#050
――ブレシングが目を覚ました頃。
アンは森から出て、職場である連合国軍の基地へと来ていた。
基本的に彼女の仕事は午後出勤。
今日も新米兵士への指導をするために、連合国軍の軍服に着替えて訓練場へと向かう。
すでに新米兵士たちは集まっており、皆アンの姿を見て背筋を伸ばして敬礼している。
「おはよう。今日もよろしく頼む」
無愛想に挨拶を返すアン。
それから彼女は、いつも通りに兵士らの指導を行おうとすると、訓練場にいた連合国の人間に声をかけられた。
どうやら誰かからアンに連絡が入っているようだ。
アンが相手は誰だと思いながら、訓練場にあった通信機器のスイッチを入れると――。
《お久しぶりです、アンさん》
ホログラム映像が現れ、そこには腰まである長い髪に長身の若い女性の姿が映し出される。
連合国上層部の一人――オルゴー王国の女王であるレジーナ·オルゴーだ。
アンは彼女とは旧知の仲だった。
それは連合国が創立されるきっかけとなった戦争で、レジーナと共に当時のストリング帝国や世界の脅威と共に力を合わせて戦ったからである。
「レジーナ女王……? わざわざ私なんかに連絡とは、一体何かあったんですか?」
旧知の仲とはいえ、二人はプライベートで付き合うのある関係というわけではない。
レジーナは一国の女王であり、上層部の一人なのだ。
いくらアンがかつての英雄といえ、たかが連合国軍の大尉である相手に個人的に連絡をしてくるなどあり得ないことだった。
訊ねられたレジーナは、苦笑いを浮かべて返事をする。
《そんな言い方しないでください。私はあなたのことを、恐れ多くも友人だと思っています》
「それはこちらこそ恐れ多いが……。しかし申し訳ないが、今は仕事中でね。パーティーのお誘いなら後にしてもらっても――」
《パーティーのお誘いもしたいのですが、実は今日は別件であなたに用がありまして》
「別件……ですか?」
それからレジーナはアンに説明を始めた。
彼女の話によると、数日後にある国で新しく開発した兵器のテストがあるようだ。
そして、その兵器のテストをアンに依頼したいと、レジーナは言う。
「しかし、私にも仕事があるからな……」
《そこはもう話をつけております。アンさんは身一つで現地に来てもらえればいいですよ》
どうやらそのことは、すでにアンの職場である基地の職員たちには伝えているようで、明日から仕事を休んでも構わないらしい。
だが、アンが気にしているのは仕事だけではない。
「……それは気が早い。しかし、一緒に住んでいる子供たちを数日間放っておくわけにも……」
《そちらも問題ありません。優秀なベビーシッターに預からせますから》
「ベビーシッター? だが、レジーナ女王。うちの子たちの相手は、普通の人には難しいと思うが」
《大丈夫です。その優秀なベビーシッターは、アンさんもよく知っている者たちですから。では、詳しい場所はや日程は後で送らせてますので、現地で会いましょう》
「ちょっとッ!? 私の知っているベビーシッターって誰なんだッ!?」
そこでプツリと通信が切られ、レジーナが映っていたホログラム画面が消える。
アンはやれやれと思いながら、相変わらず強引だと大きくため息をついた。
「レジーナ女王も相変わらずだな……。それよりも私のよく知るベビーシッターって?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます