#049

「うぅ……」


「やっと目を覚ましましたね」


ブレシングは目を覚ますと、自分がベットに寝かされていることに気が付いた。


目の前には、ずっとそこで診ていてくれたのだろうと思われるミントの姿があった。


そして、自分がアンに絞め落とされたことを思い出す。


「あぁ~、 やっぱアンさんには敵わないや」


「でも、あなたも素敵でしたよ」


「えッ?」


ブレシングは何故ミントが自分のことを褒めたのかがわからず、戸惑ってしまう。


慰めているつもりなのだろうかと、ブレシングは思う。


正直良い勝負とはいえない内容だった。


実際にスパーリングの時間は一分も経過していないのではないか。


それなのに、秒殺された人間のことを素敵だなんて――。


やはり女という生き物はわからない。


(すべての女の人が、みんなアンさんやこの家にいた子たちみたいだったら楽なのになぁ……)


ブレシングは連合国軍に入隊前――。


それまで一緒に住んでいたアンたちとは家族として暮らしていたせいか、あまり男だとか女だとかを意識したことがなかった。


そのせいもあり、家を出てから最初の一年間は異性関係でかなり苦労させられた。


何気なく褒めたり――。


調子が悪そうだったから心配して声をかけたり――。


特に意味もなく重いものを持ってあげたりし続けた結果――。


望んでもいないのに女性に言い寄られるようになったり、逆に嫌われたりするようになった。


当然ブレシングの容姿が良かったのもあったのだろう。


それを好意的に取る者と、軟派な奴と嫌悪感を覚える者に分かれたのだ。


その後は、エヌエーから女性の扱いを教えてもらい、なんとか上手くやっていたが。


やはり自分には女性のことは一生理解できないと、ブレシングは思った。


ブレシングは「はぁ……」とため息をつくと、気持ちを切り替えてミントに訊ねる。


「アンさんや皆はどうしてる?」


「アンさんは仕事で家を出ました。子供たちのほうは、皆で森を探検するといって出掛けましたよ」


「そっか」


平然と答えるブレシングに、ミントが眉間にしわを寄せて訊く。


「そっか、って……。大丈夫なんですか? 子供たちだけで森に入るなんて」


ミントは森に入ろうとした子供たちを止めたようだが。


彼ら彼女らはミントの制止を無視して森へ行ってしまったらしい。


慌てたミントは、すぐにアンの職場へと連絡。


だが、アンは問題ないと返事をすると一方的に通信を切ってしまったようだ。


「大丈夫だよ。ここはあいつらにとって庭みたいなものだからね」


「でも、もし不審者にさらわれたりなんかしたら……」


「さっきのスパークリング見てるのに、ホントにそう思う?」


「……思いませんね」


ミントは子供たちのスパークリングを思い出すと、もし彼ら彼女らを誘拐しようとする者が現れても返り討ちに遭うと思った。


そうやって顔をしかめているミントを見て、ブレシングは笑うのだった。

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