第21話 魔の森へ


 調査隊の生き残りであるタニスから、とんでもない情報がもたらされた。


 モンスターは生まれるのではなく湧くポップする

 まったく謎であったモンスターの生態が、ひとつ明らかになったわけだ。


 まあ、ケンタウロスとかマンティコアとかアルケミーとか、どう考えても生物としておかしい造型のモンスターとかだっているしね。

 母親の体内から産まれるわけでも、卵からかえるわけでもなかったってことだ。


 どうして湧くのかって部分は不明だけど、そこはべつに知る必要はない。いや、もちろん長い目でみればちゃんと研究した方が絶対に良いんだけどさ、それ以上に大事なことがあるんだよね。


 つまり、モンスターの湧き出す場所を破壊する。

 これでポップは止まるんだ。

 研究でも調査でも、あとからいくらでもすれば良い。


「仮称『ゲート』を破壊する。投入するのは全戦力。これが骨子だ」


 ダンブリンが告げ、騎士たちが頷いた。

 もちろん私も。


 とにかく、モンスターが際限なく湧くってのはまずい。

 こっちは生きてる人間なんだ。疲労もすれば消耗もするんだから、永遠に戦い続けるってわけにはいかないのだ。

 ようするに、消耗戦になったら絶対に勝てないってことである。


「とはいえ、ポップする間隔はだいたい掴めてはいるよね」


 半ば挙手するようにしてブラインが発言した。

 そう。

 そこが唯一といって良いくらいの、私たちに有利なポイントである。


 今まであったモンスターの襲撃から逆算すれば、どのくらいのペースで湧いているのか割り出せる。もちろん、だいたいこのくらいーって感じになってしまうけれども。


「こちらに生き残りがいて情報を持ち帰ったはず、と、敵が考えたなら、間違いなく防衛に動くだろうな」

「タニスは死んだふりでやり過ごしたと言っていました。生き残りはいないと思ってるんじゃないです?」


 ジョンズの見解にメイファスが首をかしげる。

 死んだふりっていうか、間違いなく半死半生だったけどね。

 私もメイファスと同じ意見だけど、それは希望的観測っていうものらしい。


 大丈夫なはず、敵は気づいていないはず、というのを前提に作戦を立てるわけにはいかないんだそうだ。

 魔王軍はゲート防衛に動く、これは大前提なんだって。





 コロナドに残るのはダンブリンとジョンズ。あとは学者とか老人とか女子供とか、あきらかに戦えない人たちだ。


 十三人にまで減ってしまった月影騎士団と、メイファス親衛隊の中から屈強な男たち、そして私とフリック、さらには聖女メイファス。まさにほぼ全軍でゲートを破壊に行く。


 後日に備えて戦力を残しておいた方が良いんじゃないかって言ったんだけど、ダンブリンは笑って答えたものだよ。


「魔王軍が私たち人類に後日なんてものを用意してくれるとは思えないさ」


 とね。


 そりゃそうだ!

 魔王軍との戦いなんて常に背水の陣。


 勝って生き残るか負けて死ぬか、二つに一つしかないんだよね。

 降伏するんで許してくださいー、なんてのが通用する相手じゃない。逆に、モンスターが白旗を振って降参したってそんなの信用できるわけもない。


 つーか、共存できるなら、不倶戴天の敵だなんていうわけないしね!


 というわけで、騎士が十三人、志願兵が三十六人、私とフリックとメイファスっていう最大戦力が、会議の翌日には進発した。

 これもまた、時間をかけて良いことなんかなにもないっていう判断の下だね。


 全体の指揮を執るのはアイザック。

 その横に聖女と元聖女が立つわけだから、どんな勇者も果たせなかった偉業を果たしたことになるよね。


「理屈ばっかり多い俗物の元聖女と、経験不足の子供でしかない現聖女のおもりですから、アイザック卿の胃に穴が開かないか心配ですね」

「よおしフリック。ケンカだ。ちょっと面貸せや」


 きゃいきゃいと騒ぐ私とフリック。

 周囲の人たちが笑っている。


 緊張感があんまりないのは、コロナドの良いところだろう。

 人類の未来をかけた悲壮な戦い、なんてのが似合う柄じゃないからね、みんな。


 泣いても笑っても同じなら、笑っていた方が良いさ。

 

 ゲートの位置は、魔の森を二日くらい進んだ先である。

 かなり正確な位置情報は、調査隊の命をかけた贈り物だ。

 これを活かさないなんて許されない。


 ただ、五十人に届こうっていう超える人数での進軍だから速度そのものは出せないので、三日くらいはかかるだろうと予測されている。

 しかたないね。私やメイファスは足引っ張りだし。

 

「わたしはユイナより体力あるけど?」

「く……これが若さか……」

「三つしか違わないじゃん」

 

 やれやれと両手を広げるメイファスだった。

 そんなこんなで野営一回目。

 さっそく事件が起きる。

 

 

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