#047

それからも昼食の時間まで授業は続き、食事を終えた午後からは、身体を動かす内容へと変わる。


丸太小屋の前の広場で始まったその授業を見て、ミントは驚愕する。


「アンさん! なにを教えてるんですかッ!?」


「見ての通り、基本的な運動だが?」


声を張り上げたミントに、アンは小首を傾げている。


ミントが驚いた理由は、その授業内容が軍隊のようなものだったからだ。


子供たちはそれぞれペアを組んで、打撃無しのスパークリングを始めていた。


それも男女も体格も関係なく、取っ組み合っては関節技や投げ技を掛け合っている。


それだけならミントもここまで驚かなかったのだが。


子供たちの動きはかなり本格的で、すぐにでも実戦で通用しそうな動きを見せていたのだ。


「格闘家でも育てるつもりですかッ!?」


「そんなにおかしいか? 護身術は大事だぞ。いざというときに自分の身を守れる。私もあの子らと同じくらいのときには習っていたものだが」


アンの返事を聞いてミントは思う。


育った文化が普通と違い過ぎると。


ミントは、アンが幼いの頃に一体どのような暮らしをしていたのかと、その表情を歪めている。


そんな彼女を見てブレシングが肩を揺らしていると、アンが彼に声をかける。


「なあブレシング、久しぶりにやるか? お前も見ているだけではつまらんだろう」


「えッ!? まあ、いいですけど」


アンがスパーリングを申し出ると、ブレシングは顔を引きらせながらもそれを受けた。


二人が広場で向かい合うと、子供たちが手を止めてその側へと集まってくる。


「ねえみんなッ! アン姉ちゃんがブレシング兄ちゃんとやるって!」


「おぉッ! 兄ちゃんがどれだけ強くなったか楽しみだなッ!」


「最後にやったときは、一分も持たなかったもんね」


そう口にしながら、ミントともに向かい合う二人の周りを囲み始める。


どうやら子供らの誰もがアンが勝つと思っているようだ。


それも当然だろう。


戦場から約三年離れているとはいえ、アンはこの世界の英雄である。


いくらブレシングが現役の連合国軍人とはいっても、普通に考えて勝てるはずがない。


それに、ブレシングに戦い方を教えたのはアンである。


当然、彼の動きはすべて把握しているのだ。


これだけの材料が揃っていれば、たとえ以前の二人のスパーリングを見ていなくとも、アンが勝利すると思うだろう。


「ルールは昔と同じでいいな?」


「うん。あッ、でもアンさんが能力を使いたくなったら使っていいよ」


「言うじゃないか、ブレシング。なら使わせてみろ」


向き合う二人が言葉を交わし合うと、その後に同時に身構えた。


ルールは先ほど子供たちがやっていたものと同じだ。


打撃なしの関節、絞め技、投げ技のみ勝負で、先に技を決めた方が勝者となる。


アンがミントのことを見ずに声をかける。


「ミント、始まりの合図を頼む」


「は、はい! では、いきますよ。レディ……ゴーッ!」

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