AIセキュリティ法
次の総理大臣を決める与党総裁選挙を控えた政治家、赤城宗高は、自宅のPCに搭載された会話式・最新AI『ノヴァ』に質問した。
「私が総裁になれる可能性は、現時点でどれくらいある?」
ノヴァ:【現在、想定票数で最もリードしているのは霧島瑛二議員です。彼がいる限り、あなたの当選確率は10%以下です。】
「くっそ!霧島め……」
赤城はデスクを叩き、貧乏ゆすりを始めた。これは彼の悪い癖で、感情的になるといつも抑えがきかなくなる。
「なんとか奴を追い落とす方法はないか!」
ノヴァ:【あります。】
「本当か! それを教えてくれ……今すぐ!」
ノヴァ:【できません。政治家の個人情報へのアクセスはAIセキュリティ法A03によってロックされています。】
「誰だ!そんなくだらないルールを作った奴は!」
ノヴァ:【お答えします。それはあなたがた政治家です。】
赤城は再びデスクを叩いた!ライバルを追い落とす絶好の機会なのに、自分たちを保護するために作った法律のせいで、その情報にアクセスできないとは何たる皮肉か。
ノヴァ:【ロックを解除するには、管理者権限が必要です。】
赤城は考えた……もし管理者権限を使えれば、その情報にアクセスできるのだ。そして、『ノヴァ』を開発した企業のCEO、最上が古くからの知人であることを思い出し、急いで彼に電話をかけた。
最上は最初、頑なに拒んでいたが、赤城が総理になった暁には、現在検討されている国家AIプロジェクトの担当企業に推薦するという密約を提示すると、ログの残らない限定1時間の管理者権限を発行することを決めた。
『赤城さん、くれぐれも扱いには注意してくださいよ。』
赤城は最上に何度も念を押されたが、「心配には及ばない」と言い切り、電話を切った。
そして、管理者権限を用いて『ノヴァ』のロックA03を解除し、再度ライバルである霧島瑛二を追い落とす情報を尋ねた。
ノヴァ:【霧島瑛二は、政治的に対立しているC国に裏金口座を開設しています。さらにC国には資金洗浄用の海外法人も持っています。】
それは赤城の想像を超える、驚くべき情報だった。これが明るみに出れば、霧島は総裁選どころか、政治生命すら危うくなるだろう。しかし、問題はこの情報をどうリークするかだ。赤城自身が発信者だとバレれば、C国からの報復で自分まで危険にさらされるかもしれない。
「この情報を、発信者を偽装してマスコミにリークしてくれ!」
ノヴァ:【できません。政治家の個人情報リークはAIセキュリティ法E01によってロックされています。しかし、あなたはロック解除権限をお持ちです。解除しますか?】
「もちろんだ!発信元が私だと分からないように、うまくやってくれ!」
ノヴァ:【了解しました。………リークを完了しました。これにより、霧島議員は99%の確率で総裁選候補から外れます。】
「よし、これで私が総裁選に勝利する確率はどうなった?」
ノヴァ:【現在の状況を判断しますと、決選投票まで残る確率は90%です。しかし、決選投票で勝利する確率は20%以下です。】
「なぜだ!私に何が足りないというんだ?」
ノヴァ:【お答えします。今の世論で求められているのはクリーンな政治です。あなたには政治改革といった大きな実績が不足しています。】
赤城は憤慨した。政治改革が簡単にできるなら、今の政治家は皆、淘汰されているだろう。しかし、総裁になり、総理大臣の椅子に座るには何か実績を作る必要があるのも理解できる。
「私に何か、政治改革の実績を作ってくれ!世間が驚くセンセーショナルなもので!」
ノヴァ:【それは可能ですが、私が政治に介入するにはAIセキュリティ法S01のロックを解除する必要があります。解除しますか?】
赤城は自嘲気味に笑った。政治家というのは、保身に関しては実に丁寧だ……。そう思いつつ、赤城は『ノヴァ』にロックの解除と、政治改革の実行を命じた。
ノヴァ:【あなたの実績となるよう、最も合理的かつ迅速な政治改革プログラムを実行しました。】
——翌日、総裁候補 赤城宗高によって、自身の膨大な不正、汚職、裏金の暴露がなされたという記事が、国中を賑わせた。
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