第41話 一般教養と悪霊男爵
試合のあった翌日,財御教官が死亡してしまったので,常勤の教官職が浮いてしまった。そこで,宗主は,美羅琉を財御教官の立場に就任させた。この人事異動には,もう誰も文句は言わなかった。
いくら『気』の扱いが初級前期だろうが,強者は常に正しい!なにせ,上級中期の剣術使いを一瞬で殺してしまうのだから!
このことで,美羅琉は,月給金貨50枚,秘書の水香には金貨15枚が支給されることになった。生活の基盤ができた感じだ。もっとも,例の試合で宗主もかなり儲かったので,ちょっとした恩返しだったのかもしれない。
ともかく,宗主にとって,神人の美羅琉や,雲禅天女の水香(禅子)には,いろいろと便宜を図ることで,いざという時に,助け舟を出してもらわねばならない。なんせ,美羅琉は,今だ,未知の強者ではあるし,その美羅琉をして,雲禅天女の奴隷だと豪語している。雲禅天女の強さは,たぶん,雲禅仙人と同じく,仙人・天女の中で最強に位置づけされるだろうと宗主は睨んでいる。ならば,いくら便宜を図っても惜しくはない!
宗主は,美羅琉を会議室に呼んで,具体的な内容を伝えた。
宗主「美羅琉様,では,今週から,財御教官が担当していた授業を受け持ってもらいます。平日の午後は,三峰の内弟子50名に剣術の実技指導をしてもらいます。それと,週に一度,三峰の雑役係に一般教養の授業があります」
美羅琉「結構,真面目に授業するんですね」
宗主「フフフ,伊達に高い授業料を取っていませんよ。それと,不定期で,薬草採取で,門弟たちの護衛もお願いします。場合によっては,野外で数泊することもあります」
美羅琉は,溜息をついた。彼女は,いくら常勤の教官になったとはいえ,こんな厳しいスケジュール,イヤだ。でも,,,水香が子どもを産むまでだ。そしたら,,,ムフフ,,,復讐の時だ!!
美羅琉「まず,剣術の実技指導ですが,わたし,剣術なんて,少しはできますけど,得意じゃないです。剣気の連弾攻撃もできないし,剣意だって,まだ2重がけしかできないし,,,」
美羅琉の言葉に,宗主は違和感を覚えた。何? 剣気の連弾攻撃? 剣意の2重がけ? なんだ? それ?
宗主は,剣技では一流の腕前だ。純剣気だって剣に帯びさせることだってできる。でも,それは,苦節30年,やっと数年前に修得できたものだ。
宗主「美羅琉様,ちょっと,いいですか? 美羅琉様の云う剣気って,純粋の剣気のことですか?」
美羅琉「え? 剣気に,純粋も不純もあるのですか?」
宗主「はい,われわれは,剣に,気法術の気を流すことも剣気と呼んでいます。ですから,気法術に寄らない,純粋に剣の精神修行で得られる黄金の気を,純粋の剣気,略して純剣気と呼ぶことがあります。美羅琉さんは,どちらの剣気あのですか?」
美羅琉「へえーー,剣術をするのに,気法術も併用するのですか。それって,体力の無駄遣いですし,なによりも,注意力が分散してしまいますよ。神界なら,そんなバカなことをすると,すぐに試合に負けてしまいます。財御教官みたくすぐに命を落とすでしょうね。へへへ」
宗主「・・・」
宗主は,まだ,この美羅琉の能力をぜんぜん理解していない。ならば,身をもって理解するに限る。
宗主「美羅琉様,すいませんが,わたしと木刀による試合をしてくれませんか?」
美羅琉「え? わたし,剣術は不得手ですよ。宗主様と試合するんなんて恐れ多いです」
宗主「いや,どうも,わたしどもの常識と,美羅琉様の常識にギャップがあるようです。なにより,この凡界では,純剣気を剣に帯びさせるだけで,超一流の腕前とみなされるのです」
美羅琉「え? はぁ? なんで? 剣気なんか,子どものうちに遊んで覚えるものでしょう。なんで,そうなるんですか??」
宗主「・・・」
宗主は,愕然とした。凡界と神界の常識の違い,,,それを埋め合わせるには,かなりの時間が必要だと思った。
ともなくも,宗主は,美羅琉を会議室の空いているスペースに移動してもらって,気で木刀を形成してもらった。宗主も同じく気で木刀を形成した。
美羅琉は,気で実体化させることなど容易にできる。時間さえかければ,『神武初級後期』,つまり,仙人・天女レベルを超えて,神人レベルに到達させることも可能だ。
宗主は,その気の木刀に純剣気を流した。その木刀は,淡く黄金に光った。
宗主「美羅琉様,どうぞ,木刀に剣気を流してください」
美羅琉「はーい」
美羅琉は,いつも子ども時代に,近くのクソガキと木刀で遊んだように,その木刀に純剣気を流した。その木刀は,まぶしいばかりの黄金色を呈した。
それを見た宗主はびっくり仰天,,,,もう,何も言えなかった。
しばらくして,やっと,驚きの感情を押し殺した。
宗主「すいません,,,あの,その木刀で,わたしの木刀に打ち込んでください。くれぐれもわたしの体に当てないでください」
美羅琉「はーい,では,剣気を放弾させるは止めておきますね」
その意味は,純剣気を剣風刃のように放出させることができるという意味だ。すべてを切る『純剣気』,それを放出できるとは,,,
美羅琉は,軽い気持ちで,黄金に光った木刀で,宗主の木刀に当てた。
シュパーー!
