ポイ捨てされた巻き込まれ異世界召喚者の俺氏、マージで魔王を目指せって言われたんだけど、どうなのよこれ。

二辻

第1話

 どうやら、異世界は『異世界人』であふれているらしい。


「タクミー! 行くよーっ!」

「あっ、待ってよクラリス」


 黒髪の、少し冴えない雰囲気の男の子が、かなり可愛くスタイル抜群、身体のラインがはっきりと見えるような服装のはつらつとした雰囲気の女の子に引っ張られていく。


「オサカベ様、次はどの魔族を退治しに行かれるのですか?」

「あー、なんでもいいよ。できれば美人がたくさんいる地域を困らせてるやつが良いな」

「もう! またそんなことをおっしゃって! オサカベ様には私がいるではないですかっ」

「ははは、マリーはまだ成長が足りないからなぁ。俺はもっとセクシーなお姉さんが好みなんだって何度も言ってるだろ」


 こちらも黒髪・地味顔な青年が、清楚でほんのりと色っぽいシスターにキラキラした目で見つめられている。

 こう言っちゃなんだが、どう見ても釣り合ってない。なのになんで、あんな美人に好感度マックスな笑顔を向けられながら、それが当然というような顔をしているんだろうあの男。

 これって当然……当然なのか?

 んなわけない。

 ああ、それともアレか。俺なんかがこんな美少女に好かれてるわけはないんだから~みたいな思考で、どうせ好かてないって鈍感カンストしてんのか。それで次に行った村の美少女にも追いかけられるようになるんだろ? 知ってる知ってる。

 ……なんて、羨ましい。


「お嬢様、護衛もなくこのようなところに来てはいけません!」

「大丈夫よ。私は今日、ここで会わなきゃいけない人がいるんだから」

「どなたかとお約束でもなさっているのですか? ご予定があるなら教えてくださらないと」

「約束なんてしてないわよ。だってその子は私のことなんて知らな――あっ! ちょっとそこのあなた!」


 平民風な変装をしているつもりらしい、明らかに貴族のお嬢様。彼女が声を掛けたのは、自分の奴隷を酷な環境で働かせている様子の商人の男だった。疲労と栄養不足で倒れたのだろう奴隷の少年を蹴り飛ばして起こそうとしたのだろう前に飛び出し両手を広げる。普通なら勢いのままに蹴り飛ばされるだろうに、とんでもない運動神経で商人の男はお嬢様の前でぴたりと足を止める。

 蹴られるなんて想像もしていないのか、一切ビビってないお嬢様は、高飛車な様子で「おやめなさい」と言うとおもむろに金貨をばらまくと


「これで足りるかしら。この子は私が買わせてもらったわよ。文句があるならカフィール公爵家までいらっしゃいな」


 などと言って、ガリガリの少年を御付きの若い騎士に抱えさせて帰っていく。

 その口元は満足げに笑っていて「ここでネッドを助けておけば、私の破滅フラグの1つは回避できるはず……」なんて呟いている。


 ――破滅フラグねー……

 彼らは、多分チート能力なり、この世界をゲームやら小説やらで体験していて将来なにが起こるか知っている、自分の願う方向に物語を進ませるようなフラグの立て方も回避の仕方も知っている連中なのだろう。

 多分、それぞれの物語の主人公格ってやつだ。とはいえ、この世界にはそんなのがゴロゴロいるようだから、主人公なんてってものにどれだけの価値があるかどうかはわからないんだけど。


「あーあ」


 これだけチート主役級の異世界人がいっぱいいるっていうのに、それに引き換え俺ときたら。


「俺は! 全ッ然暇なわけでもッ、人生悲観してたわけでもッ、ブラック勤めだったわけでもッ、引きこもりだったわけでもないんですけどぉぉ?! 廃人ゲーマーでもなんでもない、ただの真面目な社会人だったんですけっどぉ!!」


 思わず叫べば声が広場に響く。静寂に包まれたのは一瞬だけ。ちらりと俺を見た行きかう人たちは、すぐに興味をなくしたようにそれぞれの会話に戻っていく。

 はぁ、と溜息を吐いて頭を抱える。座っているのは、噴水の周りに作られている石垣の上。さっきから跳ね返りの水で背中が冷たい気がするけど、そんなのを気にしている場合ではなかった。

 


 どうやらこの世界にとって『異世界人召喚』というのは、そんなに珍しいものでもないらしい。その昔に比べたら格段に容易になったとかで、それこそ労働力として安易に異世界人を招いているのだという。さっきの町の光景を見るに、召喚だけでなく転生してきている異世界人もそれなりにいるようだ。いくら流行ってると言っても、歩けば異世界人に当たるっていう状態はどうなんだ、これ。

 元異世界人の中には、この世界をなんらかの形で履修していた連中も多いんだそうだ。そういう人たちは、チート能力持ちで勇者やSランク冒険者になったりしているとかなんとか。しかし、俺みたいにこっちの世界の常識など知らずに召喚されてきた人間は、誰かが教えてくれない限りは貨幣価値も良くわからないままにいいように使われてしまうこともあるらしい。

 目立ったスキルを付与されなかった、またはなにも持ってない者は好事家に珍しい奴隷として売られるか、そこから逃げ出して自分で世界を切り開いていくかしかない、なんてのはさすがに脅し文句だとは思うけど……いや、今では「外れスキル」と呼ばれているものを持っている人こそが世界に革命を起こす存在と思われている節さえあるようなので、どんなスキルの異世界人でも簡単には手放されないようだったのだが。

 召喚されてそうになっていた少女――お決まりの聖女だったらしい――に、溺れる者が掴む藁のごとく引っ張られて巻き込まれ、この世界に来た俺の持っているスキルは、マージ、つまり融合のスキルだった。


「いや、仕事の合間に息抜きにやってたけどさぁ、マージ系パズルゲ―」


 召喚主が必要としていたのは聖女だ。おまけの男に用はないと召喚専門の建物にポイ捨てされた。哀れに思ったらしい召喚士が俺の行く末を心配してくれてなにが出来るのかと色々と試してみたが、俺に与えられた能力は、あの手のゲームそのまんまだった。

 俺のマージは、いわゆる合成系や付与系のスキルではないから、異質なもの同士を組み合わせることはできない。つまり、装備品に特殊な魔法具をマージして強化する、人間に別のスキルを付与する、なんてことは不可能だったのだ。

 可能なのは、あくまで同じものを合わせて上位互換アイテムに変換すること。低級ポーション2つを使って中級ポーションを1個作るとか、壊れかけの銅剣2本を掛け合わせて、壊れていない銅剣1本にするとか。

 でも、中級ポーション1本よりも低級ポーション2本使った方が回復量が多い。価格だって、中級1本程度では、低級2本分ほどの価値はない。壊れかけの銅剣2本を合わせてただの銅剣1本にしたところで、攻撃力が上がるわけでもなくありがたみはない。このスキルをなんとか応用できないかと召喚士もいろいろと考えてくれたのだが。

 結論は


「合わせたら減っちゃうしなぁ」


 ということで、見事に役立たず認定を受けた。

 あわや奴隷人生かと思いきや「いや、お兄さんの見た目は異世界人としてウケないからそれもないかなー。自分でなんとか、頑張って!」と、いやにあっさりと追い出されたのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る