彼女のそばにいたいけど
まきりい
彼女のそばにいたいけど
ㅤ彼女と目が合ったような気がした時から、僕は彼女が忘れられなくなった。
彼女は毎朝、高速のインターへの入口にある交差点を東に向かって車で通り過ぎていく。毎朝決まった時間に通るから、たぶん職場への道なんだろうと思っていた。
ㅤ彼女が通り過ぎる直前、僕はこの交差点が赤信号になるのを願った。赤になれば停車した彼女の車の窓越しに目が合うかもしれないからだ。
その日の朝は雲一つない晴れの日だった。交差点の信号は赤。いつもと違うのは、彼女の車の助手席に、この世の者ではない誰かが座っていることだった。
ㅤ一体何を乗せてるのかと、停車した車を覗き込むと、そこにはハゲ頭の中年オヤジがちゃっかりと彼女の隣に座っていた。このままでは彼女が危険だと思い、僕は後部座席に無断乗車した。
今日の彼女はとても焦っているように見えた。運転中もずっと大きなため息をついて、そわそわとして落ち着かない。信号が赤に変わる度に、
「なんなのよもう!!」
と叫ぶのだ。僕はその度、自分に言われているのかとビクついた。でも僕の姿は彼女には見えていないはずだ。
ㅤだって僕は、その彼女の助手席に、陰の表情で座っているハゲ頭のオヤジと同じ類の者だから。
『おいオッサン、この車から降りてくれないか? その助手席には僕が座るからさ』
僕は後部座席からハゲオヤジに声をかけた。
『降りたところで何処へ行ったらいいかわからないんだ……』
ハゲオヤジはポツリと寂しげに呟いた。
彼女は一体どこからこのハゲオヤジを連れてきたのか。昨日の朝見かけた時には、この車の中には彼女一人しかいなかったはずだが……。
そんなことを思っているうち、次の信号が赤に変わった。車が急停車する。
「なによもう!! なんで今日に限って赤ばかりなのよ!! 遅刻しちゃうわどうしよう!!」
突然彼女は動揺したように叫んだ。
僕は驚きのあまり、この空間からどこかへと吹き飛ばされそうになるのを必死でこらえた。
彼女はおとなしそうな容姿とは正反対に、物凄い勢いで汚い単語を並べ赤信号を罵っている。信号待ちをしている間、太陽に対しても、
「眩しすぎるよ太陽! 目がくらみそうなほどに光って眩しいよ!」
と怒り出し、乱暴にサンバイザーを下ろした。
なんて激しい女なんだろう。
助手席のハゲオヤジは自分の事を言われたのかと思ったのか、身体をビクリとさせて怯えた様子だ。
『わたし、そんなに眩しいですか…? こう見えても若ハゲなんです』
ハゲオヤジは申し訳なさそうに、消えそうな声で呟やいた。
「眩しすぎてスゴすぎるよ! 希望の光としか思えないほどの眩しさだわ! 尊敬しかない!」
彼女は大きな目をさらに大きく見開き手のひらで光を遮ると、助手席側へと視線をやった。
「ああ、どうしよ、どうしよ…! この場合はどうすればいいの!!」
栗色でセミロングのふわふわとした髪をぐちゃぐちゃと掻き乱しかなり動揺している。
落ち着け女。太陽が眩しいのならそんなにも目を見開かなくてもいいんだよ……。
目力のある瞳からは炎のようなビームを発していそうだ。すごい圧力を感じる。僕はたまらなくなってこの車から逃げ出したくなった。
意識が朦朧とする中、ハゲオヤジに『大丈夫か?』と声をかけようとして視線をやると、助手席にいたはずのハゲオヤジは知らぬ間に消えていなくなっていた。
ふと車窓の外を見上げると、ハゲオヤジは、あんなにも陰の表情だった顔を満面の笑顔に変え、光となって空へと吸い込まれていった……。
この女、一体何者だ!?
