#057

ノピアがパロットたちに挨拶をすると、彼はストリング帝国の将校の中心の席に腰を下ろした。


向かい合う上層部たちもノピアが座るのを確認すると、自分たちも椅子に座る。


「ノピア将軍閣下にそのように言ってもらえて光栄です」


パロットが上層部を代表して感謝をし、ノピアは笑みを返していた。


レジーナは状況がよくわからないままだったが、上層部と帝国との交渉は始まっていく。


今ではめずらしい紙に書かれた調印書をパロットが差し出し、帝国の将校がそれを受け取る。


渡したパロットが口を開く。


「当方の条件を承認していただければ、約束していたものをストリング帝国へ譲渡じょうといたします」


その言葉を聞いてレジーナは思う。


調印書、それに約束していたものとはなんだと。


将校はノピアを一瞥すると、周囲にいた帝国兵に指示を出した。


それから兵たちが動き出し、部屋に台車に乗ったジュラルミンケースの山が運ばれてくる。


「では、承認の証としてこちらをお譲りいたします。ご確認を」


その言葉の後に、ケースが上層部らの前で開けられた。


中には金塊が詰まっている。


それを見たレジーナは思わず声を漏らした。


「こ、これは……ッ!?」


レジーナは行われている交渉の内容を、それとなく察していた。


おそらくは、パロットがここにいる数人の上層部の者たちと考えたストリング帝国との和平交渉なのだろうと。


だが、彼女が理解できないのはこの金塊だ。


聞いていた会話から考えるに、これは帝国が連合国から何を購入するということになるが――。


(約束していたものとはなんだ? もしかしてストリング王国の立場改善か? しかし、本国を気遣うならどうしてあんな大それたことをしたのだ?)


レジーナが思考を巡らせている間にも交渉は進んでいき、話も終わりに近づいていく。


「約束のものはこちらで運ぶのでご心配なく。では、これにて」


そして、最後にノピアがそう言うと、この会合は終わりを迎えた。


パロットたち連合国上層部らが部屋を出ていくのと一緒に、レジーナも彼らの後を追う。


そんな彼女たちのことを、帝国の将校たちも兵らも敬礼して見送っていた。


だが、ノピアはその去っていく背に冷たい視線を送っている。


廊下に出たレジーナは早足で歩き、先頭を歩くパロットの横に並んだ。


そして、彼女は静かに口を開く。


「エンチャンテッド殿……。これはどういうことなのか、ちゃんと説明していただこうか」


「見ての通りの和平交渉だよ、レジーナ女王。帝国は我々との休戦を望んでいる」


パロットの返事を聞いたレジーナは、そんな馬鹿なと驚愕の表情を浮かべた。


彼女が再び口を開こうとするも、パロットはまるで遮るよう言葉を続ける。


「戦いなど最初からなかったようなもの。帝国の狙いは本国――ストリング王国の領土回復だった。こちらが多少目を瞑れば、事はすぐに収まる」


「……信じられませんね。たかが領土のことで、観艦式を襲撃するでしょうか? それにあのときの演説は――」


「もうよいのですよ、レジーナ女王。それにもし帝国がまた我々に逆らおうとも、すべてにおいて連合国が上回っているんです。何も問題はありません」


パロットの言葉に、他の上層部の者たちもその通りだと笑みを浮かべていた。


だかレジーナだけは、その中で一人不安を拭えないでいた。

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