第49話
「明楽…よく眠ってるな」
夜中。眠っている明楽の頬をクロは優しく撫でた。すると、医務室の扉が開くとウルフが立っていた。
「クロ…」
その声に、クロは立ち上がり医務室を出た。
「準備できたよ」
「あぁ」
クロは珍しく手袋をはめた。
「そういえば、あんたの怪我どうなの?」
ウルフは心配そうにクロを見た。
「俺は大丈夫。痛いけど、これくらい大丈夫だ」
二人は地下へ歩いた。とても冷たく感じた。
「遅くなってごめんね。暴れ回って繋げるの大変だったの」
ウルフは重そうな扉の鍵を開け、扉を開けた。すると、鎖に繋がれた工藤が牢屋の中で唸っていた。
「さっきまで暴れてたのに、疲れちゃったのかな?まぁ、ここがどう言う場所かちゃんと教えないとね」
ウルフは鞭を持った。
「工藤…また会えたな」
その声に工藤は顔を上げた。
「クロ…なんで…」
「言っただろ。地獄以上の苦しみを味わってもらうと」
牢屋の鍵を開け、工藤に近づいた。そして、工藤を一発殴った。
「!?」
「これでも、気が済まないんだ!」
工藤の首を掴み、持ち上げた。
「あ…が…」
「お前はもう死んでいる。だがな、苦痛は永遠に続く。覚悟しておけ」
そのまま工藤を投げ飛ばした。
「ぐぁ!」
クロは冷めた目で工藤を睨んだ。
「汚ねえ声だすなよ。あ、忘れてた。ウルフ。あいつらまだおるだろ?こいつに見せてやれ。現実を知ってもらわないとな」
「あら。いい提案するじゃない?でも、かなりボロボロよ?」
「構わない。いいからここに入れろ」
「はーい」
ウルフはボタンを押した。すると、何かを巻きつく音が響いた。しばらくすると、以前クロが捕まえてきた三人が鎖で引っ張られてきた。
「うっ!」
あまりの光景に工藤は絶句した。なぜなら、腹が裂かれ何もない状態なのに生きているからだ。
「汚いの出しといたんだけどさ、こうやって引っ張られないと自力で移動もできないの。でも、死んでるから生き地獄?死に地獄?の様な状態よ」
ウルフは悪魔の様な笑みをしておた。顔をよく見ると、ボロボロで目ん玉がない者もいた。クロは三人のうちの一人の顔を持ち上げ、工藤に見せつけた。
「お前もこうなるんだよ。しかも永遠にこれが続くんだよ。楽しみだよな」
工藤は恐怖で失禁しそうになったが、出ないことに気づいた。
「あれ…なんで…」
「お前はもう死んでるんだ。だから、性別は無くなるんだ。でも、お前が生きている時にその汚いの切り裂いておけばよかったよ」
クロの顔は笑顔だが、目が笑っていない。
「クロ!謝る!もう許してくれ!俺は死んだんだろ!?」
涙と鼻水で工藤の顔はぐちゃぐちゃだった。
「俺に謝られてもな…そもそも、謝る相手が違うだろ!」
もう一発クロは工藤を殴った。
「お前のせいで一生消えない傷を負った人がおる。その人に謝るのが筋じゃないのか?まぁ、死んでるお前には一生会わせないが」
すると、クロの瞳がサファイア色になった。
「お前は…あいつ…三日月さんとまさか…」
「あぁ。そのまさかだ。俺はお前らみたいに明楽を悲しませる様なとはしない。お前は永遠に地獄以上の苦しみを味わえ。自分が犯した罪がどれほど大きいか考えてみるといいが…考える暇があるといいんだがな」
クロは牢屋を出て鍵を閉めた。
「クロ…ここから出せ!」
最後に縋った光景がとても醜く見えた。
「俺はこれで失礼するが、ウルフと担当の者、こいつらを永遠に可愛がってやってくれ」
すると、ウルフの後ろに黒い影が五人立っていた。
「今回は人が増えたから、こっちも人増やしたわ」
ウルフは鞭を構えた。
「クロ。後はやっておくわ。楽しめそうだし」
「わかった。じゃぁ、頼むよ」
クロは地下を出ようとした。
「お前…一生後悔させてやる!」