僕の彼女への興味はさらに膨れ上がった。
僕はしばらく彼女のそばにいることに決めた。
ㅤ彼女は興味深い。
どこからともなく僕の同類と言える存在を引き寄せてくる。引き寄せては短時間で手放す、その繰り返しだ。
彼女に憑いたその日一日だけでも引き寄せては手放す姿を、ハゲオヤジを含め5回は見た。彼女はこの世に未練を持つ身体無き魂を、引き寄せては浄化させる才能があるのだろう。
彼女を観察するにそれを知らずしてやっているように見えた。僕がそばにいることだって全然見えていない様子だから、多分無意識なんだろう。
彼女が住むアパートの駐車場辺りには、僕の同類たちで祭のような状態になっていた。
一定の動きをして歩いている者。
ただそこにいてボーッとしている者。
階段を登ったり降りたりをひたすら続ける者。
ㅤここで祭が開催されるのかと思うほどの賑わいだった。おそらく彼女が何処かから連れてきた者たちだろう。彼女の自宅玄関前にも、3人の同類が玄関扉を眺めて突っ立っていた。入りたくても入れないと言った感じだろうか。僕も、この扉の中へは入れないのだろうか……。
少し残念に思ったが、玄関の鍵を開ける彼女の肩にそっと手を触れるイメージをしたら、一緒に入る事ができた。
玄関先はスッキリとしていて、コスモスの花が生けられていた。良い香りがしてきそうな癒される空間なのに、なぜだか落ち着かない。玄関脇の足元の左右には盛り塩があるが、そのせいだろうか。どこかの飲食店じゃあるまいし、なぜ玄関脇に盛り塩なんて置く必要があるのか。彼女が連れてきやすい体質だから、なんとなくこんなおまじないをしているのかもしれない。でも、ちゃっかり僕はここに入って来られたのだから、この盛塩はさほど意味は無いと思われる。
僕はそれを避けるようにフローリングの廊下へと素早く移動した。
『おじゃまします』
なんとなく呟くと、
「いらっしゃい」
ㅤ彼女はパンプスを脱ぎながら優しく微笑んだ。
『見えるのか?』
彼女の目の前に立ちはだかり、右手を彼女の目の前で左右に振ってみるが、その瞳に僕の姿は映らないし、当然目も合わない。彼女の視線はもっと遠くに向けられている。
やはり僕という存在は彼女からしたら透明人間のようらしい。なんだかおもしろくなってきた。
奥の部屋から黒猫が飛び出してきて、にゃーにゃー言いながら彼女の足に擦り寄ってきた。
「ただいま。チビ」
彼女は疲れた様子でパンプスを揃えながらも、穏やかな表情で黒猫に微笑んだ。どうやら彼女が言った「いらっしゃい」は、この黒猫に対しての言葉だったらしい。驚かせやがる。
彼女は黒猫とともに生活をしていた。
ㅤチビとは言えないふてぶてしくて可愛げがない黒猫は、僕が名付けるなのなら『ぶーちゃん』だと思った。
彼女と黒猫が住む空間は余計な物がなく、白を基調としたシンプルなものだった。出窓にもコスモスの花が飾られている。きちんと整頓された清潔な空間は、猫と二人で過ごすには少し広いような気もした。
ㅤ黒猫は犬なのかと思うほどに従順に彼女に懐いて彼女のそばに寄り添い、たちの悪いかまってちゃんかと思うほどにゴロゴロ言って甘えていた。
そのしっぽ、犬のように振ることができるんじゃないか? と、僕は黒猫のしっぽを観察してしまったほどだ。ソファーに座ってくつろぐ彼女の太ももの上に座り、遠慮なく甘えるこの黒猫を少し羨ましくも思った。
彼女が風呂へと入る時、その後ろをストーカーのようについていくと、黒猫が尻尾を立てて「ヒャー!!」と物凄い形相で威嚇してきた。
『なんだよぶーちゃん。少し覗くぐらいいいだろ?』
『変態ヤロー! さっさとこの家から出ていけ! なぜオマエはこの家に入れたんだよ! 愛音がお前みたいなヤツを連れてくるはずがないのに! …なんでだよ!?』
黒猫は僕の姿が見えるようだった。
しかも僕との意思疎通もできるようだ。だが残念ながら猫だから、彼女との通訳には使えそうもない。
『オマエ、なんでここに来た!?』
黒猫は犬みたいに鼻をクンクンさせて僕のにおいを嗅いでくる。
『特に意味は無いよ。ところでぶーちゃんは猫なのか犬なのか、どっちだよ?』
からかうように問うと、黒猫は目を吊り上げて睨んできた。
『出ていけ! 愛音に手を出すようなマネをしたらタダじゃ済まないぞ!』
『愛音はぶーちゃんの姫様なのか? じゃあお前がナイト? ……生憎僕はこの通り透明人間だ。指一本もキミの姫様には触れられやしないから安心してくれよ。ちょっと覗き見するだけだ』
