第七話『黄色いカボチャと赤いドレス』
——バーでの一件の、数日後。
いつもの朝のニュース番組の放送終了後、
「皆さん、聞いてくださいよ。僕、昨日親父に、白馬を買ってもらったんです。血統書付きですよ?
まじかー。子煩悩な
そこで、スタジオの出入り口のドアが、ドン、と、勢いよく開く。ディレクターだ。鬼の形相で、スタジオに駆け込でくる。
「おい舞央! 臨時ニュースが入った! 番組続行だ! 位置につけ! ほらほら、急げ、急げ!」
と、ディレクターは、己の馬鹿を
「ちょちょちょちょっと、なんですかディレクター。臨時ニュースっていうのは?」
「俺の口からは、少々伝えにくい。まぁ、いいから読め。原稿はこれだ」
舞央仁の顔が、曇るのがわかった。
何かとんでもないことが、起こったようだ。
わたしは、スタジオの脇から、見守る。
「じゃあいくぞ! カウントダウン。十、九、八、七、六、五、四……」
ディレクターが無言で、さん、に、いちの合図を手で送る。
舞央仁は冷や汗を垂らしながら、カメラに向かって原稿を読み始める。
「えぇ……臨時ニュースです。今日未明、ヨンマル連邦のステルス機と見られる航空機が、ヤワラカ国各地に
爆弾。
死者まで出ている。
舞央仁が動揺するのも無理はないだろう。スタジオ内の全員が、放送内容確認用のテレビモニターに視線を移す。わたしも同じようにする。
ブレの激しい画角。
戦慄するスタジオ内。
皆が、再び舞央仁に視線を戻す。
何やら、新たに原稿が手渡された直後。
「追加情報が入りました。現在判明している被害状況は以下の通りです。爆弾は全部で五十発程度。被害範囲は、ショワッカ地方、ハナテン地方、サンゴロ地方、メジアン地方、タブ地方、クゥダ地方、イマヌエ地方、サイナン地方、ベイハイ地方の九地方。爆発により、少なくとも百以上の死傷者が出た模様。
舞央仁が歯切れ悪く原稿を読み終えると、わたしの耳穴の、無線通信機が、ピィと鳴った。
「
「はい、大臣。爆弾の件ですね」
「うむ。今、国防省総出で調査を進めている。被害を受けたのは十八都府県三十都市。爆弾は計四十九発だ。死者推計四百名、怪我人も現段階で判明している分だけでも千三百名。宣戦布告無しの同時多発攻撃。派手にやられてしまった、国防大臣として不甲斐ないよ。それで、お察しの通り頼みだあるんだが……」
「何なりと」
「至急、イマヌエ区のイズミ
「承知しました。すぐに向かいます」
わたしは、スタジオのみんなにバレないよう、こっそりとその場を去った。
○◁●◀︎○◁●◀︎○◁●◀︎○◁●◀︎○◁●◀︎○◁●◀︎
焦げ臭い。
何が焦げた臭いなのかは、想像に難くない。国防軍の先行隊があちこちに見えるが。救出活動は、しばらく終りそうにない。人々が、次々とタンカーで運ばれていく。怪我人が多い。ここ周辺だけで、数十人が亡くなったそうだ。
イズミ
四発の
大人たちの悲痛の叫び。
子供たちの泣き声。
死者の沈黙。
わたしは、死者の一体の目の前にしゃがみ込む。
血。
至るところに、血。
潔白だったはずの
その白い服と、白い肌と、白い心は、今や
目は大きく見開いている。
丸い白目の中心に、まだ僅かに澄んだ黒目。
それはまるで、何かを訴えているかのようだ。
その視線の先には、侵入禁止を意味する
それがぐるりと張り巡らされた中心には、
カボチャには、傷一つない。
不思議なことに、イズミ町に落ちた
そしてわたしは、このカボチャの正体が何なのか、一目見てすぐにわかった。
『
それは明らかに、新型の
国防省の極秘資料で、これと同じ見た目をした爆弾を見た。
中身は核燃料ではなく通常火薬だが、それが極めて破壊的なものであるのには、変わりない。
再び、
もう、黒目が、曇りきっている。
わたしはその上にそっと手をかざして、閉じてやった。
そこで、隣に、わたしの知っている人影がやってくる。
「この一連の爆撃、ヨンマルのクソどもは何を企んでいると、お前は考える?」
舞央大臣が、わたしにそう問いかける。
わたしは勘づいていた。
ヨンマル連邦が不発弾を二発も
奴らはこの、やけに目立つ
なぜ、そんなことをするのか。
これは、「次は
「次は、核が飛んで来ます」
「ああ。我々は、早急に手を打たねばならない」
そうだ。
絶対に阻止しなければならない。
〈第八話『対峙』に続く〉
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