第69話 暴風VS一本角


「ぬんっ!」


「だらぁ!」


 二人して気合いの入れた声を上げながら、武器をぶつけ合った。

 凄い、凄いぞコレは。

 これまでに出会った事の無い程の槍捌き。

 やけに穂先が大きく、一見不合理に見えてしまうが。

 間違い無い、彼は“大物”を狩る為にこの武器を使っている。

 ソレがハッキリと分かる程に重く、素早く力強い突き。

 こんな冒険者、会った事が無い。


「ふははっ! すげぇなオイ! 大剣を使ってるってのに、全部防ぐのかい!」


「こっちの、台詞だ」


 相手の攻撃を防いだ瞬間が身体を捻り、ブンッと大きく大剣を振るってみれば。

 彼は大きく回避行動を取り、一度仕切り直した。

 細かいカウンターを狙って来ない。

 これもまた“大物狩り”の癖と言って良いだろう。

 小さな攻撃など意味が無い。

 だからこそ、確実にヤレると思った瞬間に飛び込んで短期決戦を挑む。

 普段の敵が大きな生物なのであれば、これは重要だ。

 実際細かい傷を負わせようと、いつまで経っても勝負は終わらないのだから。


「似た者同士、だろうか」


「そうだな、戦ってる感じ……癖が似てるわ。アンタと俺、意外と良いコンビになるんじゃないか?」


「是非お願いします!」


「……うん?」


「あ、えと、すみません」


 剣を構えながら、相手の動きに集中する。

 多分以前の大剣では、対応しきれなかっただろう。

 この軽い剣だからこそ、彼の攻撃をしのぎ切る事が出来る。

 運命とは、本当に不思議なものだ。

 たまたまこの剣が俺の元に来た後に、たまたま彼と出会い勝負する事になった。

 この“たまたま”が、非常に重要なのだろう。

 思わず口元を吊り上げ、彼に向かって切っ先を構えた。


「さぁ、来い」


「おうよ、行かせてもらうぜ?」


 相手もニッと犬歯を見せたかと思えば、目にもとまらぬ速度で突っ込んで来る。

 やはり、凄い。

 この男、本当に強い。


「どらぁぁ!」


「うっそだろ、コレも防ぐのかよ!」


 相手の突きを大剣で逸らし、そのまま身体を回転させて剣を振り抜いてみれば。

 彼は余裕の顔で回避してみせた。

 やはり、強い。


「あっぶね! おいおいおい! 寸止めの約束はどうしたよ!?」


「え、あ……すまない。今の攻撃なら、避けられるだろうと、振り抜いてしまった……今度からは、止める」


「カッチーン、舐めんなよ暴風。あの程度の攻撃、回避なんぞ余裕だ!」


「お、おう? つまり、このままで良いか? 流石、二つ名持ち。強いな」


 そんな会話を挟みながら、ガツンガツンと武器をぶつけ合った。

 確か彼も、“英雄の武器”を保有していると言っていた筈。

 つまりコレは、彼にとって普段の戦闘。

 それその物を使えば、もっと凄い事になるのだろう。

 いやまぁ、あんな物まで取り出して勝負したいとは思わないが。

 会場を真っ二つにしてしまいそうな剣を使えと言われても、流石に無理だしな。


「クハハッ! 強い、強いなお前! 楽しいぞ!」


「俺も……楽しい。ランブルさんは、強いな」


「うるせぇ! “さん”なんぞ付けるな気持ち悪い! そのまま呼び捨てにしやがれ!」


「お、おう! ランブル! お前は、強いな!」


 会話をしながらも、俺達は大剣と槍で語り合った。

 相手の武器も相当良い物なのか、全然刃こぼれした雰囲気が無い。

 いやぁ……楽しい。

 模擬戦って、冒険者では相手しくれる人もあんまりいなかったから。

 などと思いつつ、にっこりと笑顔を浮かべて相手と武器をぶつけ合うのであった。


 ※※※


「いやいやいや……あり得ないでしょ」


 目の前で行われている戦闘に、思わず引き攣った笑い声を溢してしまった。

 ランブルさんは強い、それは依頼に同行した事で分かり切っていた。

 でも、まさかここまでとは思っていなかった。

 目で追えない程、高速な連続を繰り出している。

 しかもその一発一発が有り得ない程力強い。

 だというのに、ダージュさんはソレを難なく防いでいるのだ。

 あんな馬鹿デカイ大剣を持ちながら、彼同様に素早く動いている。

