先輩、恋してください。

汐野ちより

1.一目惚れ

第1話

 完璧な晴天、窓の外の桜が幸せな予感を湛え、微笑んでいる。深田ふかだ初音はつねは教室からずっと、そんな景色に見惚れていた。

 やがて唐突に震えたスマホ、ふと我に返る。


「お前どこにいんの?もう俺校門出たけど!」


 通知欄に表示された幼馴染からのメッセージに初音は、わ、と小さく息を呑む。一体どれくらい長くここにいたのか。「今そっち行くから待ってて!」と慌てて送信。あたふたと荷物をまとめ、すっかり誰もいなくなった教室を飛び出す。

 しかし勢いは、そこで途絶えた。


「昇降口ってどっち……」


 絶望的な小さな呟き。そもそも今日は高校の入学式、初音は新入生。校内の様子など知る由もない。しかし見回しても誰もいない。幼馴染に助けを求めるのもなんだか格好悪く、とりあえず目の前の廊下を突き進んでみる。しかし何度角を曲がっても、昇降口らしき場所に辿り着かない。

 初音は、完全に校内で迷子になった。


「ねえ」

「うわっ!はい!」


 すると突然、今しがた通り過ぎた誰もいないはずの教室のドアが開き、誰かの声が飛んでくる。初音は反射で大きく返事をしてしまい、慌てて振り返る。


「もしかして、迷子?」


 目を向けた先で、制服をきっちりと着込んだ男子生徒が、怪訝そうにこちらを見ていた。

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