嘘くさい話

「えっと、大狼とチキンランクスの素材。確かにお受け取りしました……なんですけど、ちょっと量少なくないですか?」

「家の馬鹿がやらかしてね、野良のモンスターに亡骸横取りされたのよ。」


 ギルドの受け付けにて素材の売買を行っていたインディと、金髪のウェイター服のに合うきれいな女性な、耳長のエルフ族の受付嬢はその様に会話していた。


 受付嬢はインディの言葉を聞いて「またですか」と目を細めて肩を落とす。


「毎度毎度の事ですけど、振り回されてますね。」

「まぁね。手綱を握んのも一苦労よ。」

「……それで、当人はどちらに?」

「罰として出稼ぎに行かせてる。肉体労働してこいー!つって。」

「インディさんもインディさんで酷いですよね。」



 受付嬢は苦笑いを浮かべると、インディは「妥当よ妥当。」と言って手を振る。受付嬢は受け取った素材を裏へと持っていくと、代わりにいくつかのお金を持ってくる。


「はい、こちら依頼達成と素材売却分の報酬です!」

「ありがと…………よし、魔法玉分合わせてもギリギリ黒字!……いやぁ、やりくりに苦労するわ。」


 一安心したようにインディは額の汗を拭う。


 依頼を受けるのも大事たが、我武者羅に受けても稼げることは少ない。 


 治療費とか移動費とかもふくめると馬鹿にならないのだ。インディは魔法玉を使用するから余計に出費がかさむ。


 ちゃんと採算を合わせなければ……幸い、今回は割と余裕を持って黒字となった。


 今回の場合は、チキンランクスと言う臨時収入が入ったのも大きいだろう。


「テルに装備がほぼ必要なくて助かったわ。修繕やメンテナンスの手間が省ける。」

「でも毛とか鈎爪のメンテナンス大変だしお金かかるって聞きますよ?」

「普通の獣人はね、見た目とかにも気を使うやつ多いから。テルみたいなラーテル獣人は特別そういうのが薄いからね。」


 そう言ってインディはお金を自前の古びた巾着袋へと入れる。すると、インディはまたテルの愚痴を漏らす。


「その代わり、っとあの馬鹿は血の気が多くて困るわ。態々チキンランクス深追いしたのよ?この前はA級のワイバーンに、その前は苦手な海中のモンスターに!その前は野党に!突き合わされるこっちが命足んないわ!」


すると、受付嬢が一つ言葉をかける。


「そんなに嫌なら……いっその事、テルさんとパーティーを解消して見たらどうですか?バフ・デバフが得意な魔術師なら、結構受け入れてくれるパーティーあると思いますよ?」

「私もねぇ……アイツとの関係が浅かったらぱっと切り捨てられたんだけどねぇ。」

「……?」

「まぁ色々あってねぇ―――」

 

 すると、インディは周りに人がいないのを確認してからボソボソと語り始めた。


 曰く、インディの生まれ故郷はバフ・デバフと言った補助魔法を軽視する様な村であったとのこと。


 代々高威力の魔法を極めてきた村だからという時代錯誤な理由で、補助魔法の才がある者達は「自分だけ後ろに下がって隠れて、周りにだけ戦わせる卑怯者」と言う的はずれなレッテルを貼られていたこと。


 周りにそれがおかしいと言えるような人がいたのであれば事は色々変わってくるのだろうが、いかんせん閉鎖的な村でそういった刺激がなかった。


 だから、ただただそんな補助魔法の才があったインディは虐げられてきたと言う。


 そんな村が嫌になって飛び出してきたのは良いものの…………身一つで飛び出してきたものでなかなか生活や旅にも苦労していたとのこと。


 冒険者として旅を続けるある日、とある薬草を取りに行く依頼があり、その為にとある深い山へと向かうことになった。



 …………そこで、インディはとあるA級のモンスターに出会うことになった。


 それは、ヘイズルーンと名付けられた大山羊で、その巨大や今までどうやって山の中に身を潜めていたのか気になるほどだった。


 それに、ヘイズルーンと言えば討伐の際には一国の軍隊が動く代物だ、オマケに気性は荒く、手当たり次第に角で突進を仕掛ける迷惑な奴だ。当然、1バフ要員のインディが叶うような相手ではなかった。


 このままヘイズルーンに押し潰されるか……?そんな時、助けが入った。それが当時からソロで冒険者をやっていたテルと言う訳だ。


「えっ!?じゃあもしかして、テルさん、ヘイズルーンに喧嘩を!?」

「そっ。なんだっけな……山羊がでかい顔してんじゃねぇーっ!って。それ聞いた時はね。あ、コイツアホなんだなって思ったわね。」

「そりゃあ……ねぇ。」


 思わず素の出る受付嬢。


「それでね、私はなんとか逃げられそうだったんだけど、テルが真正面からヘイズルーンに挑んでもう面白いっくらいボッコボコにされて……見てられなかったから無理やり引っ張って逃げてきたのよね。」

「……インディさんお人好しですね。私だったらそんな馬鹿ほっといてさっさと逃げますね。」

「まぁ、そこからなんやかんやって感じね。あれこれ言いつつ2年弱の付き合いかしら?」

「なんか…………ウソみたいな話ですね。でもテルさんならヘイズルーン相手でも喧嘩売りそうな安心感が……」


 受付嬢のテルのイメージは完全にただのバーサーカーである。


 正直ヘイズルーンと出会うと言う事は、ある種の災害と間近で出会うのと同義であり、そこから生き残れただけでテルとインディは運が良い……と言うか、もはや嘘くさい話でもある。


 インディも勿論ウソとおもられるのも承知で話しているからか、ケラケラと笑って「そうよね、ウソみたいよね」と言葉を紡ぐ。


「ま、兎に角私はアイツに命を助けられたって所だけ覚えとけば良いわよ。」

「義理堅いですねぇ……」

「ま、アイツ強いは強いから組むと色々やりやすいってのはあるけどね。なんやかんや言いつつ、本当にヤバい時は自重してくれるし。」

「ワイバーンに追いかけられるのは本当にヤバいの内に入るのでは?」

「…………やっぱパーティー変えようかしら。」


 インディはそう言って肩をすぼめる。


 すると、インディら話し込んでしまったと、受け付けから離れる。


 受付嬢はインディを見送る……受付嬢は、また面白い話が聞けてしまったとワクワクする。こうやって冒険者のあれこれを聞くのが、受付嬢の楽しみだ。


(あれがテルとインディさんの成染かぁ…………血の気が多いけど、らしいっちゃらしいかな?)


 そんな事を考えながら、受付嬢の仕事を続ける彼女なのであった。

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