モブ貴族だけど悪役令嬢が落ちてたので持ち帰る事にした

カラスバ

第1話

 生憎とこの世界が乙女ゲーム【雨降る空に桜咲く】の世界である事は気づいていた。

 元々は重度なオタクだった妹がプレイしていて、それで布教されたからそのゲームの事をそれなりに知っていた俺は、だから『アンドラ魔術学校』への入学のすすめをもらった時点で「あっ」となった。

 創作の世界に転生する創作なんてそれこそ転生する前にいくらでも読んできたが、まさか自分がそれを経験する事となるとは。

 とはいえ、ランド・アンデスという男は原作に登場しない、いわゆるモブである。

 一応貴族であったがそれでも権力的な発言力は俺にはなかったし、それに原作キャラと特別仲良くなろうという気持ちもなかった。

 俺がしたことと言えば、あくまで学生としてこの学校で青春を送る事、ただそれだけだった。


 ……一応、この世界には魔術というものがあり。

 そしてそれは物語の重要な要素である。

 それこそ主人公アリシアは特別な魔術を使えるが故にこの学校に入学する事を許されるのだから。

 そして、彼女は物語の中盤に一つの選択を迫られる事となる。



 一人の、悪役令嬢を生かすか殺すかという、選択を。


「……」


 そして、目の前の雨でぐしゃぐしゃに濡れた地面の上で、ボロボロになった悪役令嬢が倒れている。

 息も絶え絶え。

 それもそうだろう、彼女はさっきまで許されざる禁呪を用いて主人公達と一戦交えたのだから。

 そして、負けた。

 その末に彼女は──主人公から見逃された。

 ただ、殺されなかっただけで彼女がどのような結末を迎えるかは、結局原作では語られなかったけど。

 少なくとも、彼女はここで物語から退場する事となる、それなら。


「さて」


 俺は魔法を用いて彼女を持ち上げる。

 直接抱き上げるとか、そういう勇気はなかった。

 そして、彼女を持ち帰ったとしてその後どうなるかを考える勇気もなかった。


 とりあえず、なんとかなるだろう。

 そう思いながら、俺は雨降る中を歩き自らが住まう屋敷へと向かうのだった。



  ♪♪♪



 悪役令嬢、テレジア・ローランは目を覚ます。

 パチパチと、暖炉の中の火が弾ける音。 

 冷たくなっていた身体はいつの間にか暖かくなっていて、いや、それ以前に濡れてボロボロになっていた衣服がなく代わりに簡素なドレスを身につけていた。


「こ、こは……」


 私は、死んだの……?

 自らが命を賭して禁呪を使う選択をし、それでも主人公に敗れる事となった。

 そこまでは覚えている。

 だけどそのあとは──


「……」

「起きたんだな」


 と、そこで。

 一人の少年が姿を現した。

 それが誰なのかを理解し、彼女は絶句する事となった。


「ランド・アンデス……!」


 学校一の変人にして、学校最強派閥の中心人物。

 ランド・アンデス。

 少なくとも、彼女にとってその男はそういう男であるという認識だった。

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