工藤の最後の雄叫びが響いた。クロはゆっくりと扉を閉めた。
「後悔…お前以上に後悔してるよ」
すると、悲鳴が響き渡ったが構わずクロは地下を後にした。部屋に戻り、椅子に座った。深いため息ををつき、手袋を抜いた。
「…」
机に置かれているデザインを眺めた。
「…そうだ」
クロは思い浮かんだ物をそのまま描いた。
「これなら絶対に似合う。明楽も喜んでくれそう」
ふと窓を見ると、太陽の光が見えた。
「げ…もう朝か…寝てないが、いっか」
クロは朝食の準備をした。
「明楽。食べてくれるといいな」
淡々と作り、明楽の分を用意し医務室に向かった。扉を開けると、明楽は起きていた。
「おはよう。起きてたか。朝食を持って来たよ」
明楽はクロを見た。
「おはよう…」
何処か元気がなかった。朝食をテーブルに置いた。
「どうした?」
「夢に…お父さんが出て来た」
「そうか。何か言われたか?」
「…あまり言えない事情だけど、ライトさん?私に魔法をかけてたみたい。あの歌がお父さんから私を守ってたみたい」
クロは驚いた。
「え…全然知らなかった。歌を歌ったらレイが後退するのは気づいたが、魔法をかけてたのは知らなかった」
「うん…」
明楽は微妙な顔をした。
「まぁ、明楽とナイトの子守唄として叔父さんが歌ってたし。不思議な力はあるなとは思ってたが。そんな事があったんだな」
「そんなところかな。後はお母さんとの出会いだけど…ちょっと言えないかな」
「そうか。あ、朝食が冷めるから食べな?」
見ると、たまご粥だった。明楽はゆっくりと食べた。
「美味しい」
「よかった」
クロは椅子に座った。
「朝からきついな」
「うん…久しぶりに嫌な夢見た感じ。お父さん、ただ自由に生きていたかったって感じした。谷川に汚れ仕事命じられるしで、嫌な思いしてたそう」
「…」
しばらくして、明楽は朝食を食べ終えた。
「ごちそうさまでした」
「うん。よく食べた。そういえば、具合どうだ?」
「大丈夫そう。首も痛くないし」
「よかった」
「そういえばクロ。寝てないの?」
その発言にクロはギクっとした。
「え…な…なんでわかったかな?」
「いや…くま出来てるよ?大丈夫?」
「あ…うん。このあと寝るよ。そうそう。みんなが落ち着いたら宴会をしようと思ってるんだ。この戦いの勝利を祝ってだな」
「いいね!楽しみ!」
明楽は笑顔だった。
「よし。まずはみんなが落ち着いてからにしよう」
クロは食器を持った。
「今から寝てくるから、明楽もゆっくり休んで」
しかし明楽はどこか寂しい表情をした。クロはため息を吐いた。
「一緒に寝るか?」
「うん!」
クロに支えてもらいながら部屋へ行き、ベットに入った。
「食器洗ってくるから、先に休んでて」
そう言いクロは食器を片付けた。しかし明楽はまだ起きていた。クロが戻ると、明楽はじっとクロを見た。
「休まなくて大丈夫か?」
「クロが来るまで待ってた」
クロもベットに入り、明楽の頭を撫でた。
「ありがとう。さ、休もう」
「うん。おやすみ」
「おやすみ」
明楽とクロは眠った。
気がつくともう夕方になっていた。
「もう、夕方か」
クロはメガネをかけた。横をみると、明楽は寝ていた。クロは優しく明楽を撫で、ベットをでた。デザインを出し、眺めた。
「寝てるな」
机に置き、呪文を唱えるとデザインが物になって出て来た。
「後は…サイズが…」
明楽を起こさないように、そっとサイズを合わせた。
「…うん。大丈夫そう」
小さなケースにしまった。すると明楽が目を覚ました。
「…クロ?」
「おはよう。調子はどうだ?」
「うん。大丈夫」
明楽はゆっくりと起きた。
「ご飯たべるか?」
「うん。食べる」
