相原さんは斜め上から闘いを挑む
@wlm6223
第1話
日曜日の午過ぎから夕方にかけての、初春の生やさしい日だまりの倦怠の中にいると、翌日の月曜日にはその閑暇は脆くも打ち崩れて、仕事の荒波が押し寄せてくるとはとても考えられなかった。
特にそれが三月も終わりを迎えようとしているこの時期、春の到来をうかがわせる柔らかい陽射しは、より一層無為に過ごす休日の堕落を安穏の休暇へと変えていった。
その月曜日を迎えるのが嫌で、その一瞬一瞬のうちに過ぎ去る間延びした黄昏の時間を、どこかで楽しんでいたのも事実だ。
ああ。毎日が土曜日であればいいのに。
そんな子供染みた考えをおれは反芻していた。
今からか十二時間後には、もう職場で働いており、社員たちのノートPCやらサーバのお守りをしているのか。
おれはそう思うと、今こうしてぼんやりしている一瞬一瞬が毎週の一日だけに与えられた贅沢な時間の過ごし方に思えてきた。
おれが新卒で今の会社、WRAPレコードに入社して三年が過ぎていた。WRAPレコードは創立四十五年の老舗のレコードメーカだ。親会社の日邦テレビの音楽資産でビジネスができるではないか、との思惑で創立され、日邦テレビ関連のドラマ・映画のサントラからビジネスを始め、今は映像ソフト(DVD・Bluーray)も手がけている。九十年代をピークにその売上げを伸ばしてきた実績のある盤石な会社だ。無論、与信調査ではAクラスだ。
おれはその与信Aクラスの会社で社内SEを細々とやっている。
この仕事は全社のPCの保守管理、自社内のサーバの管理、外注業者の折衝、時には自分でコーディングもする。実は多岐な業務を担っているのだ。
もし各社員のノートPCが何のトラブルもなく動き、サーバ類も順調に稼働し、新規開発案件もなく、社内向け情報サービスが滞りなく運用されていれば、社内SEは各サーバのログチェックだけで済む全くの簡単な仕事だ。
が、現実は各社員のPCは毎日何かしらの不調を起こし、サーバは毎日メンテナンスしてやらないと何が起こるか分かったものではないし、社内の業務効率化のために、常に新規情報サービスの開発が行われている。
つまり、端から見れば社内SEはパソコンと遊んでいるだけに見えるのだが、その実は結構多忙なのだ。
そんな訳だから「どうせ暇なんだからPCで困ったことがあれば即システム部へ相談」というのが全社員約二百名の共通認識だった。 システム部といっても部員は竹富豊部長とおれしかいない。たった二人で社内のPCとサーバの保守の一切合切を面倒みるのは無理がある。が、経営側はその業務の多忙を見て見ぬ振りをした。
その気持ちは分からないでもなかった。
システム部のような間接部門に投資しても直接の売上向上にはならない、今のシステムが順調に稼働しているんだからそれで問題ないだろ。そういう認識でいるらしかった。
いや、だからこっちは忙しいんだってば。
そうは言っても「キーボードのキートップが弾け飛んだ」「コーヒー零しちゃった」「マウスが壊れた」等々、毎日何かしらの不具合のフォローをしている。
こういった些末な業務は案外時間をとられるのだ。
その合間に営業サイドの次期売上管理システム刷新の打ち合わせが入り、また別の時間ではサーバの監視業務が続いていく。
幸いなのは、自社内のサーバの外部との接続は、外注業者用の緊急メンテナンスのためのsshだけだった事だ。この一点だけを監視いていれば、まず外部から侵入を試みる不届き者を撃退できる。自社ホームページ用のWebサーバは外注に回し、グループウェアはTeamsでメールはOutlookだ。この三点に置いてだけでも、システム部の仕事はかなり軽減される。特にWebサーバは、常にそれこそ二十四時間三百六十五日の間、攻撃対象となるため、その管理の工数は膨大になる。セキュリティ的にもコスト的にも外注に回した方が得策なのだ
まあ、一応WRAPレコードは親会社である日邦テレビの子会社なので、そういったセキュリティ面でも結構しっかりしている。
ここでちょっと懸念がある。
外部からの攻撃には堅牢に出来上がっているのだが、内部ネットワークのセキュリティはザルなのだ。
約二百名の社員たちはパスワードを使い回しているし(特に部長以上はそうだ)、ファイルサーバもザルだ。経理はAS/400というIBM製の古いサーバを使っている。IT業界の古参から見れば「なんで今さらAS/400?」「懐かしいなあ。九十年代は大活躍していたよ」という年代物のシステムなのだ。AS/400シリーズは一九八八年発表のサーバで、何だかんだで幾度となくバージョンアップを繰り返し、既存ユーザが他のシステムへの移行するのを食い止めようと、IBMも躍起になっているようだ。
しかし、所詮八十年代の設計だ。古色蒼然としているのは否めない。おまけに保守費用もかなり高い。
おれとしてはもっと安価で新しいシステムへの移管を何度も提案してきたが、その度に印税管理部長や経理部長から、いや、経理部全員から猛反対を食らっていた。曰く
「今の仕事を変えたくない」
「慣れちゃったから」
「今までのノウハウが役に立たなくなるじゃないか」
等々……。
良いのか悪いのか、WRAPレコードは創業四十五年になる業界内でも老舗の方だ。つまり、古参社員が多い。古参が多いという事は、つまり最新の仕事術を覚えず、いつまで経っても古い指向で物を考えがちなのだ。
はっきり言って、おれから見れば、そいつらは老害でしかなかった。
おれは上司の竹富部長にその事を何度も零してきた。竹富部長はその外見から「お茶の水博士」の綽名を持っている好人物だ。人当たりも良いし、いつも笑顔を絶やさない。
元々はプログラマで、かつては自分で会社を興した事もある人物だ。つまり、世間の荒波に揉まれた経験もあるし会社組織のあれこれも知悉している。社会人経験三年のおれが刃向かったところで敵う相手ではない。しかし、おれも言うべき事は言うようにしている。それは竹富部長を信頼しているからでもあり、同じエンジニアとして話しが通じる社内で唯一の人物でもあると評価しているからだ。
「まあ、私が引退して、吉岡君が部長職になる時がくるまで辛抱してくれよ」
竹富部長は苦笑いだった。
「私が部長になるのって何年先なんですか? それまでIBMがAS/400の保守をしてくれる公算があるんですか?」
WRAPレコードが直にIBMと保守契約を結んでいるのではなく、実際にはIBMの代理店のJBD社と保守契約をしている。
竹富部長は嫌な笑顔をした。竹富部長は人当たりが良いが自己保身に長けている。コスト削減と自己保身とを天秤に掛けなければならない時は、いつも保身に走る人だ。竹富部長は確かあと五年で定年の筈だ。晩節を汚したくないとの懸念もあるのだろう。しかし、竹富部長が定年する時、おれは三十歳。部長職には若すぎる。
「AS/400も今はi seriesになったじゃないか。それにAS/400は今でも多くの顧客を囲っているんだよ。そうそうIBMもAS/400の保守を打ち切れない筈なんだ。吉岡君も新規システムの代替を考えるよりRPGの勉強をした方が良いんじゃないかな」
RPG? そんな化石言語を習得したところで将来に活かせるスキルになるとは到底思われない。
「竹富部長、世間を見てください。今時AS/400なんて、過去の遺物でしかないんですよ。なんせ八十年代製のサーバですよ? どう見ても新規にAS/400だかi seriesだかを導入したなんて話、聞いた事がありません。うちもいい加減システムの刷新に向けて動いた方が、長い目で見ればコストダウンになるんじゃないですか」
竹富部長は嫌な笑い方をした。この顔をする時の返事は、いつも「ノー」だというのをおれは知っている。
「しかしそれでどこまで役員を説得できるかな?」
そう来たか。他責にする積もりか。
確かにうちのAS/400の業務はWRAPレコードの中枢を担っているのも事実だ。
