第24話

「なんですって!」


「それと、工藤って男が隣にいました」


「あいつ…」


クロは怒りに満ち溢れていた。


「研究所の資料を置いてきたんです。ここへ逃げるために。だから、奴らがここへ来るのも時間の問題かと思います。まぁ、解読に時間もかかると思うし、我々も今日初めて来れたので…」


「あいつらが本気を出せば、ここなんてすぐ見つかると思います。参ったな…」


「ただ、今日明日に来るわけではないと思います。すみません。異世界の研究について、取材されてしまったばかりに、こんなことになるとは…」


鈴鹿は悔やんでいた。


「考えても仕方がない。とりあえず、鈴鹿さん達はこれからどうしたいですか?」


「この世へ戻って、海外へしばらく避難しようと思います。もちろん、成田を連れて」


鈴鹿は成田を見た。


「わかりました。今日はもう遅いので泊まってってください。あなたの龍も疲れてると思うので」


「ありがとうございます。突然来て申し訳ないです」


クロは兵士を呼び、鈴鹿達に部屋を用意した。


「明日の朝、この世に戻ります」


「わかりました。今日はゆっくり休んでください」


クロは部屋に戻った。


「どうだった?」


明楽とウルフが心配そうに駆け寄った。


「大丈夫だ。敵ではない」


「そう…あ、夕飯作ったよ。ウルフさんと一緒に」


「ありがとう。今食べるよ」


クロは椅子に座った。


「どうなの?」


クロはテーブルに置いてあった夕飯を見た。


「大丈夫だ。今日はカレーか。いただきます」


クロはカレーを食べた。


「腹減ってたんだ。ありがとう」


「よかった」


明楽はクロの横に座った。


「で、あの人達何者なの?」


ウルフも椅子に座った。


「研究者らしい。それと、叔父さんのことも知っていた」


「え…」


ウルフと明楽は驚いた。


「話を聞く限り、敵ではない事は確か。だが、灰色の世界への行き方を奴らが知ってしまったかもしれん。時間の問題だ」


「どう言うことよ!」


ウルフは怒った。


「本当に敵じゃないの!?」


「あぁ。敵じゃない。異世界について研究してる人だ。それで、あいつらが情報を掴んで脅しにきたそうだ。なんとか逃れたが、研究資料を放棄して逃げてきたから、奴らが奪ってる可能性もある。ただ、ここへ来れたのが研究して初めてだと言っていた」


「灰色の世界とこの世の世界って行き来が難しいんですか?」


明楽は疑問に思った。


「あぁ。俺は、叔父さんが作ったルートで行き来しているだけだ。今はそれが無くならないように大切に使っているだけだ。自分での行き来も独自に勉強している」


「私はもう死んでるしー」


「そもそも、生きている人間がここに来ること自体がおかしいことだし」


クロはカレーを食べ終えた。


「で、今日はあの二人と龍はここに泊まる。明日の朝、この世へ戻って海外へ避難するそうだ」


「そうなの」


「明楽は会わなくていい。悪い人ではない事はわかっているが、万が一の事だ。俺の部屋にいな」


「わかった。でも、龍見たかったな」


クロはお茶を飲んだ。


「龍は相当疲れてるそうだ。今日はゆっくり休ませて明日に備える。大丈夫だ。怪我もなさそうだし」


「よかった」


明楽は食器を片付けた。


「ありがとう。ちょっと図書室に行くよ」


クロは部屋を出て行った。


「明楽ちゃん。手伝うよ?」


「ありがとうございます」


ウルフは食器を拭いていた。


「ちょっと不安になりますね…」


「大丈夫。明楽ちゃんは、私とクロで守るから。拐われても絶対に救出しに行く」


「ありがとう」


片付け終わり、ウルフは部屋へ戻った。明楽はシャワーを浴び、着替えた。


「クロ…まだ来ないのかな」


明楽は部屋の明かりを消し、ベットに横になった。




「これに頼ってばかりだな」


広い図書室でクロは本を探していた。開いてみると、手書きで全て書かれていた。


「叔父さん」


「クロ…」


明楽が図書室に入ってきた。


「どうした?」


「もう夜遅いよ?」


明楽はクロの所に来た。


「ごめんな。ちょうどよかった。一緒に読むか?」


図書室の椅子にクロと明楽は座った。


「この本のおかげで、俺はこの世と灰色の世界を行き来できてるようなもんだ」


「そうなの?」


「この本は、叔父さんの手作りだ」


本を開いた。そこには、複雑な呪文や手書きでアドバイス等が書かれていた。


「この本を覚えるのに大変だった。小学の時から覚えるようにと叔父さんから教えられてな。この城に叔父さんはペイントを付けてくれた。そして、この呪文が暗号みたいな役割となり、行き来が可能になる」