「よし。今作ってやるぞ。ちなみにリクエストあるか?」
明楽は少し考えた。
「うーん。ビーフシチュー食べたい」
「最近作ってなかったな。よし。今作るから待ってて」
クロは早速ビーフシチューを作った。明楽はゆっくりとベットからでて、椅子に座った。しばらくすると、クロは出来立てのビーフシチューを持って来た。
「お待たせ」
明楽の前にビーフシチューとパンを置いた。
「いただきます」
明楽はパンにビーフシチューをつけて食べた。
「うま…」
「よかったよ」
クロもビーフシチューを食べた。
「うん。うまい」
「クロのご飯いつも美味しい。ありがとう」
明楽は笑顔だった。
「そう言ってくれたら、俺も嬉しい。こうやって、明楽とご飯を食べれる事が幸せだよ。明楽。戻って来てくれてありがとう」
「もー。クロ固すぎる!」
クロをどついた。
「いやいや。俺、めっちゃ心配してたからな?」
「うん」
クロは明楽の頭を撫でた。
「さ、冷めないうちに食べよう」
「うん!」
冷めないうちに食べ終え、クロは食器を片付けた。明楽はのんびりとしていた。
「大丈夫か?」
クロが来た。
「うん。大丈夫。痛みもだいぶ引いてきた」
「よかったよ」
明楽の横に座った。
「明楽が元気になってよかった」
「私も、クロが大丈夫でよかった」
クロは深呼吸をした。
「さて。風呂に入るか?」
「そうだね。一緒に入りたい」
「いいぞ」
お風呂にお湯を張り、二人は湯に浸かった。
「気持ちいい…」
「だな」
クロは明楽の体を見た。
「傷…もうないな。回復が早いな」
「そう言うクロも傷とか無いじゃん」
その一言に、クロは自分の体を見た。
「…言われてみれば。明楽と仮契約の時よりも回復が早い。どうりで動けれると思ったよ」
蹴られた所も痛みが軽いのはそう言うことだったのかと思った。
「明楽。ありがとうな」
明楽は照れくさそうに答えた。
「いや…私は何もしてないよ。でも、ありがとう」
それから交互に洗い、体を拭き着替えた。
「ふぅ。気持ちかった」
「よかった」
二人はベットに座った。
「今日はゆっくりした日だったね」
「戦いが終わった。しばらくはゆっくりしよう」
「だね」
明楽はベットに横になった。クロはそっと明楽を抱きしめた。
「明楽。ありがとう」
「私の方こそ、ありがとう。クロ」
そのまま二人は眠った。
それから数日が過ぎ、城では戦いの勝利を祝っての宴会が行われた。大広間には兵士たちが集まり賑わっていた。明楽はクロに作ってもらった振袖を着ていた。クロは宴会の挨拶をした。
「みんな。先日の戦いは本当によく頑張った。おかげで明楽を救う事ができた。ありがとう!」
その声に兵士は拍手を送った。
「今日は勝利を祝っての宴会だ。みんな楽しんでほしい」
そして、宴会がスタートした。
「明楽ちゃん綺麗ね」
ウルフは明楽の振袖姿に目が輝いていた。
「ありがとうございます。クロが作ってくれたんです」
「似合ってるわよ」
一方でクロは兵士一人一人に挨拶をして回っていた。
「クロって、本当に仲間思いですよね」
「まぁね。そこが良いところよ。さ、明楽ちゃんも飲もうよ!」
ウルフはお酒をとった。
「私はジュースでいいですよ」
明楽とウルフは乾杯をした。
「明楽ちゃん。戻って来てくれてありがとう」
「こちらこそ、助けてくれてありがとうございます」
ウルフは一気飲みした。
「プハー。今日は飲むわ!」
ウルフはお酒を足した。
「ウルフさん。飲みすぎないでね…」
明楽は少し引いていた。皆でしばらく飲み食いをしていき、楽しい時間が過ぎていった。
「もっと飲むわよ!」
ウルフの掛け声に兵士たちが歓迎した。
「あれ…クロ?」
明楽は辺りを見回したが、クロの姿がなかった。ふとベランダに繋がる窓を見ると開いていた。明楽は窓の方へ向かった。