僕は悪ノリして彼女がいるバスルームへと歩みを進めた。黒猫がシャーシャー怒って僕の足を引っ掻こうとするが、すり抜けて攻撃にもならない。
「ちょっとアンタ! ストップ! 絶対来るなよ!! 来たらマジでぶっ殺すから!!」
突然彼女は振り返るとすごい剣幕で怒りだした。
ビクンと黒猫の身体は硬直する。
そして僕も。
『君は僕が見えるのか?』
目は合わない。彼女の視線は黒猫だけに向けられている。
「…ごめんねチビ。今日はとても疲れていて……。一緒にお風呂には入れないわ。今日は粗塩風呂にしようと思っているの。物っ凄くドギツい、海水レベルのにね。だから許して。ごめんね怒ったりして。怖かったよね…?」
彼女は黒猫の頭を撫でてから、棚からビニール製の大袋を引っ張り出した。
米の袋かと勘違いするほどの大きな袋には沢山の粗塩が入っていた。その量、玄関の盛り塩と比じゃない。僕はそそくさと部屋の隅へと逃げた。彼女はティーカップに山盛りの塩を掬うと、それをバスルームへと3往復した。
『そんなにも湯船に塩を入れて、漬物にでもなるつもりかよ?』
問うと、黒猫も笑いを堪えているようだった。
「あ~、今日は疲れたわ。やっぱ疲れには粗塩風呂よね~」
彼女は陽気に鼻歌を歌いながら、バスルームへと消えていった。
粗塩入りの大袋はバスルームの扉の前にドンと置かれている。あれだけの量の塩を置かれたなら、さすがの僕もこれ以上進もうとする気も失せた。
『ちくしょう! 結界を張られたか……』
隣にいたチビと呼ばれていた黒猫が、
『ざま〜。オマエなんて愛音にかかったらすぐにでもあの世行きさ』
と勝ち誇ったように笑った。
「そうなのかな? あの世の行き方が分からない僕だからそれはそれでありがたいよ。でもしばらくは、ここで暇つぶしでもさせてもらうよ。よろしくな? ぶーちゃん」
黒猫は不愉快そうに唸っていた。
ㅤここは居心地が良くなぜだか落ち着いた。愛音はよく、くしゃみをする。そのくしゃみは、なぜだかいつも疑問形だ。
『へっくしょん?』
と、語尾が質問するようにハネ上がる。
そんな時僕は、
『なんで疑問形なの?』
とゲラゲラ笑うが、彼女には聞こえていないようだ。……でもそれも疑わしい。
お笑い番組が好きな彼女は、大抵ソファーに座ってビールを飲みながらゲラゲラと笑うのがお決まりだ。膝の上には黒猫が陣取っている。僕は彼女の右隣に座り、一緒にお笑い番組を見て笑う。
『なあ、初めてみるけど、なんていうコンビ? 最近でてきた? なんか新しい芸風だよな?』
「あ~この人たちってサイコーだわ。アンボーイズ」
なるほど……。
彼女はテレビに向かって独り言をいう風につぶやくが、多分僕の質問に答えてくれている。そんな気がしてならない。
絶対に目が合う事は無いけれど、間接的に会話はしてくれていると感じることが多い。
『なあ、見えないフリはもうやめないか? いい加減君も疲れるだろ? な?』
黒猫が低い声でニャァ…と呟いた。
僕の言葉に肯定しているような雰囲気で、愛音に視線を向けてから、僕の方を見る。
『愛音、そこにいる、飛ばしちゃえよ!』
そんなふうに呟いて、愛音と僕と交互に視線をやるが、愛音は知らん振りだ。テレビを観たまま、膝の上の黒猫を撫でるだけだった。彼女は相変わらずゲラゲラとテレビを観て笑っている。
なるほど。見えないフリをまだ続けるということか。まあいい。
いつかは愛音と目を合わせてやろうと、そんな願望が生まれ始めていた僕は、ありとあらゆるチャンスに、彼女がボロを出さないかと目を合わせる計画を企てていた。
僕は愛音の目の前に立ちはだかり、テレビを楽しんでいる邪魔をした。目の前で変なおじさんをしたり。コマネチをしたり。すぐに浮かぶ僕のお笑いネタはこれぐらいしかなくて、それをキレッキレの動きでやってみた。きっとお笑い好きな彼女なら笑うに違いない。
すると彼女は、笑うどころか不機嫌に顔をしかめた。彼女はサイドテーブルの上にあるオシャレな小瓶の蓋を開けると塩をひとつまみ、マシンガン並の速いスピードで僕めがけて投げつけてきた。
「あ、なんか変な虫が飛んでた気がした! 気のせいか。チビ、虫がいても食べちゃダメよ。虫は無視しておくの」
「ニャ~」
黒猫は彼女の膝の上で甘ったるく返事をした。不愉快なやつだ。僕は居心地が悪くなって、部屋の隅へと身を縮めた。