毎朝午前九時、CDやDVD、Bluーrayの前日の売上データを物流業者のサーバからftpでGETしてきて、売上管理サーバへ転送。売上管理サーバはその前日までのデータをマージして、その月度の売上進捗を経理部へ報告している。ついでに営業部向けの報告もしている。制作部の商品ごとの売上推移も報告している。そこから派生して印税管理部へもその数字を上げている。
実際、WRAPレコードの数字の管理の根幹をAS/400が掌握している。正にAS/400は基幹システムだ。
現状のAS/400のリプレースをしようにも、その波及する部署が多すぎて、いや、社内の全部署に影響が出るので、もし本当にAS/400を他のシステムへ更新しようとすると、まあ間違いなく数千万円、いや億単位の仕事になってしまうだろう。
確かに、これじゃ役員は首を縦に振らないな。
そんな事はちょっと考えればおれにもすぐに分かるのだが、いくら何でも、どういう理由があるにせよ、四十年近く前に設計されたサーバを連綿と保守していくのはどうかと思うのだが……。
「i seriesは多分これからも続いていくよ。IBMもその辺は腹を括っているんじゃないかな。既に市場に出回っているAS/400はもう世の中にがっちり食い込んで外しようにも外せないんだよ。うちの会社もその一つ。吉岡君の言いたい事も分からないではないけど、現実策じゃないんじゃないかな」
「ですがうちの会社の場合、社員への情報サービスが不十分なのではないでしょうか。未だに5250ターミナルエミュレータを使ってますし、あの旧態依然としたインターフェースは現代では馴染みませんよ。これは私見ですが、優秀な若手から早々に転職しているように見えるんです。その一因が社内向けの情報サービスの古さにあると予想してます。この業界に限った話ではありませんが、もう黒バックに緑色の文字で、キーボードを使うターミナルの時代はとっくの昔に終わってるんです。良し悪しは別にして、今はウェブの時代になってマウスでの操作が一般的じゃないですか。それにAS/400から他の基幹システムへ移行するサービスをしている会社だっていくらでもあります。もううちもそろそろ潮時なんじゃないでしょうか」
竹富部長は困惑を明らかに隠していた。
「古いのが難点だと言いたいようだけど、それはそれだけの稼働実績がある、とも言い換えられるよね。WindowsにしろLinuxにしろ、色々代替システムがあるのは知ってるよ。しかしね、基幹システムの更新は、そうそう安易に乗り換えるのが正解とはいえないんだ。お金の面だけじゃなくて、セキュリティ的にも堅牢さにもスポットを当てて慎重に考慮してからでないと、おいそれと基幹システムの乗り換えはできないんだよ」
竹富部長はあくまでも既存の基幹システムの維持を主張してきた。じゃあ逆に他社のAS/400以外のシステムが問題を孕んでいるのか、その検証をちゃんとやった事があるのか、と反論したくなったが、おれは口を噤んだ。
この場は一旦鞘を納めて出直した方が良い。反論の時間はいくらでもあるから、今すぐ反証する必要もないと判断したからだ。
システム部の内線電話が鳴った。おれが出た。
「はいシステム部です」
「営業の小野田です。お疲れ様です」
「お疲れ様です」
「実はちょっと言いにくいんですが」
「何でしょう?」
「ワイヤレスマウスを落っことして踏んじゃったんです」
「ほうほう」
「それで壊しちゃったみたいで……」
「分かりました。換えのマウス、持って行きますから少々お待ちください」
おれは受話器を置いた。
「何の電話?」
竹富部長が不思議そうにおれに言った。
「営業の小野田さんがマウス壊しちゃったそうです」
「あれま」
「今から行ってきます」
「よろしくね」
さっきまで会社の基幹システムの話をしていたところへ、こういった些事が舞い込むのはよくある。話題が大から極小へと移り変わる。こういった事はシステム部ではよくある話だ。
おれはサーバールームへ入った。
サーバルーム内は静かに冷えていた。ただサーバの冷却ファンの音だけが低く響いていた。
48uラック四本を収蔵したサーバルームは、この三月の末とは言え冷房が効いていた。ただ問題なく稼働しているのを示すグリーンのLEDがあちこちに点灯していた。