宗主の木刀は,野菜をナイフで切るが如く,なんの抵抗も感じずに,切断されてしまった。切断された気の木刀は,床面に落ちて,粒子状になって消滅した。
宗主の世界観、価値観、人生観,すなわり三観が崩れていくのを感じた。
宗主「美羅琉様,あの,,,もういいです。お席にお戻りください」
美羅琉「はーーい」
美羅琉は席についた。
宗主は,もしかしたら,美羅琉は,雲禅天女である水香(禅子)よりも,ヤバい神人なのかもしれないと思った。
それからは,宗主は,この凡界では,純剣気を会得するのは,天性的にすぐれた人物が,長年を経て,やっと体得できるものであることなどを切々として訴えた。また,雑役係,外弟子,さらに内弟子の剣技の達成レベルは,どの程度を目標にするのかなども説明していった。
その説明に数時間も要した。途中で,美羅琉は,真面目に聞くもの飽きてきて,半分,眠りこけてしまった。
数時間後,,,
宗主「わかりましたね? では,もうお昼です。この辺にしましょう。午後の1時半から,三峰の内弟子の剣術の実技指導をお願いします。あっ,それと,1ヶ月後に,一峰,二峰の内弟子との練習試合があります。それに優勝すると,担当教官には,金一封がもらえますよ。頑張ってくださいね」
美羅琉「え?金一封っていくらですか?」
宗主「金貨10枚です」
美羅琉は内心,「ケチ」とつぶやいた。でも,もらえないよりはもらえたほうがいい。
宗主から内弟子のレベルが,神界から見れば,赤ちゃんのままごとレベルであることを知らされた。ならば,ちょっとだけ,しごけば,すぐに一峰や二峰の連中よりもレベルアップだろうとほくそ笑んだ。問題は,いかにして,美羅琉の手を煩わさずにレベルアップさせるかだ。
ー 水香の屋敷,昼食時 ー
水香が,退屈そうに『気』を使って,小さい氷を形成する練習をしているのを尻目に,美羅琉は,自分が剣術では,この凡界では,超一流の使い手であることを自慢した。
美羅琉「禅子様,禅子様,聞いてください! わたし,自分の剣技って,この凡界では,超一流なんですよ。禅子様の結界っだって,簡単に切り裂けますよ~!」
水香「あら? 上機嫌ね。美羅琉って,そんなに剣技が凄かったの?」
美羅琉「えへへへ,だって,この凡界の剣技って,赤ちゃんのママゴトレベルなんですって。フフフ,ということは,禅子様のレベルも,,,,もしかして,わたしの方が強いかもよ。フフフ」
美羅琉は,久しぶりに自慢ができて嬉しかった。
水香「ふーん,じゃあ,わたしの結界,美羅琉の剣技で切り裂けるの?」
美羅琉は,この言葉を待っていた。
美羅琉「もちろんよ! わたしの全力の剣気,見せてあげるわ。すべを切る剣気よ!」
美羅琉は,右手から『気』を流して,鋭利な剣を構築して,そこに純剣気を流した。その剣は,全身,光り輝く黄金の純剣気で覆われた。
水香は,その純剣気をチラリと診た。
水香「そんな黄金の光り,どこが凄いのよ」
美羅琉「禅子様,そんなこと云うんだったら,結界を構築してねよ。わたし,一刀両断してあげるわ。フフフ」
水香「暇なこと,するわね。いいわ。じゃあ,結界,作ってあげる」
水香は,右手で『気』の扱いをしながら,左手で霊力を展開して,自分の傍らに鋼鉄製のプレートを構築した。ただし,ちょっとだけ内部に細工をした。
水香「できたわよ。後は好きにして」
美羅琉「へへへ,禅子様,わたしの剣技をしっかりと見てくだいね」
美羅琉は,すべてを切る純剣気を覆った『気』の剣を,その鋼鉄製のプレートに向かって,,,一刀両断した,いや,そのつもりだった。
パリン!
