第28話 前哨戦
菊峰城から使節団が来る日の2日前,,,
梅山城の城主邸の書斎で,小芳は,これ以上,使節団のことなど考えたくもないので,神人の美蘭にもどって,神界に戻る手順を考えていた。
小芳「幸いにも,妖狐,小芳のパワーを受け継いで,大妖怪・水香に遇って,なんとか,天女レベルになったわ。でも,このままではダメね。あの水香を連れて,なんとか仙界に潜り込んで,神界へのルートを探らないとね。そのためには,城主の座を誰かに譲らないといけないけど,,,誰がいいなかな,,,凛は結婚を控えているし,,,憫佳はヒカルの子を妊娠しているし,,,だったら,いっそ,ヒカルを城主にすればいいのかな? それにヒカルは水香さんの思い人,きっと何かの縁だわ。
あれだけの呪符を短時間で作成したからには,すでに仙人レベルになっているはずだわ。うん,そうしましょう」
小芳がそんなことを考えている時,凛が血相をかかえて書斎に入ってきた。
凛「小芳,大変です! 使節団の尖兵隊が来て,あと1時間後に,使節団が来るようです!」
小芳「あらら,こちらに準備をさせない気なのね?」
凛「そう思います。接待がなっていないと文句をつける気でしょう」
小芳「まあいいわ。とにかく,最終的には『力』の勝負よ。こうなったら,不備な点は,そのままにしていいわ。慌てることないわ。ノンビリ構えましょう」
凛「わかりました。相手の出方を見ましょう」
小芳「城下町の大門では,凛と憫佳の2人で出迎えなさい。美人2人が出迎えれば,少しは好印象を与えるでしょう」
凛「そうだといいのですけど」
・・・ ・・・
1時間後,,,
ー 梅山城下町の大門 ー
菊峰城からの使節団一行が到着した。彼らは馬車を使わず,徒歩で移動してきたようだ。今回の移動距離が150km程度と,さほど遠くないこと,道が凸凹であり,馬車に不向きであることなどの理由のようだ。
使節団の総数はわずか20名。決して少なくはないが,過去の例からすれば,かなり少ない。
彼らの服装は,とても使節団という礼をわきまえたものではなく,まったくの普段着の服装だ。ただし,下着にクサビかたびらを着ているようだ。直射日光を避けるために,日焼け防止の布がついたキャップ付きの防止を被っていて,リュックを背負っていいた。剣など重たい武器は持っていない。
ただ,奇妙なことに,一見して,全員,目つきが悪く,柄が悪い。このことからも,梅山城は舐められているとしか思えない。
梅山城からは,凛,憫佳,後宮護衛隊の隊員10名が,梅山城下町の大門で出迎えた。
使節団の護衛隊長らしき人物が,数歩前に出て,凛と憫佳に軽く会釈をした。
使節団隊長「われわれは,菊峰城からの使節団である。梅山城・城主のところに案内しろ,といいたいところだが,腹が減った。予定よりも早い到着なので,そちら側も準備はできないと思う。確か,この梅山城では,『解憂料亭』が有名らしいな。そこを,われわれのために貸し切りにしてほしい」
急にそんなことを言われても,対応できるはずもない。
凛「急にそんなこと言われても,あこは連日満席で,予約が何ヶ月前から埋まっているところです。他の料理屋でいかがですか?」
使節団隊長「なんだと?われわれ使節団に反抗する気か?」
凛「いえ,そんなつもりはありません。ですが,無理なものは無理なんです。ここは,別の料理屋でお願いします」
使節団隊長「そうか,,,まあ,しょうがない。妥協してやる。ただし,妥協するのは今回だけだ」
凛は,後宮護衛隊員に命じて,いくつかの料理店に廻って,候補を探すように命じた。
凛は,使節団隊長に向かって言った。
凛「急なお越しですが,迎賓館は準備できております。まずは,そちらに移動して,体を休めてはいかがですか?ご案内します」
使節団隊長「はあ? 迎賓館? アホか! そんなところ泊まれるか! まあいい。われわれが泊まりたい場所を指定するので,お前達はアレンジするだけでよい。では,いくぞ!」
