仮2

高代 柊花

#001.『嵐』が来る!

 荒野の真ん中。

「前方、二時ノ方角ニ嵐ノ発生ヲ観測シマシタ。距離オヨソ2400m、スミヤカナ避難ヲ。頑丈ナ建物ナドニ避難シテクダサイ。スミヤカナ避難ヲ」

「おい、お前はいつからニュースキャスターになったんだ?今は『嵐』から目を離さず俺を守れ。少しは役に立ってみろ」

「デスガ、アノ嵐ト接触スレバ命ノ保証ワデキマセン。ソレニ、オ言葉デスガアノ子供ノタメニアナタガ危険ヲ冒ス必要ワ、アリマ……風速ワ現在約45kt、移動速度ワ変則的、現在ワ時速約20㎞~40㎞デス。三時間後ニワ消滅スルト思ワレマスガ、コノママデワ5分ホドデ接触シマス。改メテ安全ナ場所エノ避難ヲ強ク勧メマス」

「必要ない…それよりお前、燃料あるか」

「燃料38%、バッテリー16%デス」

「十分だ」

「十分デワアリマセン。補給地点エノ距離ト嵐デノ消耗ヲ考エルト、コノ残量デハ…」

「十分だ…二人乗りで速いものに今すぐに変形しろ。」

「ラクダニ乗ッタコトワ?」

「ない」

「デワ、バイクニシマショウ。自動操縦ヲシナイ分、燃料ノ消費ヲ抑エラレマス」

「良し、お前はここで待て…子供を回収したらすぐに戻る。『シールド』を頼む」

「現在ノエネルギー残量デ提供可能ナ『シールド』デワ、肉体エノ深刻ナダメージワ避ケラレマセン」

「ダメージは最小限でいく。何か異常があればすぐに知らせろ」

「承知シマシタ。『シールド』ヲ展開シマス。装着時ワ指ヲ挟マナイヨウニ注意シテクダサイ。報告、バッテリー残量僅カ。充電ヲ推奨シマス」

男の眼前には黒く強大な壁が立ちはだかっている。『シールド』装着完了の音が鳴り、男は駆け出した。





 とある酒場にて。

「おい!テメエ…ふざけたことをしてんじゃねえ!」

「いきなりっ…なんのことだぇ!」

「すっとぼけてんじゃないぞ、このトンチキが…オレの酒に何入れた?」

「何言ってんだぇ!訳の分からねぇこと言うんじゃなぇ!」

「テメエ、薬屋カッコウだよな」

「…あらら、お客様でしたか?ささ、こんなところでは落ち着いて話もできませんし、場所を変えましょうか」

「場所はここだ。薬も買わねえ」

「…では何の用で?新しい酒でも奢りましょうか?」

「こいつに薬を売ったな?」

「いいお写真ですね…ウン、よく撮れてる。もうちょっと視線を上にした方が自然になると思いますが」

「売ったな?」

「それはお答えできませんね~お客様のプライバシーに関わることですので。私を訪ねてくるのは薬物中毒者ジャンキーだけじゃないのでね…あなたも分かるでしょう?こんな世ですし。特にそういった方たちからの信頼は大切にしなければ…ですがもし、私がその方に商品を売ったいたとして、何か問題でも?」

「こいつはテメエに会った次の日に…ピストルで自分の頭を撃った」

「あらま」

「テメ…」

「ちょっとお待ちなさいな。それは少し…『お門違い』ってやつじゃないですか?」

「あ?」

「ですから、その人は『自分』で『自分』を撃ったんでしょう?だとしたら…私には関係のないこと、つまりそれは『お門違い』ってやつですよ」

「こいつはそんな奴じゃない」

?彼が自殺をするような人じゃないと?なぜそう言えるんです?あなたは彼の何を知っていて、彼がそんな人じゃないと言い切れるんですか?」

「あいつは…来週ガールフレンドと会う約束をしてた。封鎖区域に住んでる人だ。その人からあいつに手紙が来て、会う約束をした。それが来週だ。封鎖区域になったってことは…分かるだろ?んだよ。だが突然連絡が来た。金が十分に貯まったから、抜け出せると。そんな人間がいきなりこんなことになると思うか!?あいつは…」

「一つ、いいですか?」

「…なんだ」

「もしかしてその男…頭を撃った男、生きてます?」

「…ああ」

「どんな状態で?」

「テメエの方が詳しいだろうよ…」

「おや、それは」

「テメエの商品だ。あいつの傍に落ちていた」

「それで、この薬を飲んだ男はどうなっていたんです?…結果だけじゃない、あなたの率直な意見が聞きたいんです。友達としてでもいい。第一発見者としてでもいい!なにか、感じましたか?」

