子供はゆりかごに

シュンスケ

「赤ん坊はツェツィーリア」ハンナ・グリューネヴァルト(幼年学校4年生)(帝国崩壊の淵で)


 わたしたちの町にローリエン王国を筆頭とする連合軍の兵士がやってきたのは、公歴1345年の五月のことでした。

 母は産後で小さな赤ちゃんを抱いて寝ていました。妹のイルムガルドは母のマネをして人形のツェツィーリアを抱いて遊んでいました。


 最初にやってきた連合軍の兵士たちは、「チム、チム」と言って、時計をせびり取りました。次にやってきたときは夜でした。

 そのころわたしの家には戦争で家を失った三世帯の家族が暮らしていました。連合軍の兵士たちは、おばさんやお姉さんたちの中から、気に入った女の人を選び出して外へ連れていきました。わたしの妹も選ばれて連れていかれました。

 帝国軍親衛隊だった兄のおさがりを着ていたわたしを、連合軍の兵士たちは男の子だと思ったようでした。だから連れて行かれずにすみました。赤ん坊を抱いた母も連れて行かれずにすみました。わが家で連れて行かれたのは、イルムガルドだけでした。妹のイルムガルドはたったの4歳だったのです。

 連合軍の兵士たちは悪魔でした。毎晩やってきて女を選びました。中には、こんな仕打ちをうけ、傷心のあまり廃人同然になってしまう人もいました。


 ある晩、連合軍の兵士に連れて行かれたきり、朝まで妹は戻ってきませんでした。

 朝になると、わたしは外に出て、妹を探して町中を歩き回りました。

 最初はそれが妹だとは気づきませんでした。道端にはいたるところに死体がゴロゴロしていたのです。用済みになってしまった道具かなにかのように、妹は道端に捨てられていました。手にはもげた人形の腕をにぎっていました。


 この知らせに母は打ちのめされました。母は口をきかず泣くこともなく、ただひっそりとうなだれていました。

 そのあと、赤ん坊はツェツィーリアと名付けられました。



【おわり】

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る