使節団団長は,使節団一行を従えて,勝手にどんどんと歩いていった。
凛と憫佳は,ポカンとした。とても使節団のとるような態度ではない。それに,必ず,菊峰城・城主の親戚が一名同行するはずなのだが,それもいないようだ。
凛「憫佳,後宮護衛隊員を連れて,彼らの後を追いなさい。できるだけトラブルを避けなさい。ただし,最優先は一般市民を守ること。わたしは後から追いかけます」
憫佳「了解です」
憫佳はその指示に従った。
憫佳が走り去った後,凛は,周囲の野次馬たちのいるところに行った。そこには,フードを被った小芳がいた。その隣には珠莉もいた。珠莉を護衛する連中も数人した。小芳は,片膝をついて,珠莉のアドバイスを耳元で聞いていた。
凛は,路地裏に入って,人混みを避けた。そこに小芳もその路地裏に入った。
小芳「凛,作戦大幅に変更です。やつらは,使節団ではありません」
凛「え?まさか?」
小芳「珠莉の考えですが,どうやら,先兵隊を送りこんで,この城下町でトラブルを引き起こすつもりでしょう。いずれ殺傷沙汰になります。それを理由に,菊峰城の連中は,この梅山城を攻め落とす算段だと思います」
凛「なんと,,,」
小芳「そう考えると,すべて辻褄があいます」
凛「でも,郊外周辺で,大規模の人の動きはありませんよ」
小芳「相手は,あの菊峰城です。S級,いや,仙人クラスがごろごろいてもおかしくありません。何百人も派遣する必要はないはずです」
凛「では,使節団の団長と従者を殺害して,顔を皮膚を剥がして,われわれの部下が,団長になりすまし,この城を去って,途中で盗賊に襲わせて,死亡させるという煩雑な偽装工作は,もう,意味がなくなったのですね?」
小芳「残念ですが,無駄な努力をしてしまいました。とにかく,あの20名の連中をすぐに殺害してください」
凛「梅山城と菊峰城の全面戦争に突入するのですね?」
小芳「はい。勝算は,このままでは,まったくありません。わたしは,今から,水香様を連れ戻しに行きます。われわれが戻るのが先か,菊峰城の本隊が到着するのが先かという勝負です。われわれは,たぶん早くて4日,遅くても5日目には戻る予定です。それまで,凛,なんとしても,この梅山城を守ってちょうだい。
あのヒカルを,明日中に仲間に引き入れなさい。ヒカルには,どんな条件でもOKを出しなさい。天下の処女を与えてもいいし,城主の座を渡していいわ」
凛は,ゴクッと,生唾を飲んだ。
小芳は,超級催眠符10枚を凛に渡した。使い方と有効範囲を説明して,すぐに,水香がいるであろう妖狐族の古里に向かった。
凛は,珠莉がいるところに戻って,珠莉の護衛のひとりに,耳打ちした。その護衛は,すぐにどこかに去っていった。
その後,凛は,最速の速度で,憫佳のいる場所を探した。念話を発しながら走った。今の凛の技量では,半径100メートルの範囲なら,なんとか通じる範囲だ。
5分ほど走って,憫佳の居場所が判明した。
使節団たちは,大富豪の屋敷に住むと云いだし,その屋敷に侵入した。
凛がこの屋敷に到着したとき,この屋敷の入り口は,使節団の連中に封鎖されていた。そのため,憫佳たちはこの屋敷に入ることができなかった。
敷地内から,戦闘する音が聞こえて,屋敷の護衛たちが殺されたようだった。美人の夫人の『助けてー』という悲鳴が聞こえた。
憫佳たちは,強行突破したくても難しい状況だった。凛は,一刻を争う状況だと判断,超級催眠符2枚を取りだして,それを屋敷内に放り投げて,その呪符目がけて火炎弾を発射した。
それと同時に,凛は『退避!』と大声を発して,その場から逃げた。憫佳たちもすぐに反応して,その場から逃げた。
ボォー!
2枚の超級催眠符が空中で発火した。そこから,半径10メートルの範囲で,催眠波動が放たれた。
ドタドタドターー!