この部屋は、正しく無機質。
しかし、この無機質を作ったのは人間なのだ。
よく誤解されがちなのだが、無機質なものやコンピュータは人間とは対極にあるもの、と思われがちなのだが、そうではない。
人為的になんとか人間の曖昧さ・不合理さを人手で排除して何とか造り上げたものが、必然的に無機質に感じるものを造り上げたのだ。
それがサーバルームという特殊な環境をいたらしめているだけなのだ。
おれはサーバルームの隅にある備品入れを探って適当にマウスを一個持って営業部のある一階下の三階へ向かった。
これも会社にはよくあるのだが、フロアが違うだけで雰囲気がまるで違ってくる。
人から伝え聞くところによると、その部署の雰囲気や空気の違いはそこの長の人格が色濃く反映される、と聞いた事がある。
四階の一隅にあるシステム部だけがこの「音楽ギョーカイ」とは異質で冷徹なサラリーマン然とした雰囲気を持ち、経理部と営業部のある三階はいかにも「音楽ギョーカイ」といった軽佻浮薄な雰囲気だった。
おれはどちらかと言えば三階の雰囲気の方が好きだった。そういう雰囲気に憧れてWRAPレコードに入社したのも事実だ。
三階は人間の色が濃く、そして陽気で人間の営為が感じられる。サーバルームの雰囲気とはまるで逆だ。
おれが三階へ降りると、おれ一人がまるで異物のように感じられた。が、それにはもう慣れた。営業マンたちもそんなおれを穿った目では見ず「ああ、何かトラブったかな」程度の目線を送ってきた。
おれが小野田さんのデスクに行くと小野田さんは「ごめんなさい。やっちゃいました」
と申し訳なさそうに言った。
小野田さんのデスクの足下にマウスが転がっていた。落とした時に椅子の脚でマウスを踏んづけたようだ。マウスの先端、ボタンがぱきりと粉砕されていた。
おれは内心で「あーあ、やっちゃったか」と思った。備品を壊されても怒りは湧かなかった。どだい、事故は起こるものだ。これがノートPC本体を落とさなかっただけまだ良かった、というのが本音だ。マウスの交換だけで済むなら大して業務に支障はでない。コストも安い。そう判断したのだ。
「新しいの、持ってきましたから、これ使ってください」
「ごめんなさい」
「そんな謝る事じゃありませんよ。稀にある事ですから」
おれは壊れたマウスとUSB受信機を、もってきた物と交換して動作確認した。オーケー。
「ああ。大丈夫そうっすね」
「お世話になります」
「ほんじゃ、これで」
おれはまた四階へ戻ろうとした。
そのとき、経理部の笹尾啓介がおれの元へすっ飛んできた。笹尾は昨年新卒で入社してきた後輩だ。ようやくサラリーマン生活にも慣れ始めてきた新米なのだが、仕事は律儀にこなし、仕事も順調に覚えて行く、所謂「良き後輩」だ。
その笹尾の顔色が悪い。何かトラブったのだろう。
「吉岡さん、大至急でちょっといいですか」
何だ?
「ああ。いいよ」
「ちょっとあっちへお願いします」
おれは笹尾に連れられて経理部のあるフロアの一隅へ連れられた。心なしか笹尾の足取りが重く速い。おれは嫌な予感しかしなかった。
経理部へ着くと経理部員四人が一斉におれ見た。その目つきは明らかに狼狽の色だった。
笹尾が自分のデスクに着くと「これ見てください」とモニタを示した。
5250ターミナルエミュレータは出納記録を表示していた。
それは出金の記録だった。
「これがどうしたの?」
「こんな出金、してないんです」
「していないって言ったって、出金してるじゃないか」
「これだけじゃないんです。アーティストへ支払う印税も、うちの売上金も、丸ごと出金されてるんです」
笹尾の声は震えていた。
「どういう事?」
経理部長播磨啓治が笹尾のモニタを見詰めた。
「どうもこうもあるか。うちの会社の現金、誰かが勝手に持ち出したんだ!」
ようやく事態が飲み込めた。
「まさか」
播磨部長は怒りと焦りの顔をした。
「こんなことができるのは経理部かシステム部の誰かしかいない!」
まさかその犯人がおれだと言いたいのか?