ㅤ彼女が寝ている間、眠くならない僕は彼女の枕元にいて見守った。夢を見ているらしい彼女は、突然ゲラゲラと笑い出す。こちらがつられて笑ってしまいそうなほどの滑稽な笑い声だ。かと思えば、聞き取れない誰かの名前を呟きながら泣き出したりして。やっと静かになったのかと思えば歯ぎしりでうるさくなる。ベッドの横で眠っていた黒猫も、もう何度か起こされて、愛想をつかせてどこか他の部屋へと逃げていってしまうほどだ。
眠りから覚めた彼女は黒猫の姿が無いのを確認すると、今度は眠れないと呟きながら、スマホをピコピコと触りだす。YouTubeで雨音のチャンネルを選ぶと、それを枕元に置いて再び目を閉じるのが日課だった。
ㅤ静かな部屋の中に、雨音が響き渡る。
雨降りでない夜は毎回この光景が見られた。
僕もそのスマホから流れる、リアルタイムじゃない雨音に癒された。
僕は常に彼女の傍にいた。
ㅤ彼女は喜怒哀楽が激しくて、表情がクルクルと変わる。見ていて飽きない。基本優しい人なのだと思う。
道端で動物が跳ねられ死んでいたら、それを避けて通っていくのが当たり前なのに、彼女は車を道の端に止めて、その無惨になった動物の死骸を人目に晒されない所へと移動させていた。その時、彼女のピンク色の綺麗なフェイスタオルを無駄にしていた。その後役所に一報入れる。最初からそんなの放っておけばいいのにと、僕には理解できなかった。
花屋へと出かけた時、車道脇に花が飾られているのを発見すると、買った切り花を一本抜き取り元ある花と一緒に並べてから手を合わせていた。
ガードレールの元に飾られたその花のそばに無表情の男の子が立っている。見た感じでは五歳前後といったところか。僕にはこの子供は見えるが、愛音の設定としては見えないということになる。
また連れて帰るつもりか、それとも秒で空に飛ばすつもりか……。
「あなた、迷子になっちゃったの?」
あろうことか、愛音はその場にしゃがみこむと、男の子に問いかけたのだ。無表情だった男の子は、ほっとしたように笑顔をみせた。
『マジか。見えてんじゃん! …じゃあ僕は? それって僕の事も見えてるの決定ってことじゃないのか!? これで証明できたよな? なあ、なあ?』
愛音は僕の言葉には無視だ。
『ボクのママがいないの』
「うん、そうだね。会いたいね。……多分、お空にいると思うの」
『そうなの?』
「うん。キミをさがしているみたい。キミも空を飛びたい?」
『うん!』
男の子は満面の笑みで笑った。
愛音は男の子を抱きしめると、その頭をポンポンと叩いた。
瞬間、スーッと男の子は消えていった。
愛音の目の前には、街並みという背景だけしか残っていない。
『うわ! うわ! オマエ、知ってて成仏させてたんだな!? うわ、なんてタヌキっぷりだよ! 一人ゴーストハンターかよ!? ……じゃあ僕は? 僕にもそうするつもりか!? そうなのか!? やんのか!? やるつもりか!?』
僕は驚きのあまりに愛音から距離を取り、落ち着かずにそこら中をウロウロとした。
通行人は僕に気付きもせず、僕の身体にぶつかっては通り抜けていく。それもまた気分が良くなくて、愛音の傍へと戻った。
「なにそれ。……ハンターって」
ぷふふ、と彼女は吹き出した。
歩道を散歩する歩行者たちが、訝しげに彼女を見ては通り過ぎていく。
『うっわー! 決定! 今、なにそれって言ったよな? 聞こえちゃいましたー! 愛音はやっぱ僕が見えてんだな? 僕だけが見えないなんてそんなんおかしいもんな? 何を企んでんだよ?』
僕の質問に愛音は応えることも無くスタスタと歩いていく。
なにそれ、なにそれ、と。それからわざとらしく足元に落ちていた空き缶を拾い上げた。
「なにこれ誰よ!? 街にゴミを捨てるヤツは私が許さない!」
『おいおい、強引な持ってき方だよなオマエー!! さっきの『なにそれ』は一人ゴーストハンターに対してのツッコミだろう? 素直になれよ!』
「……疲れた。昼寝したい」
愛音を覗き込むと、顔色が相当悪かったので、それ以上は深堀りをやめた。
ㅤ僕は毎日彼女の生活に密着した。
自分にこんなストーカー気質なところがあったとは、新たな発見だった。彼女の職場にも一緒に行き、彼女の仕事ぶりを応援した。薄毛の上司が彼女を頭ごなしに怒鳴った時には、思わず頭を叩いてしまった。すり抜けたけど。
いつも彼女はその上司の頭をみるクセがあった。
その頭が輝いているのが気になるのか、それとも……。