敷地内から人が倒れる音がした。
この超級催眠符の威力は,半径10メートルにも及び,かつ,発動後,10分間,その範囲に入っても,催眠の効果が発揮されてしまうというとんでもない性能を有する。
10分後,,,
凛「もういいわ。超級催眠符の効果が切れた頃よ。屋敷内にはいりましょう」
憫佳「了解です。でも,超級催眠符って,すごいですね。非接触でこんなに効果があるんですね。ヒカルさんの符篆術って,ほんと凄いです」
凛「あっ,そうそう,憫佳,あなたには,今から大事な任務を与えます」
憫佳「え? 屋敷内の連中,対応しなくていいのですか?」
凛「殺すだけだから,あなたは必要ないわ」
憫佳「殺す? え? 使節団を殺すのですか?」
凛「そうよ。これから,本格的な梅山城と菊峰城との戦争が始まるわ。憫佳,今から,剣流宗に出向いて,そのヒカルをわれわれの仲間に引き入れなさい。わたしは遇ったことないけど,彼は,仙人クラスなんでしょう?」
憫佳「はい,間違いなく仙人クラスだと思います。そうでないと,こんな高度な呪符,作製できないですから」
凛「そう,よかったわ。とにかく,一刻を争うの。明日にはヒカリを連れてきてちょうだい。ヒカルの要望はすべて答えなさい。城下町の処女をすべてあてがってもいいわ。梅山城の城主の座を渡してもいい。とにかく,明日中に連れて来なさい」
憫佳「え? じゃあ,城主は?」
凛「小芳は,今はもういないわ。大妖怪・水香を連れ戻しに行ったわ。少なくとも4日,下手すれば5日後になると思う。それまで,なんとか,ヒカルの力で,この梅山城を守りたいの。この攻防戦,すべては,憫佳,あなたの双肩にかかっているのよ」
憫佳「・・・」
憫佳は,これまでにない重責を感じた。
憫佳は,強い言葉で返事した。
憫佳「了解しました。では,早速,行動を開始します」
憫佳は,その場から去った。凛と後宮護衛隊たちは,大富豪の屋敷に入って,熟眠中の使節団20名の首を切って殺害していった。単純な作業だった。
夫人は,犯されそうになったが,幸いにも未遂のようだ。夫人は丸1日,目覚めることはない。屋敷の護衛3名は惨殺されて殺されていた。その他,番頭らしき男性,女中2名も殺害されていた。
後宮護衛隊員のひとりが,凛に報告しに来た。
隊員A「凛様,これを見てください」
彼は,通信符を持ってきた。それは,上級レベルのものだった。
隊員A「どうやら,通信符を使用した後があります。この上級通信符ですと,有効範囲は30km程になります。仲間がその範囲にいる証拠だと思います」
凛「なんと,,,30km以内なのか,,,10kmか,,,20kmか,,,ヒカルが来るにしても,明日の夕方になる。となると,,,頼りは,盗賊に扮した後宮護衛隊隊長が,いつ戻るかが鍵になりそうだ。後宮護衛隊隊長は,200枚の爆裂符を持っている。それが頼りだ」
凛は,住民の避難誘導などはいっさいしないことにした。それに人手を避けたくないからだ。
それに,城下町の郊外を防衛している第3から第6分隊の連中には,いっさいの連絡はしなかった。所詮,上級中級以下の連中がいくら多くても,ただ,殺されてしまうだけだ。
この騒動で,野次馬が多く群がった。その野次馬のひとりが,こそこそと人混みを避けて,上級通信符4枚を同時に発動させた。
・・・ ・・・
梅山城から20kmほど離れた場所に,菊峰城の,本来の使節団が待機していた。使節団の団長は,菊峰城・城主の第3夫人の長男・浩三,16歳だ。中級中期レベルの気の使い手だ。
従者は2名いる。源吾と源武,共に30代後半でS級中期レベルだ。
他に,正規の護衛隊が20名いる。いすれも上級の中期から後期の連中だ。
羅針盤を持った通信担当が,団長の浩三に報告した。
通信担当「団長,たった今,偵察員から連絡が入りました。通信符4枚が発動しました」
団長「何?4枚だと?」
通信担当「はい!間違いありません。4枚は,先兵隊全員の死亡を意味します」
