで、遺伝子情報は保管されてる。つまり…私と同じ遺伝子を持つ人間を…また作れるんだよ」


将人と佳奈は驚きの表情を浮かべた。


「でも、それは千紗ちゃんじゃない!」佳奈が叫んだ。


千紗は優しく微笑んだ。「うん…でも、こーちゃんなら、きっと私の分まで幸せに生きてくれると思う。それが…私の幸せなの」


将人は深く息を吐き、決意を固めたように千紗を見つめた。「千紗さん、実は話があるんだ。僕は…大城戸将人のクローンなんだ」


千紗は驚きの声を上げ、佳奈はそっとうなずいた。


将人は続けた。「大城戸も、かつて君のように大切な人を失った。そして…君と同じように、大切な人を救うために自分を犠牲にしたんだ」


「そんな…」千紗が呟いた。


「このプロジェクトは、君たちが幸せになるためにあるんだ」将人は真剣な眼差しで言った。「もし君にとっての幸せがそうであるなら…その気持ちを尊重したい。でも、僕としては絶対嫌だ。最後まで他の方法を探すことは諦めない」


佳奈が激しく首を振った。「だめよ!絶対にだめ!」彼女は千紗の手を強く握りしめた。「千紗ちゃん、お願い。こんな方法じゃなくて…私たちで一緒に乗り越えていこう」


「佳奈ちゃん…」千紗の目に涙が浮かんだ。


「私は絶対に認めない」佳奈は決然とした口調で言った。「千紗ちゃんがいなくなるなんて、そんな世界…想像したくもない」


千紗は佳奈を優しく抱きしめた。「うん、私も、佳奈ちゃんがいない世界なんて想像したくない。でも、こーちゃんがいない世界も想像できなかったよ…だから…」


「嫌よ!」佳奈は叫んだ。「浩介くんだって、きっとこんなこと望んでないわ。千紗ちゃんが犠牲になるなんて…絶対に許さない」


将人は二人を見つめながら、静かに言った。「佳奈さんの言う通りだ。千紗さん、その行動は、身勝手過ぎると思わないか?」


千紗は一瞬躊躇したが、すぐに決意の表情を取り戻した。「ごめん。何回も…でも…このままじゃこーちゃんと会えない…」


佳奈は泣きじゃくりながらも、千紗にすがりついた。「そうだよ。千紗ちゃん。諦めないってみんなで決めたじゃない。だから…」


将人は深いため息をついた。「約束してくれ。最後の最後まで他の方法を探し続ける。自分のことを犠牲にするようなことは、もう、言わないでくれ」


千紗は感謝の笑顔を向けた。「ありがとう、将人くん、佳奈ちゃん、大丈夫、私も死にたいわけじゃない。こーちゃんと生きて幸せになりたい。だから…最後まで諦めないから」


窓の外では、桜の花びらが舞い続けていた。千紗、佳奈、そして将人の複雑な思い。三人の感情が交錯する中、彼らの運命は大きく動き出そうとしていた。



2. 希望のシミュレーション


千紗は、静まり返った研究室のスクリーンを見つめていた。シミュレーションの映像には、彼女たち3人の未来が鮮明に映し出されている。新しい世界で浩介はバスケットボール部のキャプテンとして、仲間と共に活躍していた。佳奈は将来の夢を見据え、進学に向けて頑張っている。千紗自身も、笑顔で彼らと共に過ごしている姿がそこにあった。


「これが、私たちの未来…」千紗は心の中で呟いた。


将人は彼女の隣で、淡々とシミュレーションのデータを解析していた。「この世界では、全員が無事に幸せに暮らしている。君が望んでいた通り、浩介も、佳奈も、みんな未来を手に入れたんだ。」将人はそう言いながら、少し緊張した面持ちを見せていた。


千紗はしばらく黙ってスクリーンを見つめ続けた。確かに、表面上では何の問題もない。全員が元気に生きて、未来へと歩みを進めている。しかし、彼女の心は不穏な予感に包まれていた。


