ぼっちの冒険者は、パーティが組みたい。

くろぬか

1章

第1話 ぼっち、見参


 夜の時間に差し掛かった冒険者ギルド。

 そこでは多くの者が賑やかに酒を飲み、飯を食うという光景が広がっている。

 今日の仕事の打ち上げや、反省会をする者などなど。

 実に様々な冒険者達が集まっている場所。

 誰も彼もこの時ばかりは皆友人、みたいな雰囲気で騒いでいる筈なのだが。


「ダージュだ……」


「“竜殺し”が帰って来た……」


「アレがダージュさん? うわぁ、でっけぇ……マジ噂通り」


 俺がギルドの玄関にある両開きの扉を押し開いた瞬間、その喧騒はピタッと止んでしまい、皆一斉に此方に視線を送って来た。

 これなのだ、いつもコレなのだ。

 もはや人が多い時間にギルドに立ち寄るのさえ気が引けてしまう程、俺が来ると静かな空気が流れてしまう。

 何かもう申し訳なくなりながら、黙ったまま受付カウンターに向かって歩いて行けば。


「お帰りなさい、“ダージュ”さん。お仕事の方はどうでしたか?」


 こんな俺にも、満面の笑みを向けてくれる受付嬢の“リーシェ”さん。

 ココで話す人と言ったら、この人かギルドの支部長くらいだ。

 俺が不愛想なのがいけないのだろうが。


「問題、ない……です。あとコレ。“マジックバッグ”に、討伐対象の死体をそのまま……入れて来ました。でっかいです」


 そう言ってから、小さなバッグを彼女に差し出した。

 こんな見た目でも、沢山入る魔法の袋。

 私物ではあるのだが、ギルドに預けるのなら盗まれる心配も無いので、毎度こうして提出している。


「はい、それでは解体場の方で確認させて頂きますね。本日中の方が良いですか?」


「あ、いえ……その、もう夜ですから。明日とかで、大丈夫です」


 図体の割にボソボソと喋っている、その自覚はあるのだが……苦手なのだ。

 誰かと話すと言う事が。

 嫌いと言う訳ではない、本当の事を言うならもっといろんな人とお喋りもしたい。

 でも無理なのだ。

 冒険者になってから、何度か挑戦した事もあったが。

 話す話題を考えている内に頭が真っ白になり、ボソボソ喋ったり黙ってしまったり。

 そして俺は身体がデカイ。

 更には全身鎧を着ている為威圧感もあるし、視線が泳ぐのを見られたくなくて兜もあまり外さない。

 その為見事なソロの冒険者が出来上がり、もう何年もこの仕事を続けているのに……未だにぼっち。

 同業者で友達と呼べる人も存在しない。

 そんな訳で、周りの人間は誰も俺に話しかけてこないという訳だ。

 凄く悲しいけど、根暗な性格の俺が悪いんだ。

 もっと明るく楽しく話せれば、きっとこんな事にはならなかっただろうに。


「そうですか、では報酬のお支払いも明日以降と言う事で。正直……助かりました、これから大型のヒレ沼竜の確認、解体となるとかなりの時間になってしまうので」


 あははっと困った様子で笑う彼女がそんな事を言い放てば、後ろの席に居た冒険者達がガヤガヤと騒がしくなっていく。


「おい聞いたかよ!? 今度はヒレワニだってよ!」


「マジかよ……しかもソロで、だろ? 本当に人間かよ……兜とったら実はオーガでした、とか」


「バッカお前! 聞えたらあの大剣でぶった切られるぞ!」


 すみません、聞こえてます。

 小声で話している様だったが、全体的に静かだったもので。

 思わず溜息を溢して振り返ってみれば、皆一斉に視線を逸らしてしまった。

 ちゃんと人間ですって、兜を取って見せようとしただけなのに。

 辛い。


「フフッ、まぁまぁダージュさん。もうお帰りになる様でしたら、一緒にご飯でも行きます? 私ももうすぐ終わる時間なので」


「ぜ、ぜ――」


 是非! と叫ぼうとしてしまったが、途中で声が止まった。

 リーシェさんは、というかギルドの受付嬢は基本的に美人が多い。

 彼女が他の冒険者にナンパされている所を、数えきれない程見た記憶がある程。

 そんな人が俺を食事に誘う?

 冗談だとか、からかっているだけという事は無いとは思うが……その、緊張で喋れる気がしない。

 ずっと無言のまま食事を共にしても、相手につまらない思いをさせてしまうだろう。

 それにこんなに怖がれている俺と共に、夜の街を出歩いてみろ。

 明日から彼女に悪い噂が立ってしまうかもしれないじゃないか。

 そう考えると、ここでお誘いに乗るのはあまり良くない事に思えて来る。


「い、いえ……妹も、待っていますので……」


「そうですか、わかりました。ちょっと残念ですけど、また今度と言う事で」


 なんて言って微笑んでくれるリーシェさん。

 俺みたいなのが彼女のお誘いをお断りする事も、非常に申し訳ないのだが。

 付いて行ったらそれ以上に申し訳ない事になってしまいそうなので、本日も一人寂しく帰る事にした。

 ペコッと頭を下げてから彼女に背を向け、ノッシノッシとギルドを後にしてみれば。

 俺が外に出た瞬間、ドッと騒がしくなるギルドの酒場。

 やっぱり、相当怖がられているのだろう。


「俺も、あんな風に騒げたらなぁ……」


 何度目か分からないため息を溢しつつ、そのまま家へと向かって歩き出した。

 いいさいいさ、冒険者というモノは俺にとって完全に“仕事”。

 友達を作る為にこの仕事に就いたという訳ではない上に、結構な額を稼げているんだ。

 だったら、良いじゃないか。

 などと自分で言い訳してみるものの、やはりため息は零れるもので。


「パーティ、組みたいなぁ……」


 いっつも一人ぼっちの俺の目標、いつかは固定のパーティを組む事。

 出来れば、気まずくならない感じで。

 などと思い続け、気が付けばもう二十五歳。

 もう長い事この仕事をしているのに、お喋りの方は一向に成長しないのであった。

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