コンテストの裏側で

縦横七目

コンテストの裏側で


#トドノベルコン2024


 ある日、よくわからないハッシュタグがTLに流れた。

 普段ならスルーするはずだが、何故かこの文字に惹かれるものがあった。

 ちょっと調べてみるか。

 TLに流れてきた好みのえっち絵の絵師を探すくらいの気軽さで、そのツイートをクリックした。





 ぐしゃり

 原稿用紙を握りつぶす。

 またしてもゴミを生み出してしまった。

 これじゃ駄目だ。トドオカさんの魅力はこんなもんじゃない!


 トドオカなる人物を調べて1日をつぶしたあの日から、ずっとトドノベルを書いていた。

 しかし文才がなかった。小説なんて書いたこともなく、小中高と国語の成績は中の下。作者の気持ちなんてわかるわけねえだろとしか考えてこなかった自分にとって、トドノベルはとてつもなくハードルが高い。

 そして一方、ライバルたちはというと、新進気鋭の速筆作家、大乱闘カクヨムコンのランカー、実力派ラノベ作家など、練り上げられたトドションシボラーばかりである。


 すでに2作は応募したが、このままでは敗北するのが目に見えてる。締め切りまであと1週間しかない。


 ――このままじゃ負ける


 だから自分は……





 やった! ついにやったぞ!!


 深夜2時、しかし興奮が収まらない。きっと鏡を見れば、目が充血している顔を写るだろう。

 締め切り前日。まだ3作目はできてない。しかし、勝利を確信した。


 悪いな。今回は勝たせてもらうよ!


 そう隣の人物に話しかける。

 いや、それは人だった物だ。

 そして顔面はラーメンの汁に浸かっている。


 新進気鋭の速筆作家も塩分には勝てなかったようだ。

 通常の1000倍の塩分が入った特製ラーメンを平然と食べ始めたときは驚いたが、しっかり効いたようだ。



 6日前、敗北が目に見えた時、天啓が下ったので実行してみることにした。

 まず、身元を確認するのは容易かった。

 極道だのロボットだのパワハラなどの嘘の誹謗中傷を行っているとして、開示請求をし、住所を特定した。


 そして、ある者を恐喝がじり、ある者を沈殺しずめ、ある者を売捌トバした。

 最後の敵はラーメンの食い過ぎで死んだと後日ニュースで放送されるだろう。


 勝った! 勝ったぞ! トドコンの勝利は誰にも渡さない!!


 そうだ自分はトドコンで……


 あれ? 



 なんで勝つ必要があるんだっけ?




 バンッ



 銃声が鳴った。そう思わせるほど音が腹から鳴った。

 腹に大きな穴ができていた。


 ド〇ゴンボールで見たことあるな


 あまりの衝撃のせいか痛みは来ない。吞気に思考できるほどだ。しかし倒れる体。


「おうおうおう。お疲れさんやなあ! ■■くん」


 目の前に見知らぬ人物がいた。

 ただ声は知っていた。スペースに参加したときの声のままだった。


「君すごいなあ。この1週間で100人も殺すとか才能あるで。」


 トドオカらしき人物は、楽しそうに言う。


「ど、どうして?」


 あなたは? 何で知ってる? 何故ここに?

 もっと聞くべきことがあるのに、曖昧な言葉しか出てこなかった。


「そないなこと言われてもなあ、元々トドコンはマネーロンダリングのために世間様にバレんようにやってたんや。

せやのに、阿保どもが大量に応募してきてなあ。このままやと賞金が山分けになるさかい、君らみたいな阿保どもを潰したっちゅうわけや。」


「ただなあ、ワイは主催者やから、あんま動くと御上に目ぇつけられるんで、君みたいな子に頑張ってもらったわけや。

おかしいとは思わんかったか? 今まで聞いたこともないコンテストのくせして、みょーに気になって気になって仕方があらへん。そないなことありえへんで。」


 ……確かに、振り返ってみれば、おかしなことばかりだ。そもそも小説なんて書くような性格でもないし、見知らぬコンテストなんて以ての外。コンテストの勝ちに異常にこだわってたのも、トドションシボラーを殺して回ってたのも、どう考えてもおかしなことだ。


「簡単やったで? 君みたいな仕事もしとらん。友達もおらん。家族とも縁切ってるような奴を操るんは。」


 そうだ。自分は昔からどうしようもなくて、家族にも迷惑かけて、誰も周りにはいなくなって。


「洗脳されてたってことですか?」


「せやで。君みたいな卑怯で汚い犬畜生が人殺す勇気なんかある訳ないにきまってるやろ。この2週間の君は全部嘘っぱちや!」


「――訂正してください」


「あ?」


 全部噓っぱちなのかもしれない。自分の性格は自分がよくわかってる。


 でも


「確かに自分はカスでゴミでクズで、それでいて、誰かを殺す勇気なんかないクソ野郎だけど、



この2週間は最高だった!


トドノベルを書いて、消して、また書いて。初めて全力でやったんだ! これは絶対嘘じゃない!


自分は――



バンッ


 気が付いたときには、体が壁にめり込んでいた。胸に残る衝撃と痛み。

 恐らく、目にも捉えられない速さで殴られたのだろう。


「えらい回る口やなあ。でもワイは忙しいねん。せやからそこの壁とでも喋っとき。」


 そういって、背を向け去っていく。


 ふと、足が止まり、


「……ただ、確かに君のトドノベルは2つとも面白かったで。」


 顔はこちらに向かなかった。自分には、トドオカさんがどんな顔をしてるのかはわからない。だけど自分は知っている。合理性の塊であるトドオカさんは嘘はつかない。


 だからこの言葉はきっと嘘じゃない。





「被野、さっさと起きんかい!」


 トドオカが言うと、ラーメンの器から顔を出した。


「いやあ、本当に死ぬかと思いましたよ。」


 被野はラーメンの汁を吸いながら軽口を叩く。


「ラーメンの食い過ぎで殺すとか、いくら洗脳中とはいえバカすぎますよ! ハハハ!」


「ワイはほんまに死んでてもおかしない思うたで。」


 被野が書いたトドノベルを入賞させ、その賞金を被野からトドオカに9割バックする。それが、今回の計画である。

 しかし、何者かが面白がってか、SNSでトドコンの存在を拡散。想定以上の参加者となった。

 2週間という短い期間で参加者を着実に減らし、最後の優勝候補は、たった今、壁に埋めた。


「ほな撤収するで。」


 深夜に轟音が鳴ったのだ。いつ騒ぎになってもおかしくはなかった。


「ちょっと待ってくださいよお。まだラーメン食い終わってないんですって。」


「まだ食うんかいな。」


「結構うまいんですよ、これ。あいつラーメンの店開くべきですって。

なあ■■くん。レシピとかないの?」


 当然、返事はない。


「あーもう逝っちゃいましたか。トドオカさん、もう少し手加減というか何というか……ん?」


 被野は、壁に埋まった■■を見る。


「こいつ、よく見たら笑ってますよ。なんでですかね?」


 トドオカはそちらをふりかえず無表情で、





「さぁなあ、ワイにはわからんもんや」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

コンテストの裏側で 縦横七目 @yosioka_hatate

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