「このシミュレーション、何度も確認してきたんだよね?全員が無事な未来が本当に続くって、言えるの?」千紗は静かに尋ねた。


将人は一瞬言葉を詰まらせたが、冷静さを取り戻すようにデータをさらに詳しく解析した。「この未来は、今のところ安定している。少なくとも、この数年の間は…。でも…」


「でも?」千紗は将人の言葉の裏に隠された真実に気づいていた。


「将人くん、これで本当に全員助かるの?」佳奈も疑念を拭いきれてはいないらしい。


将人は一瞬、言葉に詰まったが、意図的に軽い口調で答えた。


「大丈夫、シミュレーション上ではみんな無事だ。全員助かっている」


千紗はその答えを受け入れようとしたが、心の中で何かが引っかかっていた。彼女は自らが感じた違和感を無視せず、シミュレーションのデータをもっと深く解析し始めた。結果、彼女はあることに気づいた。


「…これって、未来のどこかで再び悲劇が起きる可能性を示しているんじゃない?」


千紗の声には、冷静さと確信が混じっていた。画面には確かに彼女たちの無事な姿が映し出されていたが、その未来が無限に続くわけではない。一定の時間が経てば、また何らかの悲劇が起こる可能性が高まる。それは、この新しい世界のバランスがどこかで崩れることを示していた。


「そうだ…でもそれは、遥か先のことだよ。このシミュレーションから観測できる範囲では、僕たち全員が無事なんだ。それだけでも十分じゃないか?」将人は目を合わせず、そう言った。


「でもそれって、私たちの知らない他の誰かが…」


「それはわからない! わからないんだ! だが観測できていない以上、犠牲者はいない。そうだろう?」


千紗は将人の苦悩を感じ取った。彼もその現実を知っていたが、彼の心の中で戦いが起こっていたのだ。全員を救いたいという強い願望と、未来で誰かが犠牲になるかもしれないという現実。その事実を見たくないと彼は心のどこかで願っている。


その時、佳奈が重い口を開いた。


「…私は、それでも、みんなに生きていてほしい、身勝手もかもしれないけど、他の誰かが犠牲になっても、浩介くんや千紗ちゃん、将人くんに幸せでいてほしい」


「わかるよ、その気持ちは…」


千紗は佳奈の言葉を受け止めながら、視線をスクリーンに戻した。シミュレーションの映像は静かに流れ続けている。全員が幸せに暮らしている未来を目の前にしながらも、千紗は心の奥で確信を得ていた。この未来は偽りだ、と。


「佳奈ちゃんの言うこと、わかるよ。そうだね、これ以上はやめよう。せっかくみんなが生きている未来が見つかったんだ。誰かが犠牲になることより、今はその未来を信じたい」


千紗は微笑みながら言ったが、その微笑みの裏には深い決意が隠されていた。彼女はすでに、全てを理解していた。目の前に映し出された幸せな未来は、脆弱なバランスの上に成り立っており、誰かが犠牲にならなければその未来は維持できないのだ、と。


「千紗、君がそれでいいなら…」将人が言葉を切りながら言った。


「うん、大丈夫。ありがとう、将人くん、佳奈ちゃん」千紗は優しい口調でそう答えた。


将人と佳奈が研究室を後にする中、千紗は一人静かに残った。彼女はスクリーンに映る未来をもう一度見つめ、深い息を吐き出した。


「これでいいのよね…」


千紗は自分自身にそう言い聞かせた。彼女の決断はもう揺るぎないものだった。新しい世界で、誰もが幸せに生きていく。その未来を確実なものにするために、自分は何をすべきかははっきりしていた。


その時、千紗の脳裏には、浩介との幼い頃の思い出が蘇った。彼が笑顔で「いつか一緒に世界を変えよう」と語ったあの言葉。彼の笑顔を守るためなら、自分はどんな犠牲も払う覚悟があった。