最近その上司の頭には、イタズラな妖精達が住み付いていた。上司からしたら数少ない貴重な髪の毛にぶら下がっては、『ターザンだよ~!』と騒いで、キャハハハ! と遊びまくる小さな存在達だ。
僕は初めてそれを見た時ゾッとした。
ㅤ可愛らしい仮面を被った恐ろしい妖精達は、その上司の頭を短期間のうちにひどい薄毛へと進行させていったのだ。
「かわいくって、ずっとみてたい」
愛音は薄毛の上司の頭に視線をやりながら、そんなふうに呟いてしまったものだから、その上司の逆鱗に触れたのだ。
それからというもの、愛音は薄毛上司に目をつけられるようになってしまった。
そんなことでパワハラは勃発するのかと、薄毛の上司を軽蔑したが、致し方ない気もする。
なぜなら愛音は、頻繁に薄毛上司の頭上で遊びまくる妖精達にチラチラと視線を送ってしまいがちだったからだ。そして仕事が疎かになる。上司としては挑発されていると被害妄想に陥っても仕方がないだろう。故に愛音は度々その上司に頭ごなしで叱られる事が多くなっていた。
『おい。愛音はお前のハゲをみてるんじゃなくって、その上のかわいいのを見てるだけなんだ。だからそうも怒らないでやってくれよ』
そんな事を言ったって無駄だとは分かっているが、こうも彼女が叱られっぱなしでは見ていられない。
「へっくしょん!?」
オフィス内に彼女の大きな疑問形のくしゃみが響き渡った。ドスの効いたすごいボリュームのくしゃみだった。
ㅤ皆はビクンと身体を跳ねらせた。驚いた様子で彼女に注目してから、クスクスと笑いだす。僕も視線をやると、彼女は薄毛上司の頭をガン見していた。
さらにもう一度、へっくしょん!? と疑問形のくしゃみを豪快にしてから、気まずそうにパソコン画面に顔を隠した。
ㅤイタズラな妖精たちは、薄毛上司の頭の上で、『すべり台だ~!』とキャッキャと言いながら、楽しげに遊んでいる。愛音はなぜこの妖精達を飛ばさないんだと、疑問に思った。
愛音はコイツらに、日頃から『カワイイ…』と、うっとりした目で呟いていた。
お気に入りだから飛ばさないという事なのか?
だとしたら、同じように飛ばされない僕も愛音に気に入られているということなのかもしれない。
確か以前、同僚の女達と好みのタイプを語り合う女子トークを盗み聞きした事があるが、愛音はその時、
『フェロモン爆発してるダンディなおじさんかな? ちなみにそういう紳士は、おじさんじゃなくってオジサマと言うべきね』
と応えていた。
それからと言うもの、僕は自分の姿がどんなものなのか気になるようになっていた。
しかし街のショーウィンドウをチラ見しても、ガッツリと鏡を見つめたって、僕には自身の姿を確認する術はなかった。
もしかしてもしかすると、意外にも僕は愛音好みのフェロモンが爆発しているダンディな紳士なのかもしれない。そんな都合のいい事を考えて、とても気分が良くなった。
『おい、キミ達。もっと面白いところへ連れて行ってあげるよ』
薄毛上司の頭の上にいるイタズラな妖精達を手のひらに載せると、
『キミらの住処は今日からここだ』
スキンヘッドの課長の頭の上に乗せておいた。
『うわ~、ツルンツルンだぁ~!!』
『この頭はもっとすべりがいいね~!!』
『ありがと~う!!』
妖精たちは、スキンヘッドを気に入ったらしかった。これからは薄毛上司の抜け毛も治まるだろう。僕もたまには人の役に立てたと、大満足したのだった。
愛音は程よく同僚と関わりながらも、一人の時間を大切にするタイプだった。昼休みには決まって彼女は屋上で一人過ごしていた。空は暗く雨でも降り出しそうで、屋上から眺める街並みは霧がかって見える。しばらく寂しげな街並みを眺めていた彼女は、突然思い出したように肩を震わせ笑い出した。
『何が楽しいの?』
「さっきのウケるよね…?」
ㅤ独り言なのか、僕へと同意を求めているのか。
『だからなにが…?』
……って、聞こえないか。
それか、聞こえてないフリをされてるだけなのか。それは彼女でしか分からない事だ。愛音が僕を見えないフリにしたいなら、僕はそれに従うだけだ。見えていない演技に乗っかるしかない。
愛音と意思疎通ができたなら、二人でゴーストハンターズの看板を掲げるのも面白いと思ったが、愛音の相方がゴーストの僕というのも変だろうし現実的じゃない。僕は愛音といて癒されているが、彼女からすると僕はどうなんだろう。
働きもしないろくでもないヒモ男?
