第16話 新たな挑戦
由美は試飲会の成功を受け、ホテルの部屋で新しい資料を広げていた。リチャードの言葉が頭の中で何度も反響する。「次はもっと大きなアプローチが必要だ。」
試飲会は確かに成功したが、それは単なる序章に過ぎない。彼女の目の前には、より大きな目標——現地市場での販路拡大と、さらなる認知度向上という大きな課題が横たわっていた。
「ここからが本当の勝負だ…。」由美は資料に目を走らせながら、現地での販路展開のプランを練り直していた。
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翌朝、オフィスでの会議室には現地の販売チーム、マーケティング担当者、そして日本本社の幹部たちがリモートで参加していた。由美は大きなスクリーンに映し出されたプランを前に、冷静に話し始めた。
「私たちの次のステップは、現地市場での販路拡大です。これまでのテストマーケティングとイベントを基に、現地消費者への認知度を高めていきます。そのために、以下の3つの戦略を提案します。」
由美は、プレゼンテーションの画面を切り替えながら説明を続けた。
「まず、現地の大手小売チェーンとの提携を強化し、流通チャネルを拡大します。これにより、現地フレーバーとプレミアムラインの両方をより多くの消費者に届けることが可能になります。」
彼女の言葉に、現地チームのメンバーたちは頷いていた。特に、小売業界での影響力を持つリーダーのジェフが、興味深げに前のめりになって聞いている。
「次に、デジタルマーケティング戦略を強化し、SNSやインフルエンサーを活用したキャンペーンを展開します。試飲会で得た評価をもとに、グルメや紅茶愛好家をターゲットにした広告を打ち出します。」
由美の声には、次第に自信が戻ってきた。彼女は、イベントの成功だけでなく、それをどう活かすかを明確にイメージできていた。
「最後に、地域ごとのターゲット戦略を実施します。現地市場の特性に合わせ、地域ごとに異なるプロモーションを展開することで、プレミアムラインの価値を各エリアに定着させます。」
スクリーンに映し出された地域別の市場分析データを見つめながら、チームメンバーたちは次々と質問や意見を交わしていく。由美のプランは、実現可能でありながらも大胆な挑戦だった。
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会議が終了した後、由美は深呼吸をし、リチャードと目を合わせた。
「いいプランだ。だが、ここからが本当に大変だぞ。」
リチャードの言葉には厳しさがありながらも、どこか期待も感じられた。
「わかってる。」由美は頷きながら答えた。「でも、これを成功させないと、全てが無駄になってしまう。この販路拡大こそが、私たちの本当の勝負だ。」
リチャードは肩をすくめて笑った。「その意気だ。じゃあ、次のステップに進もう。」
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販路拡大の計画が整い、由美はその第一歩を踏み出すため、現地の大手小売チェーンとの初めての交渉に臨むこととなった。現地市場に「午後の紅茶」を根付かせるには、このパートナーシップが重要な鍵となる。もしここで提携が成功すれば、一気に商品の認知度が高まり、消費者の目に触れる機会も増える。しかし、失敗すれば、彼女たちの努力は水の泡となり、次の展開が大きく制限される。
会議室のドアが開き、由美とリチャードは、現地小売チェーン「ミラージュ・マーケット」の幹部チームと対峙した。広々とした会議室には、緊張感が漂っていた。由美は以前にも多くの交渉を経験してきたが、これほど重要な契約を目前にしたことはなかった。彼女は自分に「ここが正念場だ」と言い聞かせながら、資料を手に取った。
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「本日はお時間をいただきありがとうございます。『午後の紅茶』のプロジェクトについて、私たちの提案をご紹介させていただきます。」由美は最初の一言を静かに、しかし自信を持って語り始めた。
スクリーンに映し出されたプレゼンテーションには、「午後の紅茶」の現地市場での評価や、試飲会の成功がまとめられていた。由美は、現地の消費者がどのようにこの商品を受け入れているか、具体的なデータとともに説明を進めた。
「私たちが目指しているのは、ただ商品を売るだけではありません。『午後の紅茶』は、日本の紅茶文化とともに、日常の中で豊かさを感じるひとときを提供するブランドです。これを現地の消費者にも届けたいと考えています。」
幹部たちはじっとプレゼンテーションに耳を傾けていたが、表情からは感情が読み取れなかった。リチャードが横に立ち、時折サポートする形で、販路の拡大に関する具体的な戦略を述べた。現地市場向けのフレーバーと、プレミアムラインの2本立てで、各小売店における販売方法の細部にまで言及する。
「特にこのプレミアムラインについては、消費者の購買層を絞り込み、限定的な高級路線で展開することを考えています。これにより、『午後の紅茶』の高いブランド価値を維持しつつ、広く受け入れられる現地フレーバーと共存させることが可能です。」由美はそう付け加えた。
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すると、一人の幹部が口を開いた。「確かに、現地のマーケットに合わせた戦略を持っていることは理解しました。しかし、我々としては、長期的に見た際のブランド価値と売上の安定性が最も重要です。日本では大成功を収めたとしても、それがこちらでどこまで再現できるのか、正直なところ疑問が残る部分もあります。」
厳しい指摘だった。由美の心に一瞬不安がよぎったが、彼女はそれを振り払って言葉を続けた。「ご指摘ありがとうございます。もちろん、現地市場は日本とは異なるチャレンジがあります。ですが、試飲会での反応から見ても、我々のブランドは現地の消費者に受け入れられる余地があります。また、ただ販売するのではなく、消費者との絆を深めるためのイベントやプロモーションを継続して行うことで、ブランドの認知度と信頼を築くことが可能です。」
由美の言葉に、幹部たちは再び静かに頷いた。次々と質問が飛び交い、価格戦略、キャンペーンの実施計画、流通コストについても細かいディスカッションが続いた。リチャードも冷静に対応し、由美と二人三脚で交渉を進めていく。
「我々としては、提案を非常に興味深く受け止めています。契約の詳細については、今後詰めていく必要がありますが、前向きに検討したいと思います。」最後に幹部の一人がそう告げた。
由美は、その言葉を聞いて心の中で安堵の息をついた。交渉は完全に決まったわけではなかったが、少なくとも前進していた。
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会議が終わり、リチャードと二人で会議室を出たところで、彼は肩をすくめて言った。「やったな。これで次のステップに進める。」
「まだ完全に終わったわけじゃないけど、第一歩は踏み出せた。」由美は微笑んだが、彼女の目は次の課題を見据えていた。「これからが本当の勝負だ。契約が成立したら、私たちが計画した通りに動かさないと。」
「その通りだ。」リチャードは頷いた。「だが、君はすでにここまでやり遂げた。きっとうまくいくよ。」
由美は静かに頷いた。「まだまだやることはたくさんある。でも、諦めるわけにはいかない。」
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その夜、ホテルの部屋に戻った由美は、会議で得たフィードバックをもとに、新たな計画を練り直し始めた。販路拡大のための契約交渉は始まったばかり。今後の展開を見据え、彼女はさらなる詳細な戦略を立てることに没頭した。
「これを成功させなければ、全てが無駄になるかもしれない。でも、私は絶対にやり遂げる。」由美は自分にそう誓い、新たなページに計画を記し始めた。彼女の挑戦は、まだ続いていた。
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