「…」
月明かりに照らされながらクロは手すりにもたれていた。ポケットからある物を出し見つめていた。すると、誰かの気配を感じた。
「明楽か?」
ある物をポケットにしまい、後ろを振り向いた。
「クロ。こんな所にいたのね」
「悪いな。ちょっと外の空気吸いに来ただけだ。ウルフはもう仕上がってるだろ?」
「う…うん」
明楽は苦笑いした。
「まぁ、いい。みんなが楽しんでいればそれで良い。今まで頑張ってたんだ。今日は羽目を外しても許す」
クロは明楽に近づいた。
「明楽。この世へ行って、空の散歩に行かないか?」
「え?いいけど…」
二人で宴会の様子を覗くと、誰も二人がいない事に気づいていなかった。
「行けそうですね…」
「今のうちに行こうか」
明楽の手を取り、クロは指を鳴らした。
「ついたぞ」
一瞬でこの世へ来た。草原が広がる場所。
「クロ。離れててね」
明楽から距離を取ると、明楽は青白い光に包まれながら三日月龍の姿になった。
「よし。鞍つけ…」
「今日は鞍いらないわよ」
「え…?」
その声に、クロを抱きかかえ明楽は空を飛んだ。
「ちょっ!明楽!」
「大丈夫。ゆっくり飛ぶから」
明楽はゆっくりと飛行した。風が心地よかった。
「明楽。急なお願いで悪いな」
「ううん。私も、クロと散歩したいと思ってたから、大丈夫」
しばらく飛んでいると、山々に入り明楽とナイトが住んでいた洞窟が見えた。しかし、草木で生い茂り住んでいた痕跡はなく、自然に帰っていた。
「懐かしいわ…」
明楽は寂しそうに呟いた。しばらく飛んでいると、断崖が見えた。明楽は地面に着地し、クロを下ろした。断崖からの景色はよく、月の光で辺りが明るく見えた。
「ここでナイトを返した…」
「そうだったのか」
寂しそうにしている明楽をクロは優しく撫でた。
「明楽。人の姿になってくれないか?話したい事がある」
明楽は不思議に思いながらも、人の姿に戻った。
「明楽。前にも聞いたが、これからどう生きたい?」
クロは真剣な表情で明楽を見つけた。
「もちろん。クロと一緒にいるよ。私にはクロしかいない。クロと別々の道を歩んでも、こんな幸せを味わうことはできないと思う」
明楽の表情に迷いはなかった。すると、クロは明楽の前で膝をついた。
「え!クロ!?」
明楽は驚いた。
「明楽。俺は弱い人間だ。これから後悔をする事があると思う」
「クロ…」
「だけど俺は、これから先全力でお前を守って生きたい。三日月明楽のライダーとして。そして…」
ポケットから小さなケースを取り出した。蓋を開けると、三日月の指輪が入っていた。埋め込まれている宝石が、月明かりで輝いていた。
「…!」
明楽は驚いた。
「三日月明楽のパートナーとして共に歩いていきたい」
クロが言い切った後、静寂が走った。
「クロ」
明楽は勢いよくクロに抱きついた。
「もちろんよ。もちろんに決まってるじゃない。こんな…素敵な贈り物…」
明楽は嬉しくて、涙が流れた。クロは優しく明楽を抱きしめた。
「受け取ってくれるか?」
明楽は深く頷いた。
「クロ。ありがとう」
明楽が泣き止むのを待ち、クロはそっと明楽の指に指輪をはめた。
「クロ…綺麗…」
「明楽に似合うのを作ってたんだ。気に入ってくれてよかった」
クロはどこか安心していた。
「クロ。これからよろしくね」
明楽は嬉しそうだった。
「あぁ。こちらこそ、よろしくな」
月明かりに照らされながら、二人は唇を重ねた。
「さぁ、帰ろうか」
「うん」
クロは指を鳴らすと、断崖には誰もいなくなった。
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