いや、僕は飯を食わないから、穀潰しじゃないはずだ。ただそこにいるだけの透明人間だ。それでもなにかしら彼女の力になれたらいいと思うけど、僕にはゴーストが隠れている場所を愛音に気づかせるぐらいしか能がない。
愛音は大抵それを無視していたが、たまにおどろおどろしいその道のガチ存在が迫って来た時には、ポケットの中に忍ばせたコンパクトを開けて粗塩を摘み、何やら強そうな真言を唱えてマジで払っていた。
僕は愛音に危険が及んだ時は身を呈して守ろうと心の準備をしていたが、実は僕もガチのゴーストは怖いと思ってしまい、一度だけ、『キャー!!』と女みたいに叫んでしまったことがある。
ふいに愛音の背中に隠れてしまった僕は、自分が情けなくて恥ずかしくなり、勇気を振り絞り愛音の前へと飛び出した。
『テ、テメエ、愛音に指一本でも触れたら、お、おれが黙っちゃいねぇーぜ!!』
震えながら愛音を庇う僕に、
「あなたは消えてて!」
毅然とした態度で叫ばれた。
僕に対してなのか、ガチモンのゴーストに言ったのかは分からないが、彼女の視線は合うのか合わないのかというところで僕を見ている。
『オマエは大丈夫なのか!?』
愛音はコンパクトの中の塩をひとつまみ、僕へと投げつけてきた。
『ひぇ!!』
僕はそれを避けるように遠くへと離れた。
愛音は危機的状況の時、いつでもそんなふうにカッコよく叫んで、僕へと塩を投げつけてくる。
その度に僕の心はズタボロになった。
そんなエピソードを黒猫に打ち明けたことがある。黒猫は、ふん、とバカにしたように鼻で笑た。
『それはそこにいたらオマエまで払っちまうからに決まってるだろ。オマエはとことん、どこにいても愛音の厄介者なんだ。だからとっとと一人でどこかへ消えてくれ』
黒猫は呆れた様子でそう言っていた。
ゴーストハンターの戦いの時は特に僕の出る幕は一度もなかった。なんだか僕の方が守られているかのように思えて、恥ずかしくなってきて、
『その塩入りコンパクト、魔法少女みたいでカッコイイよな?』
ㅤなんて、くだらないことしか言えなくて。
ㅤでも愛音は知らないふりをしながらも少しだけ緊張していた表情筋が緩んだような気がしたから、それだけでも僕の心は救われた。
愛音はいつも通り、屋上のコンクリートの段差に腰掛けると、弁当を食べ始めた。僕もその隣に座った。愛音が大きな口を開けて卵焼きを頬張った時、
「へっくしょん!?」
と、疑問形のくしゃみをしゴホゴホと苦しそうにむせ出した。
『おい! 気をつけろって!』
僕は彼女の背中には触れられないが、ポンポンと叩いてやる。
『なあ、やっぱり僕が見えるんだよな?』
愛音はお弁当を美味しそうに食べるだけで僕の問いには応えない。
『なんでだよ。なんで僕は一緒にいさせてくれるんだよ? 厄介だったら飛ばせばいいのに……』
そんなふうに僕の存在を無いものとするならば、いっその事消してくれた方が楽になれるのに。
目だって、未だに合いそうなところで逸らされる。繋がったと期待させられては、違うのか…と再確認させられる日々だ。
「……雨、降りそうだね」
静かに彼女は呟いた。
僕は無言のまま、暗い空を見上げた。
ポツポツと雨が降り出した。
優しい雨だった。
彼女は慌てて弁当を食べ終わるとそれを鞄の中へと片付けた。腰掛けていたコンクリートの段差から立ち上がると、
「ん〜!! 気持ちいい~!!」
思い切り伸びをした。
ㅤ雨は次第に強くなる。
ㅤ彼女は動じず、屋上の柵にもたれながら、まるで雨乞いでもしているかのように両手を天に広げた。
「雨だ! ラッキー!!」
『何がラッキーだ! さっさと雨宿りしろよ!』
ㅤ僕の忠告は無視だ。
午後からもそれで過ごさなきゃいけないのに、その髪も制服も徐々に濡れていく。それなのに、子供みたいに無邪気に笑って楽しそうで。なのに、なぜだか悲しそうにも見えてきて、僕は彼女の手を掴もうと手を伸ばした。 ……掴めなかった。
『おい風邪ひくぞ!』
雨祭りを楽しむ彼女を叱ってみるが、ケラケラと笑って子供のようにはしゃぐばかりだった。
翌日、彼女は風邪をひいた。
僕と黒猫は、彼女にどう看病すればいいのか、不便な身体で二人、団結し乗り越えた。
休みの日の彼女は、家でゴロゴロしている事が多くなっていた。
僕も一緒になってゴロゴロしてくつろいだ。
ㅤ黒猫は僕と彼女の間に入って、僕の顔に効かない猫パンチをした。僕と黒猫が彼女の隣のポジションを奪い合うように喧嘩をするのは日常となっていた。