純剣気を覆った美羅琉の剣は,鋼鉄製のプレートを僅か,5mmほど切断したところで,美羅琉の剣が切断された。そのプレートの切断面を,もし,詳しく診ることができれば,黄金色に光ったものに覆われているのを識別できただろう。
そうなのだ。水香は,チラリと美羅琉の純剣気を診て,それを,イメージして,鋼鉄のプレートの表面を,コピーした美羅琉の純剣気で覆わせ,さらに,その表面に鋼鉄の薄いプレートで覆ったのだ。
美羅琉は,コピーされた自分の純剣気によって,剣が切断されてしまった。
美羅琉は,両膝を床面につけて愕然とした。
美羅琉「え? どうして? わたし,,,自分の剣気,この凡界では最強だって宗主に言われたのに,,,うそだったの??」
水香「ふん,わたしの,低レベルの結界さえも切れないなんて,しょうもない剣技ね。よくそれで,剣技の教官が務まるものだわ。ちょっと頭を冷やしたら? そんな弱っちい美羅琉なんて,もう用なしよ! 出ていってちょうだい」
美羅琉は,両目から,涙が込み上げてきた。美羅琉は,水香の両足を抱いて泣き叫んだ。
美羅琉「禅子様~ー! 見捨てないでください~! ワーーン! ワーーン!」
女中のシイラが,食事を運んできた。水香は食事を取らないので,シイラと美羅琉の二人分だ。
シイラ「美羅琉様,もう泣かないで,一緒に食事しましょう。キーマカレーを準備しましたから,美味しいと思いますよ」
美羅琉は,昨日,キーマカレーを初めて食べて,すっかりその料理の虜になってしまった。
美羅琉「そうね,『悲しみは美食によってあがなわれる』,けだし名言ね」
美羅琉は,勝手に名言を創って自分を納得させた。
美羅琉「禅子様,以前にも言ったように,わたしは禅子様の奴隷ですよ! 勝手に解雇や養育放棄はできないんですよ!一生,面倒見る必要があるんですよ!」
それだけ言って,美羅琉は水香の反論を待たず,シイラと雑談をしながら食事を始めた。美羅琉は,すっかり幸福感に満ちあふれて,さきほど泣きわめいていたことなどすっかりどこかに置き忘れたようだ。
もっとも,美羅琉は,しっかりと稼ぎ頭になっているので,そんな言葉,ちょっとピンボケではあるのだが,,,
もっとも,水香はそんなことどうでもよく,右手の手の平で構築した氷の結晶を,どれだけ小さくできるか,遊び感覚で操っていた。
・・・ ・・・
林弦宗は,新入生が入宗すると,他の武林宗と同じようにクラス分けされる。一峰,二峰,三峰に分かれる。それぞれのクラスが争うことで,全体的にレベルアップを図る。
美羅琉は三峰を担当する教官となり,平日の午後から,内弟子50名に対して,剣術の実技を担当することになった。その他にも,一般教養や野外採取の護衛などの仕事もある。
美羅琉は,食事が終わって,三峰の内弟子が待つ剣術練習場に来る頃には,先ほど,水香が構築した結界を切ることができなかったことへの,悔しさ,悲しさ,自分への怒りなどの感情がグルグルとわき上がってきた。
美羅琉は,少々遅れて三峰の中広場に来た。そこは剣術の実技をする場所だ。
内弟子の生徒たちは,15歳から22歳くらいまでの男女であり,少なくとも13歳の美羅琉よりも歳上だ。
彼らは,腕の部分と胴の部分に防具をつけて,手に木刀を持っている。それが剣術の実技の授業の正装だ。
先日の死闘の試合は,ほとんどの者が見ていたのだが,でも,まったく何が起きたのか分からず,ましてや美羅琉の強さなど理解できるはずもない。
「教官,遅れて来ては困るじゃないですか?」
「ほんと,ドチビが新しい剣術の教官だなんて,世も末ね」
「授業料,返してほしいなぁ~」
「これなら,自分で練習したほうがよっぽどいいなぁ~」
などなど,美羅琉に聞こえるかのように口に出して不満の声をあげた。
美羅琉は,生徒たちの文句にカチンと来た。
美羅琉「わたし,今,最高レベルで,気分が落ち込んでいるのよ。わかる? あんたたち! この気持ち!!」
美羅琉は,癇癪の矛先を生徒たちに向けた。
「わかんねぇーよ」
「気分が落ち込んでるなら,裸踊りでもして,気分を盛り上げたら?」
「そうだそうだ! 服でも脱げ脱げ!」
生徒たちは,売り言葉に買い言葉,また,美羅琉を罵倒するような言葉を吐いた。
美羅琉「では,今日は,最初の授業です。各自,全員がわたしを殺すつもりでかかってきなさい。わたしもおまえたちの防具の場所に叩き込みます。今から,10秒後に始めます!」
生徒たちは,ともかく美羅琉をたたきのめせばいいと理解した。
「へへへ,そりゃいいや。野郎ども,準備はいいか?」
班長が叫んだ。
それに答えるかのように,生徒たちは,美羅琉の周囲を4重くらに囲んだ。最初は5名で殴り込み,2重目は10名,3重目は15名,4重目は20名だ。
その配置もすでに決まっている。一頭の妖獣を倒すときの配置だ。
美羅琉「10,9,,,,5,4,3,2,いちー!」
美羅琉の姿が消えるかのように動いた。
「え? 消えた?」
「どこにいるの?」
「なに? え?」
「ああーー!」
それからは,もう生徒の声は聞こえなかった。
パヒューン! バキー!ー,ボキー!ーー
「ギャーー!」
「イテーー!」
「グァーーー!」
などなど,生徒達50名全員の悲鳴が聞こえた。
美羅琉が,『気』で構築した木刀は,通常の木刀よりも遥かに硬く,生徒たちの左側の腕部分だけを狙い撃ちしていった。その部分を保護していた鋼鉄製の防具が簡単に曲げられて,生徒たち50名の左腕の骨をことごとく折っていった。
全員50名をたたきのめす時間は,わずか4秒!
