#059

――レジーナたち連合国上層部の者らがストリング帝国との交渉を終わらせる少し前。


アンたちはレジーナに指定された国の空港に到着していた。


ミントが父パロットに頼んで手配した小型ジェット――スクリーミング・バードはアンたちを降ろすとそのまま空港を飛び立っていく。


「帰しちゃっていいの?」


ブレシングがアンとミント二人に向かって訊ねた。


彼は来たこともない国のせいか、帰りの移動手段を気にかけたのだろう。


それは国によって、ここ数年の異常気象の影響で、スペースシャトルや航空機が飛ばせないこともあるからだ。


「問題ないでしょう。必要になったらまた来てもらいますから。それに新兵器のテストだって数日かかるでしょうし、いつまでも彼らをここで待たせるわけにもいかないですからね」


「そっか、また来てくれるなら問題ないね。よいしょッと」


ブレシングはそう言いながら、地面に下ろしていた自分のリュックサックとミントの荷物を担いだ。


アンもブレシングもほとんど身一つのため、大荷物なのはミントだけだ。


ブレシングは特に言われたわけでもないのに、ミントの荷物を持ったが。


彼女も気にせずに、ブレシングの隣を歩き始める。


そんな二人の後ろ姿を見てアンは思う。


(知らぬ間に馴染んでるな、あの二人……)


アンの心の声の通り――。


最初こそギクシャクすることが多かったミントとブレシングだったが。


ここ数日寝食をともにしたのもあって、一緒にいるのが当たり前のような関係になっていた。


今の並んで歩いている二人を見れば、きっと若い夫婦か、または年の近い兄弟に見えることだろう。


(二人とも、なんだかんだいって波長が合ったんだな。よかった、よかった……)


アンはそんな二人を見て一人和んでいた。


だが相変わらず表情には出ていないので、誰にも気が付かれたりはしない。


たまたま通りがかったノラ猫が、そんなアンをボーと見つめていたりする。


アンはそんなノラ猫に気が付くと、屈んで頭を撫で始めた。


ノラ猫は逃げずに、ただ彼女を見つめたままだ。


表情のない人間を初めて見てめずらしがっているのか。


しばらくすると、アンの手から離れてそのまま走り去っていった。


「……やはり、私は動物に好かれないな」


顔にこそ出ていないが。


アンが落胆していると、振り返ったブレシングは彼女に声をかける。


「何してんの? 早くしないと置いてっちゃうよ」


「あぁ、今いくよ」


アンはそう返事をすると、手を振っているミントと急かしてくるブレシングのもとへと歩き始めた。

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