彼女が笑ったり怒ったり悲しんだり、どんな時も僕はそばで見守った。そうしているうちに、僕はここに居るのが当たり前になっていた。なぜここにいるかなんて分からない。それに自分がどこへ行けばいいのかさえも分からない。行くべきところが本当はあるのかもしれないが、とにかく彼女のそばで平和だけど少し変わっている彼女の日常を眺めていたかったのだ。
あの時、『どこへ行けばいいのか分からない』と言ったハゲオヤジをたまに思い出した。
ㅤ少し前まで僕は、あの交差点の隅で『どこへ行けばいいのか分からない』とさえ考えられなかった。そこに留まるのが普通で、時が止まったまま、自分が誰だったのか、いつからそこに居たのかも記憶がない。それが当たり前で変化も求めなかった。彼女と目が合った気がしたあの時から、止まっていた僕の時間は動き出したのだ。
ㅤ初めてここへと来た時、出窓にはコスモスの花が飾られてあった。季節が移り変わり、今では紫陽花の鉢植えが飾られている。それだけの間、僕は彼女のそばにいながら時を感じていられたのだ。
『あの時と今、どっちが良かったんだろう……』
ㅤ僕は何となく、紫陽花の青を見つめた。
ㅤ彼女のそばで日を重ねるごとに、切なさが雪だるま式に大きくなっていった。彼女は無くした誰かに毎日夢を見ながら泣いている。夜は眠れないのか、そんな時は必ずスマホのYouTubeで雨音を鳴らす。それを聴きながら目を閉じ、そのうち、その優しい雨音に癒されるかのように眠りに落ちていく。
頬に残った涙を拭おうと指先で触れてみるが、触れられない。そんな僕を観察していた黒猫が「触るなよ」と、低い声で唸った。
『キミの姫様はかなりの雨好きなんだな?』
『そうさ。さらにカミナリが鳴ってたらそこの窓開け放ってヒャッハーって叫びながら喜ぶんだぞ。それが超カワイイんだ』
黒猫は呟き、彼女が横たわるベッドへと上がると、その胸元に丸くなった。
『キミはどう彼女と知り合った?』
『事故に巻き込まれて道端で死にそうになってるのを助けられてからずっと一緒さ』
『そうか。愛音らしいな。キミは愛音とずっと一緒にいられるのか。…僕はこんなんだから。しかも未だに愛音からはわざとらしく見えないフリをされてる。透明人間みたいなもので切ないよ』
『オレは透明じゃないけど人間じゃない。だから愛音とは結ばれる関係じゃない。かといってメス猫にも興味は無い。…なんとなくお前と似てる』
『僕ら、普通に人間だったなら三角関係とかになってたのかな……?』
『オレが人間ならばお前には負けないさ。絶対』
黒猫はそれ以上話しかけるなと言いたげに僕に背を向けた。僕は窓際に立ち、月と星が輝く夜空を見ながらスマホから流れる優しい雨音を聴いた。リアルタイムじゃない雨音なのに、ひんやりとした雨の日を感じさせてくれる。相変わらず窓ガラスには僕以外の物しか映らなかった。
僕だけがいない世界を強制的に見せつけられているようだ。そんな光景、何度も何度も見てきたし、思い知らされて来たのに、最近では特にそれが僕を苦しめた。
僕はこのまま、ここでこうしていてもいいのだろうか……。
愛音が決めてくれたなら、その選択に従うつもりだが、そんなふうに他人に自分の選択を委ねるだなんて、僕は卑怯者なのかもしれない。
愛音の寝息が聞こえてくる。
ㅤ同じ空間にいるのに、とても遠くに感じた。
ㅤ世の中は梅雨入りしたようだ。
愛音が好きな雨降りが続いているが、最近の彼女は元気がない。仕事以外は大抵ベッドに横たわっていて最低限の事でしか動かなくなった。顔色が悪いし食事もろくに取らないでいる。部屋も散らかりがちになり、出窓に飾られた紫陽花の鉢植えも土が乾いたまま放置されていた。あんなにも生き生きとしていた紫陽花の青はぼやけてしまい、元気なく萎れかかっている。
いつだったか、霊に取り憑かれたら徐々に陰を引き寄せ消耗していくと聞いたことがある。僕は彼女に今それをしているようだ。
大切な人だと思っているのに、なぜそうなってしまうのか。それに愛音はなぜ僕を放たないんだろう。いっその事、強制的に放ってくれたなら楽になれるのに。そんなチャンスはいくらでもあっただろうに、なぜ愛音はそうしなかったのか。それをなんとなく待っているうち、愛音は衰弱していった。これ以上は見ていられない。原因が僕ならば、彼女から離れるべきだと思った。
「そろそろ行くな?」
ㅤ去ろうとしたその時、
「へっくしょん!?」
疑問形のくしゃみを投げかけられた。