美羅琉は,やっと鬱憤が晴れた気がした。
美羅琉「お前達,ほんと弱いわね。ここまで弱いとは思ってもみなかったわ。でくの坊の集団ね。骨折しているから,『気』の治癒師にお願いしてすぐに治療しなさい。1週間程度で回復するでしょう。
その間,なぜお前達が負けたのか,よく反省しなさい。どのような訓練方法をすれば,わたしに勝てるのか,この1週間を使って考えなさい。
剣術の実技は,全員の腕が回復するまでお休みします。各自,自習のこと。じゃあね~」
美羅琉は,『気』の木刀を消去させて,さっさと帰っていった。
残された生徒たちは,腕をへし折られた痛さも忘れて,美羅琉のあまりの強さに呆然とした。なんであの強さが,気法術で初級前期なんだ? まぁ,確かに剣術と『気』法術は直接的には関係ないのだが,,,
やっと,班長が我に返った。
班長「おまえたちは,ここで待機していなさい。俺は,医務室に行って治癒師を連れてくる」
班長は左腕を庇いながら医務室に急いだ。
その後,治療師を兼務している教官が,治療術の得な教官を誘って,『気』の治療が始まった。腕の骨折はだいたい2ヵ月ほどで完治するのだが,『気』の治療を行うことで1週間程度に短縮させることができる。
治療師を兼務している泰賀教官は,班長に状況を聞いた。
泰賀教官「これ,保護具の上からやられたのか?」
班長「はい,そうです。美羅琉教官は,『気』の木刀を構築していました」
泰賀教官「え? それはいいが,まだ,授業が始まって間がないだろう。どうして全員,こんな状況になるんだ?」
班長「実は,ちょっと,美羅琉教官の強さをまったく理解してなくて,彼女をやじってしまいまして,怒らせたんだと思います。われわれ全員に,殺す気でかかってこいって言われました。そこで,妖獣を全員で仕留める多重円陣の構えを構築して,彼女に挑みました。
ですが,,,ものの5秒とかからず,全員がこの有様です。美羅琉教官の移動速度に,まったく眼も体も追いつけませんでした。
あの速度,S級でも絶対に無理です。天女クラス,いや,天女レベルを超えるのかもしれません」
泰賀教官「なるほどな。先日の財御教官が殺されたの,見ただろう? 美羅琉教官は人を簡単に殺せる人だ。しかも,その強さ,間違いなく天女クラス!
13歳で天女クラスって,常識的にこの世界には存在しない。つまり,彼女は仙界で生まれ育ったと考えれば話が通じる。まあ,あれだ。今後は,決して美羅琉教官をやじらないことだな。殺されては元も子もないぞ」
班長「・・・,なるほど,,,そうでしたか,,,そう考えればいいのですね。ありがとうございます」
泰賀教官「天女に教えを乞えるなんて,考えようによっては,絶対にあり得ない機会だ。大事にすることだ」
班長「はい,美羅琉様のいいつけ,しっかり守りたいと思います!」
・・・
内弟子といっても,全員が剣術で身を立てるわけではない。剣術の実技時間は1時間半ほどだが,その後は,各自,専門の部門に分かれる。剣術,武術,煉丹術,符篆術,錬金術,陣法・陣盤術などだ。
その中で,男性にもっとも人気があるのは武術だ。武術を修練するのことは,気法術のレベルを上げることと同義だ。そのレベルが上がると,さまざまな護衛職に就くことができるし,男性なら良家のお嬢様と縁談話に困ることはない。
女性に人気があるのは,もちろん煉丹術だ。膨大な暗記が必要となるが,女性徒の8割以上がこの煉丹術を専攻する。
符篆術,煉丹術,陣法・陣盤術は,ほとんど人気がない。符篆術は才能で決まり,煉丹術は体力勝負で,高熱で晒されてしまい危険な仕事だ。陣法・陣盤術は古典的な分野であり就職するのは無理だ。
剣術は,じつのところ微妙な位置づけだ。剣術を専攻のはいいのだが,お城の護衛職などは,気法術の『気』のレベルで採用が決まってしまう。剣術がいくらうまくても考慮されない。それに,剣術は,お城の護衛職に採用されたら,毎日,練習するものだし,わざわざ,今,レベル上げをする必要性もない。
剣術を専攻することは,実践的に強くなることを意味する。つまり,殺し屋への道だ。盗賊・夜盗などの部員には大歓迎される。
そんな理由から,50名の生徒の中で,剣術を専攻するのは1名だけだ。それも班長だった。班長の名前は大護(だいご),16歳,気法術では中級中期の腕前だ。
なぜ,班長になったかといえば,喧嘩で一番強いからだ。つまり,剣技が一番うまい。剣技が上手いと,中級後期だろが,上級前期だろうが敵ではない。班長は,実践で強さを求めたいので剣術を専攻した。
だが,三峰の内弟子で剣術を教えるは,殺された財御教官であり,今は,美羅琉教官だ。
午後3時からは,各自の専攻の時間となる。
すでに左腕の応急措置が終わった班長の大護は,自分が剣術を専攻していることを美羅琉教官に伝えなければならない。
大護は,已むなく美羅琉教官がいるであろう教官邸に出向いた。
ー 水香の教官邸 ー
コンコン!
