#009

ざわついていた人たちがミントと名乗る少女の声で一瞬で静まり返る。


全員が次に彼女が何を言うのかを待っている状態となった。


《大丈夫、大丈夫です。避難場所さえ移動できれば、たとえ何が起きても問題ありません。ムーグツーはそのように設計されています。だから皆さん、落ち着いて移動してください》


冷静な口調で、まるで赤ん坊に声をかける母親のように話を続けるミントという少女。


そのおかげなのか。


混乱していた住民たちも冷静さを取り戻し、避難誘導をする兵たちの指示を従い始めていた。


アンが何者だと思っていると、そこへエヌエーがニコと共に現れる。


「アン!」


「エヌエー?」


それからアンは、エヌエーから詳しい状況を聞いた。


今このムーグツーはストリング帝国の襲撃を受けており、エヌエーはメディスンに言われてもしものときのためにコロニー内に残るように言われたようだ。


「帝国が来ているのか? 指揮官は誰だ?」


「それは移動しながら話すよ。ともかく今は子供たちと避難して」


アンはエヌエーにコクッと頷くと、先ほどの住民たちを落ち着かせた少女――ミントのことを訊ねた。


訊ねられたエヌエーは、呆れながら答える。


「あなた……彼女を知らないの? ミント·エンチャンテッドっていえば、このお祭りの主催者のパロット·エンチャンテッドの娘さんだよ」


「私はそのそのパロット·エンチャンテッドさえ知らないんだが?」


世間知らずのアンに対して、エヌエーはさらに呆れた。


その傍ではニコは「メェ……」とため息をつくように鳴いている。


「あなたは相変わらずだね……。まあいいけど」


呆れながらもエヌエーは、アンにパロット·エンチャンテッドのことを話し始めた。


パロット·エンチャンテッドは連合国の上層部の一人。


主に宇宙開発事業に力を入れており、連合国が宇宙に上げたスペースコロニーであるムーグワンからムーグスリーも彼が中心になって造られたものである。


その娘であるミントもコロニー開発に関わっているようで、世間一般的に彼女を知らない者はいないようだ。


さらにミントはその若さや清純な美貌から、多くの者たちから慕われているという。


「なるほど。だから皆が彼女の言うことを聞いたわけだ」


「それと、今襲撃してきている敵のことなんだけど――」


エヌエーが口にしたとき、彼女の指に付けたリングタイプの通信機器に連絡がきた。


相手はメディスンだ。


《エヌエーか? コロニー内に敵の侵入を許してしまった。ブレシングを向かわせたから、彼とお前で対応してくれ》

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