クリスマスクロス
大山 吟太
聖田
夕日とイルミネーションのミックスは、緑と赤が優勢だ。世間はクリスマスムード、俺に恋人はいないけど特別クリスマスが嫌いという訳では無い。ただ、クリスマスイルミネーションのきらびやかな緑と赤の混ざった色と、夕日のおしとやかなオレンジ色が混ざった時間がとても嫌いなだけだ。見ているだけでも肋骨が重くなる。エレベーターの中はその色で埋め尽くされやすいから嫌いなんだよな。
エレベーターのドアが開いても、そこには誰もいない。会社の自動ドアに夕日がくり抜かれているだけ、自動ドアを通り過ぎる。今日はまっすぐ進みたくなった。ここで働いて4年が経ち、もはや何も考えなくとも駅に向かえるようになったが、今日はなんとなく違和感があった。違和感を晴らすためには、いつもと違うことをしてみるに限る。
気づくと、石畳のストリートまで来ていた。辺りはすっかり日が落ちて、イルミネーションの代わりに黄色い家庭の明るさが、両側の石畳に淡く落ちている。周辺の家の中からは色んな音が聞こえてくる。例えば自分の顔よりも大きなケーキを見た子供の無邪気な金切り声。テレビの音楽番組からは、毎年流れている定番のクリスマスソング。赤と白と緑と…なんだか懐かしいな。今じゃそんなことしか思えないらしい。家庭の温かさっていうのは、本人にとってはうわ言かと思うくらい当たり前にすぎてしまうんだろうな。
ふと、後ろを見てみる。石畳の道を横に占領するグレーチングの穴から、流体状のドロドロした4本指がゆっくり出てきた。急に夕日が上がって、私の影がくっきりとグレーチングに向かって伸びると、その4本指は腕になり、肩になり、気づいたら顔の無い泥が上半身の形をなしていた。それに顔は無いが、私を向いて、私の目を見ている。何か伝えたいらしいが、頭だけのそいつは私に物を言う権利を認められていないらしい。ただこちらをジッと見つめている。私はそいつへ近づき、その動けない顔面を右足で思い切り蹴っ飛ばした。運動は久しくやっていない。
「べちゃっ」そいつの頭は右側の家の窓にベッタリと張り付き、ズルズルと落ちていく。地面までずり落ちた頃、その家のドアが開いて、誰かがでてきた。その顔は、私の記憶によると、実の母親だった。母親はずり落ちた泥の頭を大事そうに抱えると、泥が消えて中から幼児が出てきた。それと同時に大きな泣き声を上げると、母親は子供をあやしながら家の中へ入っていった。
ドアが閉まると私の足が掴まれた、足元では4本指の泥の腕が私を転ばせる。泥のちぎれた首の断面から、声が聞こえた「返せ」という声が。その刹那、私は自分の欠落した中指を泥に向けて立てる。途端に周りの景色は私の口に吸い込まれていった…
私は改札を通っていた。随分とスッキリした気分だ、酒とつまみでも買って帰ろうか。
クリスマスクロス 大山 吟太 @ginta_ooyama
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