「難しそう…」


「一度覚えてしまえば、自由に行き来ができる。だが、ここは影と隣り合わせな世界…」


明楽はふと思い出した。


「クロ…影と戦ってみたい」


クロは驚いた。


「ん!?やってもいいが、もう寝るんじゃないのか?まぁ、付き合ってもいいぞ?」


「え!いいの?」


「体疲れてないか?大丈夫?」


「むしろ燃えてきたんだが…」


クロは呆れていた。


「はぁ…しょうがない。ただし、無理と分かったら助け出す」


「わかった」


明楽は着替え、刀手に取った。クロと一緒に外に出て、門の前に来た。


「いいか。ここから一歩出たら影が襲ってくる。油断は禁物だ。無理だったら直ぐに言え。言いな」


「はい!」


明楽は髪を高く縛り、気合を入れ一歩踏み出した。月の光が灰色の世界を照らした。一面灰色。


「…」


明楽は刀を構えた。すると、明楽の影から何かが出てきた。


「!?」


明楽は刀を影に刺したが、何も起こらない。すると背後から気配を感じた。


「うっ!」


影が明楽を攻撃してきたが、紙一重で明楽は交わした。影は黒く人型になっていた。


「なるほど」


するとその影が分裂し、二体になった。


「あぁ、めんどくさい」


明楽は刀で攻撃したが、影の動きが早く捉えることが出来なかった。


「チッ…」


明楽は影の攻撃を避けつつ攻撃を仕掛けた。影が隙を作った瞬間、明楽は影を刺した。が、影はそのまま刀に纏わりついた。


「え…」


明楽は刀を抜こうにも抜けなかった。


「チッ…」


明楽は刀を離し少し距離をあけたが、別の影が明楽を襲いかかった。


「っ!」


明楽はなんとか交わしたが、明楽の影から手が伸び足を掴まれた。


「なに!」


すると、明楽の刀を持った影が明楽にめがけて駆け出した。明楽はナイフで攻撃を受けた。


「負けてたまるか…」


明楽はナイフで影を弾き飛ばし、足を掴んでいた影を蹴飛ばした。


「私の刀を返せ!」


明楽は殺気をまとい、影に襲いかかった。影は明楽の刀で受けていたが、明楽のスピードが早くなるにつれ、追いつけなくなった。その隙に明楽はナイフで影の腕を切り落とした。すると、影は地面に吸収されて行った。


「明楽。そこまでだ」


クロが明楽にシールドをかけてあげた。


「帰るぞ」


「うん」


門をくぐると、クロはシールドを解除した。


「大丈夫か?」


大量の汗が真剣に戦っていたことを表していた。


「大丈夫。シャワー浴びるから…」


「一緒に風呂入るか?」


明楽はドキッとした。


「えっ…」


「体洗ってやるよ。疲れただろ?風呂上がりに髪の毛も手入れするぞ」


明楽は顔を真っ赤にした。


「は…恥ずかしい…」


「でも…俺ら。関係持ってるじゃん?恥ずかしいはないと思うが」


クロは明楽を部屋へ連れて行き、浴槽にお湯を入れた。


「嫌なら一人づつでもいいぞ」


明楽は俯きながら首を横に振った。


「一緒に入りたい…」


「わかった。早く服を脱ぎな。汗で体が冷えるよ」


明楽は服を脱いでいった。


「明楽は綺麗だな」


クロも横で服を脱いでいった。体を洗い、浴槽に入った。


「いい湯だな」


「眠くなっちゃいそう…」


「おいおい。寝るなよ」


クロは考えていた。


「明楽」


「何?」


「明楽は、この戦いが終わったらどうしたい?」


明楽は首を傾けた。


「どう言うこと?」


「今の気持ちでいい。気持ちなんてコロコロ変わるから。この戦いが終わったら、また洞窟に戻るか?それとも、俺とこの城で暮らすか」


「私は、クロと一緒にいたい。ずっとそばにいたい」


明楽はクロの手を繋いだ。


「ありがとう。一応聞いてみただけだ。さて、頭洗うか。一度、明楽の頭洗ってみたかったが…」


「いいよ?私も、人に洗ってもらうの初めてだけど」


「よし。じゃぁ、洗うぞ」


クロは丁寧に明楽の頭を洗ってあげた。


「気持ちいい…」


「よかった」


明楽はまた浴槽に入り、体を温めていた。でも、疲れていたのかウトウトしていた。クロはサッと頭を洗い、明楽を起こした。


「溺れるから出るぞ」


「う…うん」


体を拭き、着替えた。


「もう眠い…」


「今日はよく頑張ったよ。影にあそこまでできるのはすごいよ」


「えへへ」


明楽の髪をブラシし、明楽をベットへ連れて行った。


「クロ。おやすみなさい」


「俺も寝るよ。ゆっくり休んでな」


クロも明楽の横で体を休めた。

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