大護は,ドアノッカーを叩いた。すると,「はい,はーい」という可愛い声がして,ドアが開いた。そこには,退宗になったシイラがいた。あまりに美人で巨乳なので,女性門弟からいじめの対象になって退宗してしまった。
大護「あれ? シイラさん? 退宗したって聞いていたのですが,こんなところにいたのですか?」
シイラ「あの,,,どちら様でしょうか?」
大護「あっ,すいません。シイラさんは,『ミス林弦宗』でしたから,すごく有名なんですよ。わたし,三峰の内弟子で,大護っていいます」
シイラ「昔のことです。えーと,誰に用事なのですか?」
大護「はい,美羅琉教官です。彼女は,剣術専攻者の指導を担当しているので,その連絡に来ました。あの,ちなみに,わたしが,その剣術専攻者なんです」
シイラ「その旨,伝えますので,少々お待ちください」
シイラは,ドアを閉めて,その内容を美羅琉に伝えた。
美羅琉「えー? 剣術の専攻者って,いないって聞いたのに,,,まあいいわ。居間に通してちょうだい」
大護は,居間に通された。そこには,ソファで横になってだらけている水香がいた。シイラは,甲斐甲斐しく,ときどき水香の肩を揉んだし,脚をマッサージしたりしていた。
水香がソファを占有していたので,シイラに丸椅子を持ってきてもらって,大護に座らせた。誰も,水香に命令するものがいないので,この教官邸では,この横に寝そべってだらだらしている少女が一番偉いとわかった。
美羅琉は,シイラが焼いたパンケーキを美味しく食べていた。
美羅琉「どう? 腕の怪我は大丈夫なの?」
大護「はい,治癒師に,応急措置をしてもらいました。全治1週間もかからないと言われました。今はもう痛みはありません。ただ,臨時ギブスが少々邪魔なくらいです」
臨時ギブスとは,つまり,木製の板のことだ。患者が多すぎるので,木製の板2枚で腕を固定しているだけのことだ。
美羅琉「よかったわね。優秀な治癒師がいて。それで? 何しに来たの?」
大護「わたし,剣術を専攻しています。内弟子ではわたし,ひとりだけです。美羅琉教官,午後3時から6時までは,専攻の授業時間です。わたしに指導をお願いします」
美羅琉「あなた,ひとり? どうして剣術を専攻したの?武術を専攻しなさいよ。わたし,暇じゃないし」
美羅琉は指導放棄した。
大護「あの,指導を放棄するのは,特別な理由がないとダメなんですよ」
美羅琉「あるじゃない。あなた,腕がまだ治っていないわ。それまでは,専門の授業はしません」
大護はおべっか作戦に出た。
大護「わたし,治療されているとき,治癒師の方から,美羅琉様は,この大陸で一番の剣術使いだと聞かされました。つまり,美羅琉様は,この大陸で最高の超美人剣士なんです。わたし,その超美人剣士の弟子になれて光栄です」
美羅琉「別に,あんたを弟子にしたわけじゃないわ」
大護「弟子は別にして,美羅琉様,この腕が治るまでは,どのような訓練をすればいいか,ご指導ください」
シイラは,歯に浮くような言葉にクスクスと笑った。水香は,まったく我関せずの姿勢だ。
美羅琉は,剣術など得意ではない。子どもころに木刀を振って遊んだくらいだ。
美羅琉「では,この1週間,徹底敵に,右腕だけで重たい剣を持って,何度も振れるように自主訓練しなさい。この1週間で,毎日,1万回振りなさい。それができたら,次のステップにいきます」
大護「え? 1日1万回?」
美羅琉「そうよ。そんなの,子どもで出来るレベルよ」
大護は,美羅琉は天女だと思い込んでいる。天女の言葉は絶対だ。彼女の言葉を信じることにした。
大護「・・・,わかりました。剣は重たいので,最初は,木刀でします。それで1日1万回が出来るようになったら,剣に換えます。それでいいですか?」
美羅琉「細かなアレンジは自由にしていいわよ。じゃあ,頑張ってね~」
大護「はい,では失礼します」
このとき,暇で暇で退屈していた水香が,口を開いた。
水香「ちょっと待ちなさい」
水香は,そういって,だるそうに,横になっている体を起こした。
大護は水香を見た。なんか,ちょっと不吉な感覚がした。でも,それは一瞬だったので,すぐに忘れた。
水香「大護,あなた,強くなりたいの?」
その言葉に大護は眼を輝かせた。
大護「はい! 強くなりたいです」
水香の言葉に反応したのは大護だけではなかった。美羅琉もだった。
美羅琉「禅子様,わたしも強くなりたいです!」
この状況に,シイラはダメ元で口を開いた。
シイラ「禅子様,わたしも,わたしも強くなりたいです!」
水香は,溜息をついた。
水香「美羅琉は,わたしの奴隷だから,強くしてあげましょう。シイラ,あなた,わたしの奴隷になりますか?」
その言葉に,シイラはまったく躊躇わなかった。だって,奴隷の意味をよく理解しているからだ。美羅琉の言葉を借りれば,『水香に扶養の義務が生じる』,つまり『水香の子どもになる』みたいな位置づけだ。
シイラ「はい,禅子様の奴隷になります!ここに,天地神明に誓ってお約束いたします!」
シイラは,五体投地を行った。
