覗き

「ふう、これでヨシっと」


 私は跳び箱の前から立ちあがると、グラウンド倉庫の中を見渡した。

所々に段ボール箱が無造作に置かれており、倉庫の中は雑然としている。


(はぁ~、倉庫の片付けめんどくさいなぁ。木戸先生も私が日直だからって、こんな早朝から片付け押しつけないでほしいよねぇ。制服汚れちゃうし)


 ガラガラガラ


 グラウンド倉庫の扉が開いた。物音の方へ視線を遣ると、ちょうど詩乃ちゃんが入ってくる所だった。制服のスカートを揺らしながら、私に近づいてくる。


「お、遅くなってごめん高見戸さんっ! せ、先生がいきなり私に倉庫の片付けしろって言ってきたから、ちょっと遅れちゃって……」


「あっ、詩乃ちゃん。ううん、私もついさっき来たところ。ホント木戸先生もひどいよねぇ。朝っぱらから女子にこんな重労働させるなんてさぁ」


 私は眉を顰めてむくれっ面をする。詩乃ちゃんは少し顔を俯け、「う、うん……」と小さくうなずいた。


「じゃあ、ちゃっちゃと片付けちゃおっか! そこら辺の段ボールを戸棚に入れていけばいいだけだからさ」


「う、うんっ」


 そして私たちは段ボール箱の片付けを始める。

テキパキ。テキパキ。


 二人でやると、あっという間に段ボール箱が片付いていった。

そして10分ほどすると、とうとう段ボール箱は5箱分ほどとなる。


「あっ、残りの段ボール、棚の一番上の段じゃないと置けないや。私の背じゃ届かないし、詩乃ちゃんそこの脚立持ってきてくれる?」


「わ、わかった」


 詩乃ちゃんは倉庫の奥にあった脚立を持ってくる。

その間、私は跳び箱の隣に残りの段ボール箱を積み上げていった。


「じゃあ、私が段ボール置いてくから、脚立支えててね詩乃ちゃん」


「う、うん」


 詩乃ちゃんは跳び箱の前に脚立を置き、両手で握りしめる。

私は段ボール箱を持って脚立を登った。


「よいしょ……っと」


 一つ目の段ボールを積み上げると一息つき、私は脚立を降りようとする。

けれどその時、ふと妙な気配を感じた。


 じーーっ


 脚立から見下ろすと、詩乃ちゃんが私を見上げたまま固まっている。

私はハッとなって気づく。詩乃ちゃんの視線のその先は――


「ちょっと詩乃ちゃん! なにスカート覗いてるの!?」


「……あっ!」


 私は慌てて脚立から降りると、ムッと詩乃ちゃんを睨む。

詩乃ちゃんは申し訳なさそうな顔をして視線を逸らした。


「もう、やめてよね! 女子同士とはいえスカートの中見られるなんて恥ずかしいんだから!」


「ご、ごめんなさい。見えそうだなって思ったから、つい……」


「……はぁ、しょうがないなぁ。次からは見ないでね?」


「う、うん……」


 詩乃ちゃんは顔を赤らめて項垂れる。

私はちょっと呆れながらも、次の段ボール箱を手に取った。

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