泣けない僕の代わりに、窓の外では雨が降っている。僕の耳には、その雨音が悲しく感じられた。
『愛音といて楽しかった。僕はここにいてもあまり意味が無いみたいだ。っていうか、それ以下みたいで。ごめん。だからそろそろ離れることにするよ。ありがとうな?』
昼寝をする彼女の頭を撫でたくても叶わない。
「そうなの。…これからは、あそこでコスモスをみても、もうあなたはいないんだね?」
寝ていると思っていた彼女は、目を閉じたまま、そう静かに呟いた。
『起きてるのか…?』
彼女は応えない。
ㅤそういえば、僕が彼女の車に無断乗車した時の交差点の車道脇には、たくさんのコスモスの花が咲いていた。僕はその季節から梅雨入りした今まで、彼女のそばにいたんだ。
長いようで短い期間。
この先も、もっとずっと彼女のそばにいたかった。だけど、それ以上に彼女のことが大切になってしまったから。
ㅤ外では雨が降っている。現在進行形の、本物の雨だ。僕は窓越しにその悲しい音を聞いた。黒猫も出窓のスペースに飛び乗り、しおれた紫陽花の鉢植えと並んで座った。
『愛音を頼むな?』
黒猫は窓の外の雨を真っ直ぐと見つめたまま、不機嫌に呟いた。
『昔、この家に人間の男が住んでいたんだ。……お前、そいつになんとなく似ているよ。ある日突然いなくなったアイツと同じだ』
『……そっか。そうだったんだな。このままずっとここにいて愛音に取り憑いたまま永遠に離れたくないところだが、そうすればするほどに辛くなるんだ』
空っぽのまま止まっていた僕は、彼女に時を進められた。そんな彼女にはこの先もずっと笑っていて欲しかった。
「私こそ、ありがとう。それに、ごめんなさい」
背中から声がして振り返った。
愛音はベッドから起き上がり、ゆっくりと、僕の方へと歩み寄ってくる。
目が合った。僕に身体があるのなら、号泣するほどに嬉しい瞬間だった。僕を見上げる彼女はもう僕から目をそらす事もない。
「なぜ謝る?」
「あなたの自由を奪ったのかなって」
「勝手に僕が付いてきて好きでここにいただけだ。家賃も払わず居座ってて、僕こそ悪かった」
「あなたが家賃とか言う?」
愛音は吹き出して笑った。
彼女が笑うと、僕も調子に乗りたくなる。
「家賃、何ヶ月分僕は踏み倒すつもりかな? …大家さんわりぃ。見逃してな?」
「仕方ない。家賃はチャラにしてあげるわ。今まであなたのおかげで楽しかった。……私、昔を思い出して癒されてたのかもしれない。ありがとう」
彼女の瞳には僕は映らない。
だから僕は、僕が今何歳なのか、どんな容姿なのか、ジジイなのか実はハゲなのか、人間の形をしているのか、全く別の生き物なのか、知ることも出来ない。
勝手に自分は若いつもりでいるが、実の所は醜く太った中年なのかもしれない。
僕の姿がどんな風に愛音の目に映っているのか、愛音好みの姿なのか、知りたくて、でも叶わなくて。彼女好みの、フェロモン爆発してそうな年上のダンディ男みたいな僕だったなら嬉しいが、僕の精神年齢はなんとなく中二っぽくて、でも実際の見た目はオッサンなのか、なんなのか……。鏡を見たって何処を見たって、僕を映し出すものはこの世に何一つ存在しなくて……。苦しかった。
でも今は、ちゃんと、愛音は僕の姿を見つめてくれている。形のない僕を、ちゃんと、見てくれているんだ。
僕の心は温かいもので満たされた。
僕は愛音の頭を大切に撫でた。彼女の大きな目からは涙が溢れ、雨のように頬を濡らしていく。
「もしかして悲しんでくれてるのか?」
「当たり前じゃない」
「そっか。サンキューな。バイバイ」
「……うん。バイバイ」
愛音は泣きながら笑うという器用なことをして、僕から目を離さない。
「絶対私を忘れるなよ!」
「おまえもな!」
それから僕の手を握ってくれた。
僕も、その手を握り返す。
なんとなく手のひらに愛音の温かみが伝わってきて……。僕は確かめるようにその手に力を込めた。
だんだんと声が遠くなっていく……。
僕は思い切り叫んだ。
「粗塩、絶対切らすなよ!」
「大丈夫よ。定期購買してるもの!」
「それな! 間違いない!」
ㅤ僕はキレッキレのコマネチをしておどけてみせた。
「だからそのギャグ古いって!」
彼女がケラケラと笑い出す。
ㅤその瞬間、温かくて眩しい光が、僕を包みこんだ。
彼女のそばにいたいけど まきりい @makirii3
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