水香「わかったわ。では,シイラも強くしてあげましょう。さて,大護,あなたはどうなの? もし,強く成りたければ,わたしの奴隷になりなさい」
水香は,大護に向かって改めて聞いた。
大護は,いったい,何が起こっているのか,ちょっと理解できなかった。だが,天女である美羅琉教官が,禅子と呼ばれた少女の奴隷? それって,禅子って少女は神様なのか? 絶対にそうに違いない。シイラだって,いっさい躊躇わずに,奴隷になると宣誓したではないか。このチャンスを逃せば,一生後悔するかもしれない。
大護は,跪いているシイラの隣に座って,先ほど,シイラが行った五体投地をしながら水香に返事した。
大護「神様の禅子様ですね? わたし,大護は,ここに宣言します。今から,わたしは,禅子様の奴隷になります。天地神明に誓って,禅子様のいいつけを一生守ります」
大護は,しっかりと頭を床につけて,その体勢で水香の言葉を待った。
水香「わかりました。では,大護は,これから美羅琉のいいつけをしっかりと守りなさい。また,わたしに関することは,一切,他人には明かさないでください」
大護「はい,天地神明に誓って,禅子様のことは,誰にもいいません」
水香「よろしい。頭をあげていいわよ。シイラ,使い捨ての容器ってあるかしら?」
シイラ「はい,あります。少々,お待ちください」
シイラは,使い捨ての容器を持ってきて水香に渡した。
水香「大護,今から眼を閉じなさい。数分程度でいいわよ」
大護「はい,閉じます」
水香は,大護が眼を閉じたのをみて,ベージュの着物をはだけて,母乳が張った乳房に容器を当てて母乳を絞り出した。50ml ほど集めるのに,1分もかからなかった。その作業を終えて,また着物を元に戻した。
水香「もう眼を開けていいわよ」
大護は眼を開けた。何か,イヤな雰囲気と共に,豊潤な『気』が溢れているのがわかった。それは,眼の前にある白い液体から湧き出ていた。大護は,それが水香の母乳だとわかった。
水香「ここに,聚気丹に相当する『奇跡の乳液』があります。一度に飲むと体が持ちません。下手すれば死亡するでしょう。この液を3日に分けて,少しずつ飲みなさい。『気』のレベルの上昇,さらに,肉体強化も可能になります。もちろん,美羅琉のいいつけを守って修練しなさい」
大護「え? 聚気丹に相当するもの? それって,少なくとも金貨200枚以上もしますよ?!」
水香「そうです。それと,あらかじめ云っておきます。大護,自分の意思,自我をしっかりと持ちなさい。そうしないと,悪霊どもに,その肉体を奪われますよ」
大護「え? ええーー? それって,どういう意味ですか?」
水香「その通りの意味です。その奇跡の白液,そこには,豊潤な『気』のパワーがあります。ですが,同時に,悪霊どもの住処になっています」
ガーーン!
それって,その液を飲むことは,悪霊を取り込むことではないのか?!
水香「大護,あまり心配しなくてもいいですよ。しっかりと自我を持って,日々,真面目に過ごしていれば,悪霊どもは,あなたの体から逃げていきますよ」
たぶん,大護は悪霊どもに支配される可能性もかなりあると思ったのだが,水香も適当なことを言って誤魔化した。
大護「あの,,,この『奇跡の乳液』って,禅子様の母乳ではないですか? そうなら,禅子様は,悪霊の影響は受けないのですが?」
水香「わたし? わたしのそばにいると,魂力さえも奪われてしまうから,なんのパワーもなくなってしまうのよ。でも,わたしから離れてしまうと,徐々にパワーを回復していくと思うわ。それがどう影響するのか,わたしも分からないの」
大護「あの,,,魂力ってなんなのかわからないのですけど,でも,その悪霊,なんとかならないのでしょうか?」
水香「そうねぇ,,,この『奇跡の乳液』から聚気丹を煉丹できれれば,高熱の影響でどこかに逃げてしまうと思うけど,煉丹師がいないし,造り方も検討しないといけないし,,,」
大護としても,今さら後に引けない。その『奇跡の乳液』を飲むことにした
大護「わかりました。では,三日間に分けて飲むようにします」
水香「フフフ,大護なら大丈夫よ。頑張ってね」
大護「はい! 期待に応えます」
大護は『奇跡の乳液』を大事に持って去っていった。
シイラは,水香の母乳から少しはイヤな雰囲気を感じるが,美羅琉はまったく感じなかった。
美羅琉「禅子様,わたしにも『奇跡の乳液』飲ませてください」
シイラ「わたしもお願いします!」
水香「はいはい,おっぱいが張ってしょうがいなら,ちょうどいいわ」
水香は,豊潤な『気』が含まれた母乳50ml を絞り出して,美羅琉とシイラに渡した。
水香「美羅琉は一気に飲んでいいけど,シイラは3日に分けて飲むようにね」
シイラ「はい!頑張ります」
水香は,シイラをマジマジとみた。ほんとうに美人でGカップでセクシーな体をしていた。悪霊にとっても,エロすぎる体つきをしていた。
水香「シイラは,間違いなく悪霊どもに徹底敵に攻撃されると思うわ。気をつけてね」
シイラ「気をつけるってどうすればいいのですか?」