「こーちゃん、みんなを頼むね…」千紗は心の中でそう呟き、静かに席を立った。


彼女は自分が消えることで、未来が続くと信じていた。そして、それを誰にも告げることなく、全てを背負っていく覚悟を決めた。


桜の花びらが舞う外の景色を一瞥し、千紗はその場を後にした。



3. 衝撃のシミュレーション結果


2月上旬、厳しい寒さが続く中、千紗たちの研究は新たな局面を迎えていた。何百回ものシミュレーションを繰り返す中で、千紗はある可能性に気づき始めていた。


研究施設の中央にある量子シミュレーターの前で、千紗は深い思考に沈んでいた。


「千紗さん、どうしたの?」将人が心配そうに声をかけた。


千紗は静かに顔を上げ、将人と佳奈を見つめた。「ねえ、気づいたんだけど…」


「何に?」佳奈が身を乗り出して尋ねた。


「私たちがやってきたシミュレーション、全部失敗に終わっているわけじゃない」千紗の声には、決意と恐れが混ざっていた。


将人が眉をひそめた。「どういうこと?」


千紗は深呼吸をして、言葉を続けた。「唯一成功したパターンがある。私たちの誰かが…こーちゃんの代わりになる時」


部屋に重い沈黙が流れた。


「まさか…」佳奈が小さな声で呟いた。


将人は真剣な表情で千紗を見つめた。「つまり、僕たちのうちの誰かが犠牲になれば、浩介くんは助かるということか」


千紗はゆっくりと頷いた。「そう…でも、それは…」


「誰かの命と引き換えってことだよね」佳奈が震える声で言った。


千紗は窓の外を見つめながら、静かに語り始めた。「私たちがやってきたシミュレーション、全て失敗したわけじゃない。ただ、私たちが無意識のうちに、その可能性を避けていただけ」


将人は深くため息をついた。「確かに…その通りだ。でも、それは倫理的に許されることなのか」


「でも、それしか方法がないなら…」千紗の声が途切れた。


佳奈が千紗の手を握った。「千紗ちゃん、まさか…」


千紗は佳奈をまっすぐ見つめた。「私が…こーちゃんの代わりになればいい」


「ダメだ!」佳奈が叫んだ。「そんなの…絶対にダメだよ!」


将人も厳しい表情で言った。「千紗さん、そんな選択は許されない」


千紗は涙をこらえながら言った。「でも、それしかこーちゃんを救う方法がないなら…」


「他の方法を探そう」将人が決意を込めて言った。「まだ諦めるには早い」


佳奈も頷いた。「そうだよ。私たち、一緒に頑張ってきたんだから」


千紗は二人の言葉に、少し安心したような表情を浮かべた。しかし、その目には決意の色が宿っていた。


「わかった…でも、もし本当にそれしか方法がなかったら…」


「その時は、また一緒に考えよう」将人が優しく言った。


3人は互いを見つめ、静かに頷き合った。窓の外では、雪が静かに降り続いていた。彼らの前には、想像を超える難しい選択が待ち受けていた。しかし、今はまだ、希望を捨てるには早すぎた。


千紗の心の中では、浩介を救うための決意が、静かに、しかし確実に芽生え始めていた。



4. 最後の夜


シミュレーションの結果を確認してから数日が経ち、千紗は自室で一人、静かに思いを巡らせていた。明日、彼女は最終的な決断を下すつもりだった。窓の外では、満開の桜が夜風に揺れている。


千紗はベッドに座り、両親からもらった写真アルバムを開いた。そこには、幼い頃からの思い出がぎっしりと詰まっていた。ページをめくるたび、懐かしい記憶が鮮明によみがえってくる。


幼稚園の入園式。泣いていた千紗に、浩介が手を差し伸べてくれた日。「大丈夫?一緒に遊ぼう!」その言葉が、今でも心に響く。


小学校での運動会。佳奈と一緒にリレーを走り、将人が声を枯らして応援してくれた。みんなで分け合った おにぎりの味を、千紗は今でも覚えている。


中学校の文化祭。四人で出し物を企画し、夜遅くまで準備した日々。失敗も成功も、全てが今は愛おしい思い出だ。


そして高校入学。桜の花びらが舞う中、浩介と歩いた通学路。その時の胸の高鳴りを、千紗は今でもはっきりと感じることができる。


「みんな…ごめんね」千紗は小さく呟いた。


彼女は立ち上がり、机に向かった。そこには、両親と友人たちへの手紙が置かれている。千紗は一つ一つ手に取り、もう一度内容を確認した。


美佐江と健太郎への手紙には、育ててくれたことへの深い感謝の言葉と、これまでの愛情に対する返礼の思いが綴られていた。人工知能の両親だと知った時の戸惑いと、それでも変わらない愛情への感謝を、千紗は丁寧に書き記した。


佳奈への手紙には、永遠の友情と、浩介を託す思いが。幼い頃からの親友。喜びも悲しみも分かち合ってきた大切な存在。「これからは、私の分まで浩介のそばにいてあげて」そんな言葉を添えた。