「俺はテメエを殺しにここへ来たんだ…そんなくだらない質問を聞くためにここへ来た訳じゃない」

「じゅっ?ちょっ、ちょっと待ってくださいよ!そんな、いきなりそんなものを向けられても!」

「そうか、ならあの世で心行くまで後悔しやがれ」

破裂音が響く。熱を持った心を持たぬ弾丸が、薬屋の腕を紅く染めていく。

「ぐああぁぁァ…このッ、ク…ッソ野郎がぁ…!」

「チッ、外した…もう動くなよ…」


「ちょおっと待ったぁ!」


「なんだぁ…?邪魔するならコレが終わってからにしてくれないか?」

「そうはいかんなあ…おじさんは邪魔と仕事が生きがいなんだよお?それを二つとも封じられちゃ、おじさんうっかりプライド捨てちゃうよ?泣きべそかいちゃうよお?いいの?見たい?おじさんのド☆泣き」

「ふざけてんならあんたも撃つぞ」

「ほう、それなら勝負してみるかい?おじさんの仕事、バウンテハンター、なんだけどなあ?やるかい?」

「賞金稼ぎってやつか…いや、やめとくよ。でもあんたは今関係ないんだ、すっこんでてくれよ」

「それが?関係?あ・る・ん・だ・なぁ~~!」

「はぁ…どういう意味だ?」

「ソイツよ、ソ・イ・ツ。そのしみったれた薬屋さんにね、用があるんダス。って、ははっ!ふざけちった!」

「あのな…一回のターンで全部話してくれないか?一々反応伺ってんじゃねえよ」

「わっかりまあ~したあ!いい?ソイツはね、キミにやったみたいにね、こう…酒にちょびっとだけお薬入れちゃうの!そんでね、トんだ所に商品をチラリズムさせちゃって、大量に売りさばくってワ~ケ!ちょっと賢いよね。おじさん嫉妬しちゃう。だから呼び名はカッコウ、こりゃ結構。なんちて。まあ要するにだね、押し売りだね。でね、ついにね、ついにね、ソイツにもね、懸賞金がね、付いたって話をね、今ね、してる」

「つまり…アンタは仕事で、こいつを始末する必要があるってことだな?」

「ウン」

「ふっ、なら任せるよ。わざわざ俺が汚れる必要もないわな」

「アロワナ?」

「仕事しろ」

「そんなわけでカッコウちゃ~ん、ばいばーい」

再び、破裂音が響く。

「な!?殺すのか!?」

「ウン。生死問わずだもン」

「…そうか、何というか…ありがとう」

「まだ終わってないよ。キミのさっき言ってた話、本当?」

「さっき?」

「頭を撃った男が、まだ生きてるって話」

「ああ」

「そっか…じゃ、これあげる。いろいろ調査できる人知ってるし、今の状態は分からないけどきっと元に戻せると思うし。コイツ《カッコウ》の処理が終わったらすぐ連絡して。その彼が今どこにいるか分かる?」

「俺の家の屋根裏です…あの、本当に助かるんですか?」

「きっと、たぶん。でもそのためにはコッチで預かることになるかもしれなけど…良いよね?」

「あ…はい」

「ウンウン、じゃまた連絡してネ」

「はい…ありがとうございました」



「ってぇ…おい馬鹿、つつくな」

「メンゴメンゴ~。いや~にしても危なかったネ~おじさんヒヤヒヤして見てたよ」

「おっせえんだよ…ったぁ…おいこれ死なねえだろうなぁ」

「大丈夫!たぶん。急所は外したよ~ん」

「治療費どうすんだこれ…」

「そりゃもちろん、キミの稼いだお金からよ」

「はぁ…薬売って薬買うのかよ…」

「それってなんかあれだね!あの~…あれだ!ウン、あれだね。そう、あれ」

「はぁ…」

「ままま、『試作品』はおじさんが確認しとくからさ!ほら、早く元気になってネ」

「当然だ。おい!もっと飛ばせ」

「今ガ最大速度デゴザイマス、ゴ主人様」

「何かあったのん?分かった、あれだ!」

「そうだ…あr

「おトイレだ!」

「…『嵐』だよ…すぐに来る」

「そっちね!いや~二択!おしかったナ~。でもでも!どっちもある意味、『嵐』だよネ…おじさんだけ?最近調子悪くってさ!まさに『嵐』!って感じなのよ…おーい、聞いてる?」





 「ハイ、コチラEP1343“AG”7.73、デス」

「俺だ、子供は回収した。今そっちへ向かっている。それと…『シールド』がもうもたない。合流してすぐに離れるぞ」

「マダ変形ガ完了シテオリマセン」

「どれくらいだ」

「アト3分25秒デス」

「1分でやれ」

「ンナ無茶ナ」



「来たぞ…急げ」

「急イデマストモ」

「もういい、残りは走りながらだ」

「ハイ」

強烈な風と雨が静寂を引き裂いていく。

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