かつて神と呼ばれたクソガキ――神域を追放され力を封じられた破壊神、その結果壊していたゴミが下界へ溢れ落ちて大混乱! 尻拭いは創造神と共に――

チモ吉

第1話 プロローグ

 その日――不思議なことが起こった!


 空から流れる一筋の光。霹靂のように一瞬の輝きだけを残してそれは地面に衝突した。


 落下点にはやや大きめのクレーター、その中心には卵のような形をした禍々しい気配の漂う大岩。

 大岩が震え、砕け散る。その中から現れたのはなんと――


「忌々しい神めっ!」


 ――天に向かって吠える、一匹のクソガキだった!


 粗野な鎧に身を包みたなびくマントは夜の帳のように黒い。錆色の髪は全てを傷つけるように尖っていて、妖しげな紋様が全身を包み燐光を放っている。正にラスボスの風格。

 唯一の欠点は、誰がどう見ても彼の外見が十歳かそこらのクソガキであったことだ。


 顔立ちは幼さを残す愛くるしさ、愛嬌に溢れ威厳も畏怖もまるっきりない。ないったらない。これっぽっちも、一ナノサイズもありやしない。背丈も低く腕も足もぷにっとしていた。子どもだ。クソガキだ。どうしようもなくチビスケだ。


「――む、ここは何処だ? 風の女神め、オレ様を何処まで吹き飛ばした? 見慣れぬ景色だが……やけに魔の霧が濃いな。ここは魔界か?」


 意味深な呟きをしてみてもお遊戯会にしか見えない。台詞を淀みなく発してもどうにも口調がたどたどしい。精一杯背伸びをして大人のフリをするチビッ子のよう。


 さて、そんなクソガキが独りごちているとそこに隕石らしきものの落下を受けて初動調査に訪れる者達の影。

 この近辺の研究学校――聖サンクチュアル女学院の学生であった。


「人間だと? ならばここは下界か……あの女、よくぞオレ様を落としたな」


 なるほど、周囲の景色が見慣れぬはそれが原因かと納得するクソガキ。当然調査にやってきた人間さんは隕石が落ちてきた地点にそんな妙なチビッ子がいたので大層驚いた。


 驚いたが、チビッ子が可愛らしかったのでそれほど警戒もせず近づいてきた。


「ねえキミ、どうしてこんなところにいるのかな?」


 問いかけに彼は鼻をならして答える。


「人の子が神たるオレ様と対等に口を利くか。よかろう、殺してやる」


 目の前に現れた少女――少女とはいえ、明らかにチビッ子よりはお姉さんに見える――を一瞥し腕を天に掲げ振り下ろした!


「………………む?」


「えっと……?」


 しかし、なにもおこらない!


 クソガキは数度同じ動作を繰り返し、そして不敵に笑った。


「なるほど、貴様はこの人間界でも腕利きの強者だな。このオレ様の攻撃を何度もそう容易く受け止めるとは。まるでそよ風ということか。オレ様としたことが、人間というものを少々見くびっていたらしい」


「その……あれ? や、やられたほうが良かったかな……?」


 どうも彼女は目の前の少年が子供心に振る舞っていると判断したようだ。事実、彼の存在の言葉はごっこ遊びのようであったし、その少女には戸惑い以外いかなる影響も与えていなかった。


「こういう時は……えっと、調査員規定第七条、『保護対象を確認した場合即刻危険域から離脱すること』……よし。キミ、ちょっとごめんねっ」


「ぬぉっ、何をする人の子よっ! 離せ、離さぬか無礼者めっ! このオレ様を誰だと心得ているっ!」


 あたかも荷物を抱えるようにひょいと少女に捕まってしまうチビッ子。


 チビッ子の言葉に嘘偽りはない。なぜなら彼は絶対強者であり嘘をつく必要などこの世界の何処にも存在しないから。


 天より堕ちしその者は、傍若無人の無頼漢、天界一のならず者。


 神々の戒めによって見た目相応――つまり十歳かそこらの子ども程度に力を封印されてしまった神の一柱。


「オレ様は破壊神ヴァルギリオンだ、不敬であろう人の子よ!」


「分かった分かった、リオン君ね。キミがどうしてここにいたのかは知らないけど、ここってば隕石が落ちてきて危ないとこなんだ。とりあえずお姉さんと一緒に安全なところにいこっか、ね?」


 かつて神と呼ばれたクソガキだった。

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