将人への手紙には、彼の知恵と勇気への感謝、そして未来を託す言葉が。量子力学の勉強を教えてくれたこと、そしていつも冷静に周りを見守ってくれたことへの感謝を込めた。


そして最後に、浩介への手紙。千紗はペンを取り、最後の一文を付け加えた。


「こーちゃん、私の分まで、幸せに生きて」


千紗は深く息を吐き、窓際に歩み寄った。満開の桜を見つめながら、彼女は幼い頃の約束を思い出した。


「いつか一緒に世界を変えようって…こーちゃんが言ってたね。私、やっとその約束を果たせるよ」


千紗は目を閉じ、明日の計画を頭の中で整理した。誰にも気付かれずに、量子シミュレーターを起動し、自分を犠牲にして浩介を救う。それが、彼女の選んだ道だった。


そして、最後の瞬間に閃いたアイデアを思い出す。量子シミュレーターのプログラムに加えようと考えた小さな変更。それが何をもたらすかはわからないが、千紗の心に小さな希望の光を灯した。


「みんな、幸せになってね」


千紗は静かにベッドに横たわった。明日への決意と、大切な人たちへの想いを胸に、彼女はゆっくりと目を閉じた。


窓の外で、桜の花びらが静かに舞い落ちていく。それは、千紗の決意と覚悟を見守るかのようだった。そして、彼女の行動が紡ぎ出す物語は、まだ誰も知らない未来へと続いていくのだった。



5. 新しい世界へ


朝焼けが空を染め始める頃、千紗は目を覚ました。今日が、彼女が選んだ道を歩む日だった。静かに身支度を整え、両親に気づかれないよう家を出た。


研究施設に向かう道すがら、桜並木の下を歩く。風に舞う花びらが、千紗の決意を後押しするかのようだった。


施設に到着すると、千紗は深呼吸をして中に入った。廊下を歩きながら、これまでの日々を思い返す。浩介との思い出、佳奈との友情、将人との知的探求。全てが彼女の人生を形作っていた。


量子シミュレーターの前に立ち、千紗は操作パネルを見つめた。ここで全てが決まる。彼女の指が震えていた。


「こーちゃん、佳奈ちゃん、将人くん…みんな、幸せになってね」


千紗は静かに呟き、決意を込めてボタンを押した。するとその瞬間、昨夜閃いたアイデアを思い出した。躊躇なく、彼女は急いでプログラムに小さな変更を加えた。


「こーちゃん、気が付いてくれるといいな…」


彼女の思いを込めたメッセージ。最後の希望を込めた願いが届くように。だが、果たしてそれが届くかはわからない。でも、ちょっとしたこの変更が未来に何かをもたらすかもしれない。


千紗はふふっと笑うと、決意を込めてボタンを押そうとした。


その時、突然ドアが開いた。


「千紗!」


「千紗さん!」


佳奈と将人が息を切らせながら駆け込んできた。二人の手には、千紗からの手紙が握られていた。


「やめて!」佳奈が叫んだ。


「他の方法を考えよう」将人も真剣な表情で訴えた。


千紗は驚きの表情を浮かべたが、すぐに優しく微笑んだ。


「ごめんね、でも…これが私の選んだ道なの」


そう言って、千紗は最後のボタンを押した。


「みんな…ありがとう。私、幸せだよ」


まばゆい光が部屋を包み込み、千紗の意識が遠のいていく。最後に見た景色は、佳奈と将人の必死の形相。そして、大切な人たちの笑顔だった。


その瞬間、新しい世界線が生まれた。


一方、千紗の家では、美佐江と健太郎がリビングで千紗の手紙を読んでいた。


「私たち…千紗を本当の娘のように愛していたのね」美佐江がAIらしからぬ感情を込めて言った。


「ああ、そうだ」健太郎も静かに頷いた。


光が強まり、世界が書き換わっていく。千紗の想いと、彼女の選択が作り出す新しい未来が、今まさに始まろうとしていた。


施設の外では、桜の花びらが舞い散る中、新しい朝が始まっていた。誰も、この瞬間に何が起きたのか知る由もない。ただ、どこかで千紗の想いが、新しい物語の種となったことだけは確かだった。

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