団長は,怒るどころか,ニヤッと微笑んだ。
団長「ほほぉ,われわれの意図を素早く読み取ったと見える」
従者の源吾が団長に尋ねた。
源吾「団長,どうされますか?予定通り,明後日に,殴り込みをかけますか?」
団長「明後日では遅い。時間が経てば経つほど対策を取られてしまう。今からすぐに出発だ。夜を歩くぞ。途中,仮眠をとって,明日の朝,9時に殴り込みだ!」
源吾「わかりました。では,30分後に出発するように号令をかけます。ですが,本国に,今の状況を伝書鳩で知らせなくていいのですか? 万一のために,応援を派遣したほうがいいかもしれません」
団長「いや,それだど,俺にポイントがつかなくなる。派遣するのが兄上たちだったら,兄上たちにポイントがついてしまう」
団長は,菊峰城では,次期当主の継承権第3位だ。でも,今回の使節団の仕事で,ついでに梅山城を攻め落とすことができたら,大幅にポイントがもらえる。継承権第1位になることも可能だ。
菊峰城での継承権は,ポイント制になっており,成果に応じてポイントがつく。200点を先に達成したものが,次期城主となる決まりだ。そのため,団長は,今回の,ある意味,単独による梅山城討伐という行動に出た。本来,単独で行動したかったが,松風城には応援要請した。そこに要請したとしても,団長のポイント獲得には影響しない。
通信担当「了解です。応援要請は止めます。尚,すでに隣国の松風城から,200名の応援部隊が出発したと報告がありました。4日後には,梅山城に着く予定になります」
団長「わかった。人数は少ないが,それでも助かる。われわれが梅山城のトップ連中を討伐した後,残務処理を松風城の連中に依頼できるからな」
通人担当は持ち場に戻った。
源吾「今から,強化陣盤を使うのが楽しみです。それを使えば,仙人クラスなんですよ。しかも,上級の連中だって,S級になってしまいます。それが20人もです! どうひっくり返ったって,負けるわけがない。すべての周辺の城だって落とせる武力ですよ。フフフ,一方的な殺戮になってしまいますね」
団長「大妖怪・水香が討伐され,梅山城の第1分隊は壊滅。他の分隊長たちも死亡した状況だ。敵の戦力は大幅に落ちている。今が,絶好の攻め時ではある。しかし,それでも,絶対にうまくという保障はない。慎重にすすめよう」
源吾「はい,団長」
彼らは,出発の準備を始めて,予定通り,30分後に出発した。
彼らは,ここからは,馬車が通れるほどの主要街道は使わない。動向がバレる恐れがあるからだ。
・・・ ・・・
一方,後宮護衛隊の隊長は,部下とともに,梅山城から30kmほど離れた場所で待機していた。もともとの計画では,ここで,盗賊に扮して,城下町から出てくる使節団の護衛隊連中を,爆裂符で皆殺しにするという役割だ。すでに,使節団の団長と従者2名は,殺害されているという前提だ。
ここに,馬に乗ったひとりの後宮護衛隊員がやってきた。彼は,すぐに隊長に報告した。
隊員「隊長,計画が大幅に変更になりました。さきほど到着した使節団は,おとりで,騒動を起こすのが役割のようです。凛様は,彼らを皆殺しにする予定です。
隊長は,爆裂符200枚を持って,すぐに城下町に戻り,城下町の大門を,その爆裂符で敵から守れとのことです」
隊長「なんと,,,そんな危険な役目を俺にさすのか。新婚なのに?」
隊長は,戻りたくなかった。戻れば,超危険な仕事が待っている。なによりも,大門を守れということは,逃げれないことを意味する。確実な死が待っている。
隊長「あっ,俺,別の任務がいいかな? ここからだったら,たぶん,敵を背後からつけるかもしれん。敵が大門に着くのを遅らすことができる」
この言葉に,その隊員はニヤッと微笑んだ。まさに,凛の予想した通りの言葉を隊長が吐いたと思った。