ベテラン経理部員の磯田雄三が身を乗り出した。
「要するに誰かうちの会社の金を盗んだようなんだ」
そんなことが本当にあるのか? 磯田さんは続けた。
「調べた限りでは今月だけで約二十五億六千万円が出金されているようなんだ」
約二十五億六千万円? うちの会社にそれほど現金のプールがあった事の方が驚きだ。
そのとき竹富部長がすっ飛んできた。
「みなさん、分かる限りでいいので現状を教えてください」
竹富部長はいたって冷静だったが、いつもの笑顔は消えていた。
磯田さんによると今朝の十時過ぎ、つまり定時に今年度のバランスシートのチェックを始めている時に気が付いたという。
具体的にはAS/400で計算した結果、どうも今月度の数字が例年より異常に低いのが判明した。
時期は年度末である。予算達成のため営業マンが無理をして売上を立てる月だ。金額が少ないなんてことはあり得ない。バランスシートは売上金のみでなく出金についても精査するので異常に気が付いたという。
もしかしたら笹尾君のオペレーションミスではないかと磯田さんは疑ったが、どこにも笹尾君の瑕疵が見付からなかった。
数字の根拠を求めてあらゆる伝票データと照合していた結果、今日の午前五時、つまり夜間バッチが終わってしばらくしてから大量の出金が確認できたのだ。
最初は一件二件程度のミスではないかと疑ったが、それでは釣り合わない。よくよく精査してみると、あちこちから出金の記録が見付かった。
これは明らかにおかしい。
その出金先も「BITNABCE」「HiBTC」「Polonix」等、既存の取引先にはない名前だった。
磯田さんがググったところ、それらは仮想通貨Moneroの取引所だと判明した。Moneroは匿名性が高い事で有名だ。
犯行はこの時点で計画的だったと予想された。
「やられましたね。まさかうちがサイバー犯罪の標的になるとは思ってもみませんでした」
磯田さんの声は冷静だったが顔色は蒼白だった。
笹尾君の判断は早かった。
「すぐに警察へ通報しましょう。通報は早ければ早いほどいい」
そこに播磨部長が釘を刺した。
「いや、役員に報告してからだ」
「それじゃ犯行の証拠隠滅の時間を犯人に与えてしまいませんか」
笹尾君は若輩ながら自分の判断を述べた。笹尾君はデジタルネイティブと言ってもいい世代だ。その判断は旧弊なサラリーマン社会とは合致しない時もある。まだ若いからこその時流に乗った判断が下せるのも事実だ。
播磨部長は笹尾君を睨み付けた。
「いいか。こういう会社の事件はまず役員に報告してから行動に移すのが基本だ。根回ししている時間がない。磯田、被害額の精査を頼む。竹富さん、犯行の痕跡の保全をお願いします。サイバー犯罪なら何かしらの証拠が残っているものなんでしょ」
竹富部長は頷きながら
「アクセスログが残っているでしょうから、それらをとっておきましょう。吉岡君」
急におれに話が振られた。
「全サーバのログのバックアップを頼む。それと社内の営業実績を示すサーバ、緊急メンテと言う事でサービスを一時中断してくれ」
「分かりました」
今のおれにはそれしか言えなかった。
播磨部長が全員に宣告した。
「これから臨時の役員会を招集する。これから役員のスケジュールを押さえるから日時が決定次第、みんな集まるように」
その場の全員が頷いた。
警察へ通報するよりも役員への報告を優先するのがおれには引っかかったが、サラリーマンとはそういうものなのだとおれは自分に言い聞かせ、本心では腑に落ちないが自分を納得させた。
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