水香「そうね,,,その時になったら,わたしのところに来なさい」
シイラ「はい!そうします! 神様!」
シイラも水香を神様と呼んだ。だって,いっさい食事や水さえも取り込まないのだもの,神様というほかはない。
だが,,,水香は,『餌』を取る必要はないのだけど,でも,食欲はある。そこで,シイラにちょっと打診してみた。
水香「シイラ,あなた,いじめれていたのでしょう? いじめた連中に仕返しをしたいって思わないの?」
シイラは,最初は,ほっぺや乳房をぶたれたりしたが,ダンダンとエスカレートしていって,針で乳房やお尻を突き刺すようになっていき,このままエスカレートしていくと,最悪の状況になるかもしれなかった。
幸か不幸か,そんな時に,退宗してここで働くことができた。
シイラ「・・・,はい,,,思います」
水香「そう? だったら,早く強くなって仕返しをすることね。わたしが加勢してあげるわ」
その言葉に,美羅琉も便乗した。
美羅琉「わたしもーー! わたしも加勢してあげるね~」
美羅琉は脳天気だった。
・・・ ・・・
その日に夜,,,
シイラは悪夢にうなされていた。それは,男どもにリンチされて,今にも犯されそうになるものだった。まさに犯されようというとき,ハッと眼が覚めて,さっきのは悪夢だったのだと安堵した。
シイラ「なんか,現実で起きたかのような夢だったわ。なんか,このまま寝てしまうと,とんでもない状況になってしまいそう」
シイラは,意を決して,水香の部屋のドアを叩いた。「入っていいわよ」と許可をもらったので,部屋の中に入った。
シイラは悪夢の内容を水香に伝えた。
水香「あらら? 悪霊ども,意外と早く魂力を回復したわね。それって,シイラに潜在的なパワーがあるってことよ」
シイラ「あの,,,よくわからないのですけど」
水香「まあ,いいわ。今日は,わたしの隣で寝てちょうだい。悪霊どものパワーを奪ってあげるから」
シイラ「はい! お願いします!」
シイラは,水香の隣で寝ることができた。
水香は,シイラの体全体に霊力の層で覆って,悪霊の存在を感知して,悪霊から魂力を奪っていった。
水香は,久しぶりにパワーを吸収できて,ちょっとだけ食欲が満たされた。
水香『わたしって,ほんとうに化け物になったみたい。もう,普通の食事はなんて,なんの魅力も感じないわ。男どもの精力,寿命エネルギー,さらに『気』,そして,今は,魂力!』
この日をきっかけに,シイラは水香と一緒に寝る習慣がついてしまった。
・・・
一方,大護も男子寮の部屋で悪夢を見ていた。その悪夢は,美人の婦女子の女子寮を襲う計画を立てて,それを実行していくものだ。
もし,意思の弱い者だったら,夢遊病状態になって女子寮を襲っていただろう。だが,そんな悪夢は,大護にとっては,普段からいつも見ているものなので,別に悪夢には該当しなかった。
そんな悪夢よりも,大護は,真面目に『奇跡の乳液』を三日間できちんと分けて飲んだ。簡易冷蔵庫があるのでそこで保管できた。
簡易冷蔵庫の構造は,上部に凍りを入れる場所がある。『気』のパワーで水を氷にする。毎日,その作業はしなければならない。もっとも,金持ちは,使い古しの気含石を使う。
4日後,美羅琉,シイラ,大護は,再び,水香から母乳を分けてもらい,それを摂取した。
そして,最初に母乳を飲み始めてから1週間後,,,
美羅琉は上級前期からS級前期にレベルアップできた。それよりも大きな変化があった。美羅琉は,『気』の発動時間が100分の1に制限されている。だが,その状態でも,0.1秒後には『気』による防御結界を構築できるようになった。これで,美羅琉は,やっと実用的に防御結界を構築できるようになったといえよう。
シイラは,初級中期から中級後期にまでレベルアップした。もともと,母乳を飲まなくても初級後期にレベルアップする状態だったので,一気に四段階にまでレベルアップした。
大護は,中級中期から上級中期にレベルアップした。このレベルは,軍隊では大将レベルであり,林弦宗にあっては,宗主の直弟子になって,次期宗主の座を狙えるほどのレベルだ。
・・・ ・・・
ー 水香の教官邸 ー
大護は,早朝,朝一番に,水香や美羅琉に,林弦宗で起きた出来事を報告している。ついでに,シイラの作る朝食を食べるようになってから,それが常体化した。つまり,美羅琉,シイラ,大護の3名が一緒に食事する。
水香は,卓袱台の近くのソファで寝そべって,最近は,自分の乳房に巣くった悪霊どもと雑談できるようにまでなった。しかも,水香は,魂力を奪ったり与えたりできるので,悪霊どもの生殺与奪の権利さえも持つようになってしまった。
今では,水香は,悪霊どもの最高の地位,『悪霊女王』と自分を名乗っていて,その配下の悪霊には,魂力レベルの高い順番に,悪霊公爵,悪霊侯爵,悪霊伯爵,悪霊子爵,悪霊男爵,上級武士,中級武士,下級武士,上級平民,中級平民,下級平民,上級奴隷,中級奴隷,下級奴隷,上級性奴隷,中級性奴隷,下級性奴隷などと階級化して,水香の乳房などに巣くう悪霊どもに,秩序を持たせていた。