隊員「隊長が,その言葉を発することは,凛様は予想していました。その役割で結構です。その場合,わたしが爆裂符100枚を持って帰ります。それと,敵に遭遇した場合,これをお使いください」
彼は,凛から預かった4枚の超級催眠符を渡した。使い方,有効範囲などを説明した。
隊長「超級催眠符?これって,爆裂符よりもすごいものだな」
隊員「はい,なんせ,これだと,下手な結界は意味をなさないそうです。もし,自分が有効範囲にいる場合,防除結界を10分間,頭部に展開すれば防げるとのことです」
隊長「そうか,,,まだ,大門を守るよりもいいか。わかった。了解した」
隊長は,その隊員に爆裂符100枚を渡した。
隊員「では,わたしは,すぐに馬で戻ります」
隊長「気をつけて戻りなさい」
隊員「はい,たぶん大丈夫です。ここに来るときに,主要街道を通りましたが,それらしき編隊には遭遇しませんでしたから。たぶん,徒歩で脇道を選んでいるんだと思います」
隊長「そうか,,,脇道となると数本あるから,発見が難しいな」
その隊員は,心の中でクスクスと笑った。それを言い訳にして,敵と遭遇しなかったと釈明するつもりだと思った。
彼が馬で去ったのを見て,後宮護衛隊の隊長は,隊員を3班に分けて,他の班に,超級催眠符1枚と爆裂符30枚ずつ渡した。
隊長「敵に遭遇したら,催眠符を放って逃げなさい。それだけで,敵の行動が大幅に制限できるはずだ。爆裂符はできるだけ使うな。逃げる時だけに使用しなさい」
この命令に,他の隊員もかなり安堵した。危険係数がかなり下がるからだ。
ある隊員が質問した。
隊員「あの,,,敵だとどうやってわかるのですか?」
隊長「敵は,馬車を使っていない。でも,荷物は多いので,馬の背に荷物を載せているはずだ。そんなことするのは,敵だと云っているようなものだ。とにかく,荷物を背にして運んでいる馬が指標だ。敵の数は不明だが,20名から200名といったところか?」
3班に分かれた連中は,それぞれ脇道を選んで,梅山城に戻ることにした。
日が沈んで真っ暗になった。でも,徒歩のせいもあり,だんだんと夜道になれていった。
隊長の班には,他に部下2名がいる。日中寝ていたので,夜は寝なくていい。
部下A「このまま敵に遭遇しないで,梅山城に着けばいいですね」
隊長「まったくだ。早く家に帰りてぇー,菊江に会いてぇー」
部下A「ボクも,早く結婚したいなぁー,憫佳さんがいいんだけど,でも,ボクなんか相手にしてくれないんだろうなぁー」
隊長「憫佳は,急にレベルアップした。ちょっと釣り合いがとれないだろう」
こんな話をしながら,歩いていると,遠くから馬のいななく声が聞こえた。
隊長と部下2名は,敵が先方にいると思った。超級催眠符と爆裂符を持っているのは隊長の律だ。隊長は,已むなく部下2名をこの場で待機するように命じて,ひとりで進んでいった。
しばらくすると,50メートルほど先に,馬が樹木に巻き付けられて,テントが張られて,中で休息しているようだ。見張りは4名ほどだ。
隊長は,これ以上近づけないと判断した。そこで,自分の頭部に防御結界を張って,超級催眠符1枚取りだして,転がっている石に包ませた。催眠符を折ってしまうと,その刺激で発動する。つまり,すでに今,効果が発動している状態だ。
隊長は,その石をテントに向けて投げた。さらに,彼は,何もしていない石を別のテントに向けて投げた。テントは,8張りほどあったので,8回投てきすればいい。
隊長は,気の防除を解除した。今は,効果範囲外だ。彼は,ゆっくり近づいた。20メートルほどの距離になったので,そこから氷結の矢を繰り出して,すべてのテントに放った。
だが,いっさい,騒ぎは起きなかった。
隊長は思った。
隊長『え? 超級催眠符の効果が効いたのか?』
石を投げて10分が経過した。超級催眠符の効果は切れた。
隊長は,安全の意味で,自分の体全体に気の防除結界を展開して,さらに近づいた。
バシュー! バシュー!