 しかも防ぐだけではなくカウンターまで入れているのだ。

 これまでの仕事で二人が手を抜いていた、という訳ではないのだろう。

 つまりこれが、対人戦をする時の両者。

 素早く、正確に。

 更には決められそうな所では一気に動く。

 魔獣や魔物を相手する時とは違い、何処までも最低限の動きで対処し合っている。

 だというのに、ビリビリと気迫が伝わって来るし、ここまで槍と大剣の風圧を感じられる程だ。

 凄い、本当に凄い。

 これが、二人にとっての“対人戦”なのか。


「二人共、ヤバすぎですって……」


 ズガガガッ! と耳がおかしくなりそうな程の連撃をダージュさんが防ぎきり。

 カウンターで最小限の動きにより繰り出される大剣を、ランブルさんが避ける。

 どちらの攻撃も、一般人……というか、そこらの冒険者だったら即死級だろう。

 こんな対戦、見た事が無い。

 お祭りなんかでたまに、催しとして決闘が行われるが。

 アレが本当に子供の遊びだと思わせるような、そんな対戦が目の前で繰り広げられていた。

 これが、本物の決闘。

 これが、人間同士の戦い。

 これが、強者同士が揃った場合の戦場。

 思わずゾクッと背筋が冷えたが、コレは恐怖じゃない。

 多分今私は……興奮しているんだ。

 ダージュさんとパーティを組む為にも、強くなりたかった。

 その為に、ランブルさんとも組んで強くなろうとした。

 ソレがいかに矮小で、自分が思い上がっていたのか思い知らされた。

 人間というのは、魔法を使わなくてもココまで強くなれるモノなのか。

 人間というのは、ここまで雄々しく美しく戦えるモノなのかと実感した。

 だって二人共、前衛なのだ。

 槍と大剣、その二つがぶつかっているだけだというのに。

 こんなにも美しく、荒々しい。

 だというのに、二人が楽しんでいるのが分かるのだ。

 魔法など一切用いず、物理での殴り合い。

 だというのに、こんなにも……。


「か、カッコいい……」


 あの二人が、もしもパーティを組んだら何が起こる?

 毎日の様に、こんな光景が見られるのか?

 荒ぶる槍の化身と化したランブルさんと、暴風とも呼べるほど全てを巻き込むダージュさん。

 こんな前衛が二人も居れば、後衛に危険が及ぶ事などまず無いだろう。

 むしろどう二人の役に立つか、考える日々になりそうだ。

 それくらいに、二人は前衛の最高峰に立っていた。

 凄い凄い凄い。

 こんな試合、絶対他では見られない。

 お金を払ってコロシアムに行ったって、こんな熱い試合は存在しないだろう。

 もはや物語のワンシーンを目にしている気分だ。

 そんな事を思ってしまう程に、二人共人間離れしていた。

 全力をぶつけ合い、切磋琢磨している光景。

 凄い、凄いぞコレ。

 見ているだけでも、全身にビリビリと緊張が走る程の興奮。

 連撃のランブルさんに対し、的確な対処とカウンターのダージュさん。

 いやもうこの二人が居れば大抵の事は片付けられるのでは? なんて思ってしまう程、両者は力強く“殴り合っていた”。

 だがしかし、終わりとは突然な物で。


「はーい、二人共そこまででーす。これから納品に行きますよー? ついでに、ご飯に行きましょー? あ、フィアさんも準備出来てます? 今日は珍しい料理が食べられますよ?」


 ニコニコ笑顔のリーシェさんが登場した瞬間、二人はピタッと動きを止め。


「お預けだ、“暴風”」


「楽しかった、“一本角”」


 互いに矛を収め、ガシッと握手を交わすのであった。

 えぇぇ……ここで終わり?

 私としては、もう少し見たかったんだけど。


「どうしました? フィアさん。あ、もしかして珍しい料理とか苦手ですか? 大丈夫ですよ、こっちの味に合わせてくれていると言う事ですから。さ、行きましょ?」


 全く理解していないリーシェさんだけは、私の背中を押しながら件の店へと向かう準備を進めるのであった。

 あぁもう、あのまま勝負が進んでいた場合……どっちが勝っていたのだろうか?

 滅茶苦茶気になる。

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