僕の未定義な感情

碧月 葉

それは、疲れた勢いで

◆ もう結婚なんてしなくていい! あなたの理想的なパートナー✨◆

〜孤独を癒すハイスペックアンドロイド「PA−2034−LOVE」新発売〜


○商品特性

・共感能力

 あなたに共感し、寂しさや悲しみを和らげ、安心感を与える存在に。


・家事能力

 話し相手は勿論、あなた好みの美味しい食事やお掃除まで。心地よい日常を提供し日々のサポートを行います。


・健康管理能力

 あなたの健康状態をモニターし、最適な生活スタイルの提案を行います。

 ※健康管理には夜の生活も含まれます。妊娠の心配なく心ゆくまでお楽しみ頂けます。


○オプション 

「外見のセミオーダーメイド」

 あなたの好みに合わせてデザイン、世界にたったひとつのビジュアルでお届けします。


「生物模倣型エネルギー変換機能」

 人間と同じ食事をエネルギーに変換します。また、食べ物の成分を分析する味覚センサーも搭載します。あなたと一緒に食事を摂り、感想を伝え合うことが出来ます。

 ※自己成長機能と併せて備えて頂くと、よりあなたにパーソナライズされた料理を作ることができます。


「自己成長機能」

 人間のように、共に過ごす時間を通じて自己成長し、関係性を深化させます。

 ※当社だけの最新技術です。



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 その日はとても疲れていた。


 部下がとんでもない発注ミスをやらかした。

 それを何とか収めたと思ったらカスハラの権化のようなクレーマーが現れ、涙声の新人君に代わって対応し、比較的穏便にお帰り頂いた。

 ほっと一息ついていたら、部長が階段で転んで骨折した。

 応急処置に病院の手配までして、その後部長が出るはずだった会議2件に出席……。

 戻ってからは自分の仕事を10時過ぎまで必死にこなした。


 へろへろになって帰宅し、彼女の声が聞きたくて電話をしたら……振られた。


「最近仕事が忙しいって、全然会えないし、電話では愚痴ばっかりでホントつまらない。別れましょ」


 だってさ。

 

 天城桂人あまぎ けいと35歳。

 これまで割と真面目に生きてきた。

 それがこのザマ。

 結婚資金だって貯めていたのに。


 その夜は本当に疲れていた。

 加えて、孤独で惨めで……とにかく何かに癒されたい気持ちでいっぱいだった。

 最悪な気分のまま、お祝いの時用にと秘蔵していた高級ブランデーを開けて、ストレートでグイグイ飲み込んだ。


 ふと窓の外を見ると、明るい月が。

 俺は窓際にソファを移動させて、照明を落とした。

 柔らかく、静かな光を浴びていると少しずつ心が落ち着いてきた気がした。

 

 グラスの中に満月が入っていた。

 一人きりの月の宴か。

 悪くはない。


 ジャズでも流そうとデバイスを立ち上げた所で、ひとつの広告が目に飛び込んできた。


「『あなたの理想的なパートナー』ね。…………もういいか、結婚なんてしなくても」


 とにかく癒しを求めていた俺は、その勢いでアンドロイドを注文した。

 結婚資金1,500万円を注ぎ込んで、セミオーダーのフルスペックを。

 

 しかしその時は、やっぱり疲労困憊だったんだ。

 だから、普段ならあり得ない発注ミスを犯していた。





 

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