ひとつのテントの中から,ある人物が現れて,隊長に向かって,氷結の矢が発射された。
その矢は,隊長の防御結界を破って,左腕と脇腹に刺さった。
隊長『やべえーー! しくじったーー!』
隊長は,すぐに後方に引き下がった。幸いだったのは,敵は追ってこなかったことだ。どうやら,敵も,隊長を追えない事情があると判断した。
隊長は,傷を受けた部位に気を流して止血させた。幸い,軽傷だったので,逃げるには支障がなかった。
隊長は,部下2名と合流した。彼は,状況を説明した。
隊長「敵はテントを張って休息していた。超級催眠符を放ち,テントを攻撃した。反応がなかったので,近づいたら,反撃を受けてしまった。1張りのテントに効果はなかったようだ。でも追撃はなかった。無傷の敵は1名か2名のようだ」
部下A「隊長,攻めましょう。ここが勝負です!」
隊長も流れに弱い。
隊長「わかった。すぐに向かおう」
隊長は,40枚持っている爆裂符を3等分して部下に分け与えた。
テントの場所から20メートル離れた場所に来て3人バラバラに分かれて,テントに向けて氷結の矢を発射した。
だが,反撃はなかった。そこで,テントの場所に来て,状況を確認した。
部下A「もぬけの殻です」
部下B「こちら側もそうです」
隊長「敵は寝入った仲間を運んだな?それも近くにいる。三位の構え!」
彼らは3名でお互い背にして気の防御を展開して,徐々にこの場所から退いた。
こうなった以上,深入りはまずい。
彼らは,この場所から去った。
・・・
それを密かに見ているものがいた。菊峰城側の従者・源吾だ。彼だけは,テントを攻撃された時,すぐに,自分の腹部に縛り付けた陣盤を発動させた。これにより,全身への防御結界を2時間ほど持続が可能だ。だが,もう攻撃には使用することができない。
このことは,相棒の源武との約束ごとだ。危険な状況に遭遇した場合,どちらから一方が,貴重な陣盤を使用するとの約束だ。
彼は,前回,敵が去った時,すぐに寝入った仲間を近くの茂みに隠した。今回,敵が3名で戻ってきたとき,敵を迎え撃つことも考えた。だが,万一,しくじった場合,我が方は全滅してしまう。そんなリスクは負えない。幸い,敵も警戒して,去ってくれたので助かった。
翌朝,源吾は,まず源武を無理やり起こした。
源武「うううーー,頭がガンガンする」
源吾「催眠符でやられたんだ。気の調息を行って,頭部にある『催眠の気』を排出しろ」
源武「わかった」
源武は,S級の気の使い手だ。すぐに気の調息を行って,『催眠の気』を排出した。その後,2名で,他の仲間を起こしていった。
2時間後,,,
やっと,全員が,正常の状態に戻った。源吾が敵の攻撃について,石に巻かれた超級催眠符を示して解釈した。
源吾「これは,超級催眠符です。伝説級のものです。仙人・天女レベル,しかも,符篆術に特に才能のある者しか作製ができないと云われています。これ1枚で,金貨2000枚以上はする代物です。敵は,たぶん,先発隊にもこれを放って全滅させたとみていいでしょう。そうでないと説明がつきません。つまり,超級催眠符2枚を使ったことになります。
仙人・天女が,こんな高等な呪符を作製するのは,1日3枚までと聞いたことがあります。しかも,一度,作製すると,1週間ほどは間隔を空ける必要があるそうです。つまり,敵は,あと1枚,持っているかどうかです。
これを防ぐのは,さして難しくありません。頭部に気の防除結界を10分間するだけでいいのです。事前に分かっていれば対処可能です」
団長「なるほど,,,わかってしまえば,恐るるに足らずだな。よし,われわれの行動に大きな変更はない。半日ほど遅延してしまったが,梅山城に向かう」
彼らは,体制を立て直して,梅山城に向かった。
ーーー
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