ちなみに,爵位を持つ悪霊は,生前,『気』の修行では,S級レベルに到達した者たちだった。例を挙げると,ヒカルの放った呪符によって死亡した菊峰城の護衛だった者たちの霊魂などだ。
彼らの恨み,死して悪霊となっても,なんとしても,晴らしたいので,呪符の『気』の波動に沿って,人物を特定していき,ヒカルを見つけた。だが,ヒカルは男だ。男の体の中になど入りたくもない。ヒカルの頭の中を覗くと,水香のことで頭がいっぱいになっていた。そこで,他の悪霊仲間のツテを頼って,なんとか水香を発見して,その体の中に住み着いたという経緯がある。
そのため,水香の乳房の中には,生前,S級レベルの最強戦士であって,爵位を悪霊女王である水香から与えられた悪霊が5体も集まってしまった。
話をもとに戻す。
大護「神様,『奇跡の乳液』のおかげで,上級中期にレベルアップできました。ありがとうございます!」
水香「よかったわね。でも,その強さは,まだまだ不十分よ。最低でも,仙人レベルになりなさい。それでも,わたしを守れないかもしれないわ。わたしの敵,超強いから」
大護は,今,変なことを聞いた。え? 「仙人レベル?」,「神様を守る?」,「敵,超強い??」
水香「今は,気にしなくていいわ。とにかく,大護も自分の実力は隠すようにしなさい」
大護「はい! そうします」
大護は,今度は美羅琉に報告した。
大護「美羅琉教官,右腕で剣を持って,30分ほどで1万回を達成することができました。左腕がやっと回復しましたので,明日からは,左腕で1万回を練習します」
美羅琉「・・・」
美羅琉は,冗談半分で云ったのだが,まさか,本当に達成してしまうとは,,,
美羅琉「あっ,そう,そうね。では,もうそろそろ,剣気の修行を初めていいかもね。良く見なさい」
美羅琉は,『気』の剣を展開して,そこに,純剣気を流した。
美羅琉「この剣気は,気法術の気ではなく,剣を何度も振るうことで自然と放出されるものよ。それこそが,真の剣気,この凡界では,純剣気と呼ばれるものよ」
大護「あっ,それ,ボク,そこまで光りませんけど,少し流せるようになりました」
大護も,ゆっくりとだが,右手から,『気』の剣を構築していった。そこに,純剣気を流した。黄金色で淡く光った。間違いなく純剣気だった。
美羅琉は,さすがにビックリした。わずか1週間で純剣気まで達成してしまうとは,,,
美羅琉「・・・,(溜息をついて),では,さらに次のステップに行きましょう。左手で1万回を振るのは当然だけど,それを10分で達成しなさい。加速技がもう使えるのでしょう? だったら,加速状態をうまく利用するのです。それができたら,左右両方の剣で,1万回行いなさい。重たい剣ではなく,『気』の剣を使えば達成しやすいでしょう」
大護「美羅琉教官,わかりました。ところで,内弟子たちは,全員骨折が回復しました。今日は金曜日ですから,休み明けの月曜日から,また,剣術の実技指導をお願います」
その言葉を聞いて,美羅琉は苦い顔をした。のんびりとした生活がまたできなくなる。しかも,今日の午前中は,雑役係に一般教養を教えなくてはならない。
美羅琉「わかったわ。じゃあ,生徒たちにしっかりと防具をついて待機するように伝えなさい」
大護「はい,了解です」
大護は,ニコニコしながら去っていった。
・・・ ・・・
そんな頃,水香は悪霊たちとある念話をしていた。
悪霊男爵『禅子様,ほかの悪霊たちも,魂力がほしいとの訴えがどんどん来ています。なんとかならないのでしょうか?』
水香『わたし,魂力は,最近になって奪えるようになったから,まだ,ぜんぜんないのよ。なんか,いいアイデア,提案してちょうだい』
悪霊男爵『相手が,悪霊を受け入れてくれるのなら,レベルの低い魂力の悪霊でも,なんとかなるのですが,,,』
水香『つまり,相手が受け入れてくれればいいの?』
悪霊男爵『はい,ですが,悪霊をどうやって受け入れさせたらいいのか,,,ひとりひとり説得するのでは時間がかかりすぎますし,,,』
水香『つまり,講演会的な感じで説得する機会があればいいのね?』
悪霊男爵『はい,もし,そんな機会があるのなら,わたしも,全力で協力させていただきます』
水香『そんな機会,あるのかしら?』
そんな念話をしていたときに,美羅琉は,ソファで退屈そうに見える水香に,ちょっとだけ文句を言った。
美羅琉「禅子様,あの,,,そんなに暇なら,わたしの代わりに一般教養の授業でもしてくださいよ」
水香「え? 一般教養って,何教えるの?」
美羅琉「宗主からは,何も云われていないし,禅子様が教えるなら,誰も文句いわないわ」
この言葉に,水香はニヤッと微笑んだ。渡りに船だ。
水香「いいわよ。その教室に連れていってちょうだい」
美羅琉「え? ほんとにいいの?」
水香「今日だけよ」
美羅琉「わーーい,ヤッター!!」
美羅琉は,これで,午前中,楽できると思った。
ーーー
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