#010

エヌエーは了解すると、ニコをわきに抱えて人混みをかき分けて飛び出して行く。


ニコはまたかと言わんばかりの表情で、慌てることもなく連れて行かれた。


「おいエヌエーッ!? 一体何があったんだッ!?」


「ムーグツー内に敵が来ちゃったみたいッ! ワタシが対処するからアンはこのまま避難場所へ向かって!」


アンにそう答えたエヌエーは、そのまま人混みの中に消えていった。


彼女の言葉を聞いてアンは思う。


自分も戦うべきか。


いや、今は子供たちを安全な場所へ移動させるほうが先だ。


「アン姉ちゃん……」


子供たちが不安そうにアンのことを見上げて来る。


アンはそんな子供たちを抱いて心配ないと答えた。


大丈夫、大丈夫だと。


今は速やかに避難場所へ向かうことを考えようと。


連合国軍の兵の指示に従って、整列する住民たちの後をついて行った。


――飛行装置ジェットパックで、コロニー内の空を飛ぶ青年がいた。


その手には電磁波放出装置――銃剣タイプのインストガンが持たれている。


青年の名はブレシング·ダルオレンジ。


今から十四年前の紛争でアンに救われた少年が成長した青年だ。


現在は年齢二十代前半、連合軍中尉。


かつての英雄ラスグリーンとマナのダルオレンジ兄妹との親交からか、二人の姓を名乗っている。


メディスンの率いる部隊――ファルコンヘッドのメンバーの一人である。


「帝国が来る……。メディスンさんの話だと、あのノピア·ラッシク将軍だって言っていたけど……」


ブレシングはノピアと面識があった。


それはまだバイオニクス共和国があった頃で、ノピアがアンに協力を頼みに来たときの話だ。


そのときノピアの印象から、まさか連合国軍を襲撃しているという事実が信じられないようだ。


「……今は考えてるときじゃないな。ともかく侵入者を追い出さないと」


ブレシングはそう思うと、背負っていたジェットパックの速度を上げて街のほうへと向かった。


しばらく進むと、目の前に彼と同じくジェットパックで空を飛んでいる人影が三人ほど見えて来る。


深い青色の軍服――。


間違いなくコロニー内に侵入したストリング帝国の兵たちだ。


ブレシングは持っていたインストガンを構え、その三人へ銃口を向ける。


「ここで戦闘するつもりはない! 大人しく退いてくれッ!」


声を張り上げたブレシングに、三人の帝国兵は持っていたインストガンを発砲。


ブレシングはこれをなんとか躱して、その表情を歪める。


「問答無用か……。なら、僕は街を守るだけだ!」


そう叫んだブレシングは、三人を相手に自ら飛び込んでいった。

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