7話 寿影組の解散
水香がいろいろと暴れている頃,寿影組の新しい組長である禍乱は,金策に走っていた。
禍乱は,乱暴者ではあるが,自分の設定した夢に向かって努力することは忘れなかった。つまり,後宮を作り,天下の美女を集めることだ。でも,そのためには,先立つものがある。お金だ。
女性秘書から,『金がありません!』と正直に訴えられてから,禍乱のたいしてよくもない頭で考えた結果,どこかの知らない城下町でスリをすることにした。
禍乱は,桜川城から,南西100kmほど離れた場所に位置する竹雲城下町で,スリを働いていた。スリをする時は,禍乱は,已むなく,神の力を発動させる。超加速が使える。1日30分だけだが,1日,金貨500枚は稼ぐことができた。
禍乱は,10日ほどかけて,金貨5000枚を稼いだので,一端,寿影組に戻ることにした。
ー 寿影組 ー
久しぶりに戻ってみると,ちょっと,奇妙なことが起こっていた。男連中がまったくいないのだ。でも,仁はいた。そこで,仁に聞いてみた。
禍乱「仁,男連中がいなけど,どうしたんだ?」
仁「え? そうなの? 俺,剣の修行に忙しくて,女性秘書に寿影組を任している。彼女に聞いてくれ」
禍乱「わかった。でも,秘書はどこにいるんだ?」
仁「知らねえ」
禍乱は,組長室に来た。そこでは,世志乃が,ずーっと禍乱の帰りを待っていた。
世志乃「あっ,禍乱,お帰りなさい!」
禍乱「ただいま。やっと戻れた。ところで,男連中がいないようだが,どうしたんだ?」
世志乃「そうなのよ。まるで神隠しにあったみたいなの。秘書も,おかしいと思って,各施設を見て廻ると言って,出ていったわ。もう半日にもなるけど,まだ戻っていないの」
禍乱「どうやら,とんでもないことが起きているようだな。世志乃,一緒に来い。各施設を廻るぞ」
世志乃「はい!お供します!」
禍乱と世志乃は,各施設を廻った。事務仕事は,だいたい女性が担当しているので,実務的な仕事にはほとんど支障はきたしていないようだ。
各施設を廻った後,禍乱と世志乃は,最後に,地下牢に来た。
この時,禍乱は,ここに死体の山があることを瞬時に理解した。
禍乱「どうやら,ここに死体の山がある」
世志乃「え? どうしてそんなことわかるの?」
禍乱「まあ,直感だな。死人の臭いというものべきだ。ん? もしかして,生きているやつもいる?」
禍乱は,奥の部屋に生きている人がいるのを感じ取った。彼は,すぐに奥の部屋に行き,物置の部屋のドアを開けた。
キャーーーー!
世志乃は,その場で腰を抜かしてしまった。ミイラ状の遺体が,理路整然と並べて積み上げられていた。その手前に,ひとりの女性が横たわっていた。女性秘書だ。
禍乱は,秘書を抱き起こして,彼女の体内に気を流した。
まもなくして,秘書が意識を取り戻した。
秘書「え? わたし,,,どうしたの?」
禍乱「それは,おれが聞きたい。これはどういうことだ?」
秘書「・・・」
秘書は,男連中がだんだんといなくなって来たので,おかしいと思い,各施設を巡廻して,ここに来たこと,胸のバカでかい娼婦が,この部屋にいて,彼女と言葉を交わしたと思ったら,意識が無くなったことなどを禍乱に説明した。
禍乱「その娼婦の名前は?」
秘書「知らないわ」
禍乱「でも,まさか,大妖怪自らが,俺のアジトにやって来たとは恐れ入った。フフフ,でも,俺,大妖怪に会わなくてよかった」
秘書「え? それ,どういう意味?」
禍乱「お前,俺の強さ,知っているだろう。俺が大妖怪を殺したら,もとの世界にもどらなくてはならない。俺,まだ,後宮を作っていないし,天下の美女を集めていないからな。大妖怪を殺すのは,その後だ」
秘書「組長,もう少し,頭を働かしてはどうですか? 組長なら,大妖怪を生け捕りにして,配下に収めることだってできますよ。お金だって,いくらでも稼がせることもできますし,天下の美女を集めさせることだって容易でしょう」
禍乱「おっ,そうか?」
秘書は,遺体のミイラを見るのはイヤだったが,直近に見た囚人たちの遺体もそこにはあった。
秘書「あれ? ヒカルの遺体がないわ」
禍乱「ヒカルって,誰だ?」
秘書「12歳くらいの男の子よ。かわいい男の子で,女子の間では,人気者だったわ。もしかして,大妖怪は,ヒカルと一緒に逃亡したのかも?」
世志乃「わたし,禍乱がいるから,他の男性には情が移らないけど,でも,禍乱がいなかったら,ヒカルに一目惚れしていたと思います。たぶん,大妖怪も彼に一目惚れしたのではないでしょうか?」
禍乱「では,大妖怪がヒカルと一緒に行動したとして,やつらは,どこに行ったと思う?」
秘書「たぶん,桜川城下町でしょうね。そこに行けば,仕事を探すのも容易ですから」
禍乱「よし! では,俺もそこに行って,大妖怪を生け捕りにして自分の配下にするか。ヒカルと大妖怪の容姿を説明してくれ」
秘書「はい,では,似顔絵を書いてあげます。もで,一度,組長室にもどりましょう。かなり悪臭が匂いますので」
禍乱は,ニヤニヤしながら答えた。
禍乱「秘書の体は,もう,悪臭で汚染されているぞ。まず,風呂に入って,その悪臭を取り除きなさい」
世志乃「わたし,秘書さんの体,洗ってあげます」
秘書「ありがとう。助かるわ」
・・・
秘書が体をきれいにした後,ヒカルと大妖怪の似顔絵を描いて禍乱に渡した。
禍乱「え? この男,俺とそっくりじゃねえか?」
秘書「そう言えばそうかもしれませんね。でも,雰囲気も全然違いますよ。ヒカルは,そうね,,,超,抱きしめてあげたい男性No.1だと思います」
世志乃「賛成ーー! わたしもそう思いまーす」
禍乱「何? 世志乃は,俺にぞっこんじゃなかったのか?
世志乃「それはそれ,あれはあれです」
禍乱「ふん,まあいい。ヒカルは強いのか?」
秘書「確か,初級の後期だったと思います」
禍乱「なんだ。ド素人か。でも,この凡界ではそれが普通か」
秘書は,直近の直面した問題に話題を変えた。
秘書「そんなことより,組員が大量に死んでしまいました。その補償問題,どうする気ですか?」
禍乱「知らん。お前が考えろ」
秘書「そう云うと思っていました。それで,考えたんですが,女性だけの新組織を立ち上げてはどうですか? それなら,過去の負債は引き継がれません。
商売方法は,同じでいいです。温泉経営,娼婦,人材派遣,家庭教師,,,もっとも,どれも娼婦と同じような仕事内容にはなるのですけど」
禍乱「なるほど。それで進めてくれ。新しい組織名もお前が考えろ。トップはお前がなれ。俺は,いち用心棒の立場でいい。もっとも,後宮と天下の美女集めの夢は捨てないがな」
かくして寿影組は,この時をもって解散となり,新しい組織作りがスタートした。
禍乱は,ヒカルと大妖怪である水香を追って,桜川城下町に向かった。
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